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沙州遊行記~紅砂の城市~  作者: 天水しあ
巻の一「都から来た少年」
1/68

「前夜」

 月満ちる夜――。


 しかし見事な満月を仰いで心清しくする者は、いない。なぜなら強い風に巻き上げられた砂が視界を遮り、あらゆる隙間から体中に入り込んでくるからだ。

 しかしそんな中でも、外に出なければならない者はいる。

「今、なんか聞こえなかっ、た?」

 砂を食まないように固く口を閉じ、就寝を告げる鈴を振り歩いていた剃髪の少年が、口中で呟き、足を止めた。

 と同時、ほんのひととき風が止む。月明かりが照らし出す広い境内に長々と延びるのは、ただ一人分の影。

 少年僧は恐る恐る振り返った。

 そこには青白い月を背にした一棟の建物が、飲み込まれそうなほど深い闇色をして、そびえ立っている。


 一陣の風。


 ガシャンっと鐘の音。

 意味不明な叫び声。

 彼は走った。ガタガタと震える手でかんぬきを抜き、門を押し開き、そのまま外へ飛び出していった。一度も振り返らないまま。

 吹きつける砂塵が、地に立つ全てを荒々しく打ち付けている。そんな中、ゴオと唸る風に、門扉がギイギイと、不気味に揺れていた。

 門の上に掛けられた扁額へんがくにおぼろな月光があたり、草書体を鈍く浮かび上がらせる。

 

浮かび上がった金文字――それは『法恩寺』。

 




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