「謝罪」
翌朝、茗凛は霞祥と並んで歩いていた。たわいのない話をしながら、道を上がっていく。霞祥はなにごともなかったかのように茗凛に笑いかけ、また笑わせようとする。霞祥の気遣いを感じながら、これがもともとの日々だったんだと茗凛は思った。あの二人が長安から来る前、いや彩花が一座に出入するようになる前はこうやって、二人で参拝をしていたのだ。
だから――あるべき日常が、帰ってきただけ。
角を曲がると、規則正しい箒の音が聞こえてくる。
その音が突如止んだ。顔を上げると、珂惟がこちらを見ていた。
「おはよ」
茗凛が声をかけると、同じ言葉が返ってくる。そして「じゃあ後で」と言って、彼は再び箒を動かし出した。
門をくぐり、本堂の階段を上がる。堂内に満ちる白檀の香りを胸いっぱいに吸い込むと、少しだけ心が軽くなる。対峙した観音菩薩に一心に手を合わせると、心が静まる気がした。
お参りを終えて本堂を出る。霞祥となんとはない言葉を交わしながら歩いていると、
「茗凛さん」
背後から呼びかけてきたのは琅惺だった。すかさず霞祥が「外で待ってるわ」と言い残してそっとその場を離れる。そんな霞祥を丁寧な礼で見送ると、琅惺は茗凛に向き直り、
「色々と、申し訳ないことをしました」
深々と頭を下げた。周りの参拝客が「何事?」とばかりにこちらを見ているので、茗凛は小声で、「琅惺さん、人が見てるから頭あげて」と早口に言う。琅惺はその言葉に従い頭をあげたものの、沈痛な面持ちで言うには、
「――私の浅慮で、茗凛さんに嫌な思いをさせてしまいました。本当に申し訳ないことをしました」
「いやあの別に、『下等な踊り子が』的発言はよくされることだし、そんなんいちいち気にしてたら生きてけないし、まあ――私も頭良くないから、早いトコ本当のことが分かってよかったっていうか……。うん、だから気にしないで」
琅惺が余りにも深刻な顔をするものだから、励ますつもりで茗凛は明るく言った、はずなのだが、琅惺の顔はますます曇る。なんだか、痛々しい気持ちになってしまい、
「そっちのほうこそ、大変だった、でしょ? 物置に閉じ込められたりなんかして、あの上座にねちねちいたぶられたんじゃないの? お兄ちゃんも口うるさかっただろうし」
茗凛の言葉に、琅惺は小さく笑い、
「まあ、そういうのを気にしていたら、生きていけないし。だけど思按さまは、私を責めはしなかったよ。それが却って、申し訳ない気持ちになってしまった。私の考えが至らなかったばかりに、いろんな人に迷惑をかけてしまった。茗凛さんだけじゃなく――」
背後からわざとらしい咳払いがする。揃って振り返ると、そこには苦い顔をした上座と、後ろに控える思按の姿があった。
上座はゆっくりと茗凛と琅惺の顔を見比べ、
「境内で特定の女性信者とばかり言葉を交わすことは感心せぬな。要らぬ誤解が騒動の元になることは身に染みて分かったかと思っていたが」
そう言うと、まだ涼しい朝方だと言うのに額に滲む汗を払うように、手にした扇子をバタバタと揺らす。琅惺は深々と頭を下げ、
「昨日の騒動を詫びておりました。みなさまにご迷惑をおかけし、本当に申し訳ございません。自分の言動を省みて、今後一層身を正してまいります」
「まあ、そのことだがな」
上座がさらに扇子をバタバタと揺らす。揺らしながら、
「こういう騒動になったことだし、そろそろ長安に帰ってはどうか? 世の中、口さがない者は大勢いる。あることないこと噂され将来に障ることになっては、そなたを慈しんできた大覚寺の上座に申し訳ない。昨日も申したが、ワシが一筆添えてやるから」
「それは――」
琅惺がさっと顔色を変え、言葉を詰まらせた。
そのとき。




