「脱出!!」
どうしよう……。
再会の喜びもつかの間、茗凛は大いに困っていた。
上座と珂惟のやりとりを見守る隣室からの視線――彼女たちはみな、期待に満ち満ちた目をキラキラとさせている。これは間違いなく「自分たちをここから助け出してくれるんだ。今すぐに」と信じている目だ。「今日は様子見なんです」なーんて言おうものなら、泣き叫びかねない。「すぐに助けに来ますから」と言ったところで、なんの慰めにもならないし、そもそも信じてもらえるかどうか……。
ちらりと、傍らで跪いている珂惟に目を投げる。
上座しか目に入っていないかと思いきや、彼は一瞬だけこちらに目線を返してきた。
その目が語ったものに――茗凛は「やっぱり」と思う。
無茶だよ何の準備もしてないのに、こんなに大勢いるのに……そう弱気になりかけた自分を怒鳴りつけた。ここまで来て、いまさら何言ってるのよ自分。そう、ここまできたらもう、やるしかない! ぐっと唇を噛む。
茗凛の心の移り変わりをまるで見ていたかのように、茗凛が覚悟を決めた直後、珂惟は居住まいを正して言う。
「詳しいお話はまた後ほど。――お救いに参りました。そちらの女性たちも、ご一緒に」
「うむ、頼む」
厳格な上座の目にも安堵の色が浮かぶ。こんな、日もあたらないところにずっと閉じ込められて辛くないはずがない。一日、いや一刻だって早く出たいと思うのは当然だ。その証拠に、上座が珂惟の言葉を訳し伝えたのだろう、女たちは抱き合ってすすり泣いている。思わずもらい泣きしそうになった。そうして、思わないではいられない。
絶対に、無事に連れ出して見せる! 茗凛は改めて固く決意した。
隣を見たら、珂惟もこちらを見ている。小さく頷いてきたので、頷き返して見せた。
部屋の鍵は、寺の懲罰坊という性格上なのかただの閂だった。手前と奥、二つの閂を茗凛と珂惟で同時に引き抜くと、待ってましたとばかりわらわらと出てきた女たちは、自然と上座を囲む形をとる。長い監禁生活の中、彼女たちが上座を拠り所にしていたことがよく分かる光景だった。
上座は彼女たちに順々に目を投げながら、何事かを言う。茗凛も胡語は分からないが、「大丈夫だ。静かに、私の後に続け」と言っているのだということはなんとなく分かった。
女たちはその数、十人余り。中には衰弱しているのか立っているのがやっとという者もいたが、それは他の女たちが支えている。みな漢人とは髪と目、肌の色が違う西域の女たちだった。
「俺が先に行きます。茗凛が合図をしたら、ついてきてください」
「分かった。ここからはおまえの言うとおりにしよう」
茗凛に蝋燭を預け、珂惟が来た道を足早に戻っていく。行き先を照らそうと後を追った茗凛の先で、闇の中でも周囲が確実に見えているのか、はたまた道を覚えてしまったのか、珂惟はためらいなく先を進み、するすると梯子を上っていく。
来たときと同じように蝋燭を渡し渡されしながら、二人は階段を上り、ついに珂惟が一階に辿りついた。彼は蝋燭を傍らに置くと、手を伸ばし、
「掴まれ」
言われるまま茗凛が手を伸ばすと、そのまま強い力で引き上げられた。
再び見た僧坊内は、変わらず青白い光で照らされている。
「外を見てくる。大丈夫だったら合図するから、上座たちを……」
その時。
廊下の奥でギラリと光るものがあった。と思ったとたん、カランと乾いた音。
珂惟が肩越し、素早く振り返る。
見れば、内側から刺していたはずの木製の閂が、真っ二つになって床に転がっていた。




