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沙州遊行記~紅砂の城市~  作者: 天水しあ
巻の六「夜更けの潜入」
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「苦しい決断」

 気づいたら室内にいた。

 珂惟かいが自分を抱え、僧房の一つに飛び込んだのだ――悟った茗凛めいりんの目の前で、バタンと扉が閉められた。外からは「ふざけやがって!」「逃げられると思ってるのか!」といささか慌てた声とともに忙しい足音がこちらに乱れ近づいてくる。

 床に這いつくばったままの茗凛に対し、珂惟は素早く起き上がって扉を閉め、背を預けていた。その意図に気づいた茗凛はすぐさま身体を起こし、同じく扉を押さえる。内開きなのでこれで凌げるだろう。だけど――多勢に無勢すぎる。

「茗凛」

 心の内を見透かされたかのような静かな声。

 導かれるように、隣の珂惟が指さす方向に目を向ける。そこには、背丈ほどの高さに、打ちつけてあるはずの板が外された窓があった。

 不穏な喧騒が近づいてくる中、珂惟は右の口角だけを上げてにやりと笑うと、

「最後に手抜きしたな。この部屋だけは、窓に板がはめてあるだけだった」

「おい、逃げられると思ってるのか!」

 怒号とともに、ダンダンと扉が叩かれ、押される。扉越しにでも突き上げてくるもの凄い力にふっとばされるかと思った。木製の扉がありえないくらいにたわんでいるのが分かる。二人は必死に体重をかけて扉を押さえるが、力づくで開けられるのが早いか扉が破られるのが早いか――いずれにしても、それがすぐさま訪れることは間違いないといえた。

 珂惟は必死に背でそれを押さえながら茗凛に目を向けると、

「おまえなら行ける。そこから外に出て、人を呼べ!」

「そんなの――できるわけない!」

 珂惟を置いてなんて!

 ダンッダンッ、激しくなる音とともに、扉のしなりがひどくなっていく。そのたびパキだのメリだの穏やかならない音が耳に飛び込んで来る。これ以上は無理! という力を背にかけて扉を押さえるが、無駄な抵抗だというのは余りに明らかだった。

「無理だ。頼む行ってくれ。もう持たない!」

「だけど!」

 バキッという音とともに、木片が降ってきた。上の格子部分が破られたのだ。下の板部分もめりめりと鳴り、ひびが入っていく。

「茗凛!」

 得物を打ち付けているのだろう、ガンガンガンと音が鳴るたび、格子が割れていく。振り仰ぐと「いいかげん諦めな」「怪我する前に出てこい」などと囃し立てる男たちの顔が、醜悪な笑みで満たされているのが逆光でもはっきり分かった。

 ここが破られたらどんなひどいことをされるのか――そう思うとぞっとする。あの、蝦蟇蛙のいやらしい粘っこい笑い声が聞こえてきたからなおさらだ。

 茗凛は心を決めた。



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