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第4話 ガーゴイル

 ゴーストに転生してどのくらい経ったかは分からないが、段々と接触と非接触の状態の切り替えは慣れてきた。

 

 ギャーゴは俺の元へと降り立った。

 そして、鋭い爪を携えた手で、俺の体を鷲掴みにする。


「これから集落へ飛んでいく!5分足らずで着くが、落ちるんじゃねえぞ?」

「それはお前のさじ加減だろう?」


 ギャーゴはそれ以上は何も言うことなく、飛び立った。

 砂埃が目に入り、思わず非接触状態に切り替えそうになったが、ここで切り替えれば俺は真っ逆さまだ。

 ギャーゴが巨大な翼で優雅に飛んでいた。

 意外と凄まじい音がする。


 あっという間に、第12ダンジョンの背後に聳え立っていた岩壁を超す。

 そこには、見渡す限り、美しい光景が広がっていた。

 草原、森、川、湖、街並みまで見える。

 ギャーゴの乗り心地(掴まれ心地?)も悪くない。


「ゴーストを運ぶのは生まれて初めてだなァ!」

「俺も…こんなに優雅な空の旅は初めてだ」

「ところでお前…名前ァなんつーんだ?」


 名前…名前か。

 そういえば、この世界での俺の名前はなんだ?

 人間だったころは、宇崎佑都でやってきた。

 生徒たちからは宇崎先生とか、ウザッキーとかのあだ名で親しまれていた。

 ウザッキーってなんやねん!って最初はなったけどな。


「名前か…前世での名前は宇崎佑都だ」

「ウザキユート?なんだそれ、変な名前だな」


 まあ人間とガーゴイルじゃ名前の価値観が違うのは当然か。

 さて、名前…どうしようか。

 幽霊…ゴースト…お化け……んー。


「!?」


 そのとき、ギャーゴに異変があった。


「ウザキュート!しっかり掴まってろ!」

「え?」


 その直後、ギャーゴは先ほどまでとは比べ物にならないスピードで、眼下に広がる森めがけて急降下した。

 おおおおおおおおお!なんかすごい!ジェットコースターよりすごい!

 そして、何かが目の前を通り過ぎた。棒状の何かだ。


 訳が分からないまま、俺たちは森の中へと降り立った。


「おいおい突然どうした。腹でも痛いのか?」

「人間だ、お前ァ分かんねえと思うがな、俺たちガーゴイルっつーのは人間に狙われやすいんだァよ!」

「そうか、さっき見えたのは矢か!」


 おそらく飛んでいるガーゴイルを撃ち落とそうと、人間が矢を放ったのだろう。

 なんというか、その辺の狩猟精神みたいなのはこの世界の人間にもあるんだな。


「どうすんだよ」

「大丈夫。この先の抜け道を通っていけば――――」

「待ちな」

 

 誰かの声がした。

 あたりを見てみると、何かに囲まれている。

 木の上だの、根っこの傍らだの、小さい何かがいやがる。


「なんだ?誰だ?」

「オラたちのことを知らねえとは、あんたら田舎者だな?」


 たくさんいるうちの一人が、俺の前に立ちはだかる。

 それは、俺よりも背の低い、小さな悪魔のような姿をした魔物だ。


<これはインプです。魔物の中ではあまり強い方ではありませんが、集団での奇襲を得意とします>


 親切にどうも、話手(ガイド)さん。

 ギャーゴが面倒くさそうに舌打ちをしたのが分かった。


「お前ら!やっちまえ!」


 一人のインプの声で、あたりを囲んでいたインプたちが一斉に攻撃を仕掛けてきた。

 片手には小さなフォークみたいな武器を持っている。

 なんだっけあれ、三又だっけ?


 ギャーゴは襲い来るインプを、爪の一振りで吹き飛ばす。

 背後から襲ってくるインプには、太い尻尾をたたきつける。


「おっ!お前、結構強いんだな」

「そんなこと話してる暇はねーぞ!こいつらがいるってことは……ウザキュート!俺についてこい!」


 そう言って、ギャーゴは襲い来るインプを薙ぎ払いつつ、森の奥の方へと走っていった。

 俺も続けてギャーゴを追う。

 インプ共は俺に攻撃を仕掛けるが、今は非接触状態。

 インプの攻撃は一切俺には通用しないのだ!




 暫く逃げ続けるが、インプはまだ追ってきている。

 しかし、明らかに数が減っている。

 インプは皆同じような姿かたちをしているが、個体差はあるようだ。

 ここまで俺たちを追ってこれなかった運動音痴のインプがいたようで、このまま逃げ切れそうだ。



 そして、ギャーゴは俺を洞窟の中に案内した。

 そこまで来ると、インプ共も俺たちの姿を見失っていた。


「はぁ…はぁ…ようやく逃げ切れた」


 ギャーゴはだいぶ疲れているようだが、一方の俺は全く息が上がっていない。

 それなりのスピードで逃げてきたはずなんだが…。


<ゴーストに体力という概念はございません。あるのは魔力という概念のみ。従って、食事や睡眠をとる必要もございません>


 つくづく便利な体である。

 人間なんかよりも全然楽じゃないか。


「ウザキュートォ…あれが…見えるか?」


 ギャーゴは洞窟の外の森の奥を指さす。

 そこには、大量のインプ、そして中央には、巨大な何かが立っていた。

 インプと似た容姿ではあるが、角が黒くて長く、何よりデカい。

 右手には巨大なフォーク(三又?)を持っている。


「あれはデーモン。インプの親玉だ。あんなやつを目にすることになるとは…」

「デーモン…強そうだな」

「デーモンとかインプってのは、魔王が直々に配属した魔物だ。完全に一般の魔物からは独立していて、それでいて強い」


 ま、まままま…魔王…だと…!?

