好意
フィーリング
※blです!
「俺がいたら迷惑?」
本を読む僕の腕に背中を預け、頭を肩に乗せながら彼は言う。頬にあたる猫っ毛がこそばゆい。こんな質問をしておきながら、彼は一向に退く気配はない。ツッコミ待ちか、とも思える状況だが、これが彼の普通なのだ。意図的か、はたまた天性のものなのかはわからない。とにかく彼は人に取り入るのが上手かった。かく言う僕も、その魅力に当てられた一人と言える。
「そんなことないさ」
手元の本に目を落としながらも僕は彼に返答する。体勢からして表情は見えないだろうからと意識して、声をふわりと浮かばせる。
「あんたは建前が上手いから、不安になるよ」
それが真意なのか、それとも単に軽口の延長なのかはわからない。
「そんなことないよ。いつも本心で話しているさ。ただ揉めごとは嫌いだから、少しだけクッションを挟んでいるだけだよ」
「俺と揉めるのも嫌?」
「ん?」
「嫌?」
「・・・君と揉める、のはちょっと想像できないな。でも、その結果嫌われてしまうのだとしたら、避けたいとは思うかも」
「はは、想像できないんだ?」
肩の重みが少し増し、嬉しそうな声を出す。
自分は一体どこを読んでいただろうか。もう一度ページの始めから読みなおす。
「まぁ君が駄々をこねるのは目に見えるけど、何だかんだ、引き際はわかっているだろう?」
「駄々って。俺は子供か」
「今みたいに素直に相手の気持ちを聞けるとこ、僕は好きだよ」
「・・・褒められてるのか馬鹿にされてるのか、わかんねえな」
「また卑屈な捉え方をする」
「あんたの言い方が悪いんだろう」
「ふふ」
「・・・ちなみに、俺はまあまあ楽しいと思ってるけど」
肩の重みが消えた。体勢を変え、顔を覗き込むようにして彼は言う。近い距離に胸が跳ねた。しかしそれを悟られぬよう心がけ、目線を上げて同じように見つめ返す。近くで見るとやや茶色めいた瞳が、表情を掴もうと真っ直ぐにこちらを見つめている。そうやって、相手の反応に怯えることなく真摯に受け取ろうとする所も、好ましいと思ってる。
それでも。
「ああ。僕も楽しいよ」
僕はにっこりと乾いた笑顔をつくって返す。
何度読み返しても、文章は頭からふわふわと消えていく。ひと思いに閉じてしまいたい気持ちをぐっとこらえてそう答えた。
彼は言葉の真意を探るように僕を更に見つめ返す。
そして、ふぅと息を吐きながら目線を外し、また同じように僕の肩に背をもたれる。さっきよりも増しているその重みに、僕もそっと息を吐いた。
再び本へと視線を戻し、またはじめから同じ文字列を読みなおす。
「やっぱり俺はあんたといるの好きだな」
その言葉に息が不規則になった。
ああ、人の気も知らないで。
好意を向けられると逆に冷める人。
それを察してビビってる人。