表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/54

俺とバルーフ

「で、名前なんて言うの?」

「ああ……、そのことなんだが。お前が新しい名をつけてくれないか」

「は? なんで? 爺さん名前つけてなかったの?」

「いや、真名はさすがに呼ばなかったが仮名はつけてくれた。でも敬一郎がおれたちをお前に託したのなら、おれのいまの主は《幻獣憑き(ファンタジア)》お前だ。だからお前からの名が欲しい」

「ああ、そういう。あー……、じゃちょっと待ってて」

「? ああ」


 ちょっと待っててもらって、着ていたパーカーのポケットの中からスマホを取り出す。まず暗証番号をタップして、次にこの龍の名前に相応しそうな単語を考える。その間、龍が不思議そうにこっちを見ていたがわざと気づかないふりをしてやりすごした。


 説明がめんどいなんて思ってないよ!! ちなみに、《幻獣憑き(ファンタジア)》というのは《幻獣ファンタジー》を持っていても仕事に使わない者たちの総称らしい。俺隠居してるしね! 仕事する気ないから安心して! おい、ニートとかいうな。その点爺さんは戦争に《幻獣ファンタジー》たちを連れて行って戦果を挙げたとか書いてあったし《幻獣遣い(ファンタズマ)》だったんだな。


 15年、15年こいつはたった1人であの荒れた《幻想庭ガーデン》にいた。いつ来るかもわからない爺さんを待ちながら。ずっと、爺さんが仲間を、家族を取り戻して戻って来るのを信じて。約束が果たされるのを信じて。だったら、こいつはもうちょっと幸せになったほうがいい。こいつの名前は祝福を受けた方がいいんだ。ああ、そうだ。ならこいつの名前は。スマホをタップして調べる。一番上に出てきた名前を、こいつに告げる。


「あんたの名前は、バルーフ。祝福されたことを示す名前だよ」

「バルーフ……」

「痛っ!?」


 ちくりとした痛みが俺の指輪をはめた方の親指を襲う。スマホ取り落としそうになった、やべえ。じゃなくて、先の細い注射で刺されたときみたいなかすかな痛みだ。ふっと龍……じゃなくて、バルーフは驚きをこめた小さい声で呟くとまるで全身の力が抜けてしまった時のようにがくんと片足を立てて跪く。


 そっちもそっちで気になったけど、親指の痛みはどうしたのかと思って見ると指輪の宝石が赤く染まっていた。まるで血を溶かしたみたいに。バルーフが跪き頭を垂れてから数秒後、ぼうっと床が光りだして俺とバルーフを内包した魔法陣が浮かび上がる。


 なにがなんだかわからなくて挙動不審になっている俺を、バルーフは顔をあげにこりと涙にぬれた頬で笑ったあとに空気を介さない声で叫んだ。そのくせ大気が震え、カーテンがなびきオープンウインドウががたがたと揺れる。


「バルーフ?」

【我が名はバルーフ、意味は祝福。我が主、片倉クロエの名のもとにいま。主従契約は成された!!】

「バ、バル」

【アジ・ダハーカの名を捨て、我はいまから。片倉クロエの《幻獣ファンタジー》となり、剣となり盾となり矛となり主の生がついえるその瞬間まで尽くすことをここに誓う!】


『名は特別なものだ』そういやそんなこと言ってたよなあなんて、ごっそりと身体の中からなにかが抜け落ちていく感覚にめまいがしながら俺は。

 アジ・ダハーカってたしか邪悪な龍とか言われてなかったけ? こいつ全然邪悪じゃないじゃんとか爺さんの≪幻獣ファンタジー≫に認められてうれしい気持ちとかいっぱいのまま、眠い意識を暗い暗い闇の底へとあわてたように手を伸ばしてくるバルーフを見ながら落としたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