 やっぱりいるのか!そういうの!


「魔物というのは、すべて魔王の手下というわけではないのか?」

「そうだ。魔物ってのは、動物とか植物とかの一種だ。元々、魔王の持つ魔力から生まれたから魔物って呼ばれているだけで、全部が魔王の手下じゃねえ」


 深い事情はよく分からないが、とりあえず魔物の中には良い魔物と悪い魔物がいて、あそこにいるデーモンってのは悪い魔物だってことだ。


「しかし、なんだってこんなところにデーモンが…」

「ん?どういうこと?」

「デーモンは普通、こんな辺境の地にはいねえはずだ。魔王の命令でここに来たにちげぇねぇ」


 うむ、それはなんだか怖いな。

 だがまあ同じ魔物だ。

 いざってときは話せばわかるだろうし、今はこちらに気付いていない。

 とりあえず無視だろう。


「とりあえず、お前らの集落に行こうぜ」

「そうだなァ」


 ガーゴイルは回れ右をして、薄暗い洞窟の中を進んだ。

 後から聞いて分かったことだが、この洞窟はこの森から一直線でガーゴイルの集落へと繋がっているそうだ。




 中は思ったよりも明るい。

 なんだか壁が青く光っている。


<これは青光石。暗闇で光る鉱石です>


 光る石か。俺の世界にはそんなものないよなぁ。

 やっぱいいよな、こういう世界は。ロマンスが有り余ってて…。


「ヒャッハ!気を付けろよォ、ウザキュート!お前ァ一応ゴーストだ!それが聖なる石だったら今頃…」

「…今頃、なんだよ?」

「自分で考えな!ヒャッハッハ!」


 聖なる石…か。

 予想だが、たぶんまあゴーストタイプに効果抜群なんだろうな。

 そうだろ?話手(ガイド)さん。


<おっしゃる通りです>


 そら見ろ。



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ




 急に地鳴りと地響きがした。

 ギャーゴも俺も、思わずその場に立ち止まる。


「ギャーゴ、なんだ今の音?」

「さぁな…デーモンが屁でもこいたんじゃねえか?」


 …だといいんだがな。









「デモティック様!い、今の地鳴りと地響きは!?」


 インプのうちの一人が、デーモンのデモティックに慌てて尋ねる。

 デモティックは音のした崖の上あたりを眺めている。


「どうやら第12ダンジョンが攻略されたようだな」


 デモティックは目を細める。そして、三叉槍を握りしめる。


「…100年前の生き残りか…はたまた末裔か…」









 暫くして、洞窟の出口が見えてきた。

 洞窟の中は、地鳴りと地響き以外は何の異常もなかった。

 途中でギャーゴの野郎が本当に屁をこいた時には尻を食ってやろうと思ったが、まあそこは耐えた。


 洞窟を出ると、そこはどこかの岩山の麓のようだった。

 人間が立ち入って足を踏み外したら一番下まで転がり落ちていきそうなくらい、足場が悪い。

 もちろん、常に若干浮いている俺にとっては関係のないことだが。


「ここが俺たちの集落だ!どうだ?」

「んー…さっきまでいた崖とあんまり光景が変わらないのがちょっと寂しいかな」


 ギャーゴと空を飛んでいたときに見た、あの神秘の光景はなんだったんだ…。

 湖だの川だの草原だの…他の場所を差し置いて、再び岩山とは…。


「ギャーゴ、戻っていたか」


 巨大な岩山から、一体のガーゴイルが降り立った。

 ずいぶん渋い声をしている。

 右目には傷跡があり、翼も年季が入っている。

 強そうだ。


「ん?そっちのゴーストはなんだ?」

「こいつァ、ウザキュート。なんでも人間からゴーストに転生したんだとよ!」

「人間からゴーストに?…お前さん、何か前世に未練でも?」

「別にねえよ!」


 なんかあれだな…この世界じゃ転生自体はそんな驚かれることでもないんだな。


「それよりよォ、ガゴロスさんはどうだァ?」

「変わりはない。一刻も早く解放してやらねば…」


 ガゴロスさん…?

 とりあえず話に割って入ってみるか。


「俺、ゴーストっす。まあ見ればわかると思うんですけど。あの、この集落が抱えている…問題ってのは一体何なんですか?」


 その質問の直後、渋い声のガーゴイルは固まってしまった。

 そして、にらみつけるようにギャーゴを見た後、大きな尻尾でギャーゴを吹き飛ばした。

 ギャーゴは岩に叩き付けられる。


「痛ぇ…!何すんだガガイル!」

「てめぇ…まさかよそ者のにウチのことを話したんじゃあねえだろうな?」

「……」

「答えろ!返答次第じゃただじゃおかねえ!」


 ガガイルというこのガーゴイル、相当キレてるなぁ。

 声が渋いから迫力もある。任侠映画を見ているみたいだ。

 そんなに怒らなくてもいいじゃないか。


「まあまあ。落ち着いて…ガガイル…さん」

「てめぇ、ゴーストのくせに生意気なんじゃ!!」


 ガガイルは怒りに任せて俺に尻尾をふるった。

 しかしそんな単調な攻撃は俺には通用しない。

 俺はすぐに非接触状態へと切り替えた。

 ガガイルの尻尾は虚しく俺の体をすり抜けた。


「悪いが、あんたらの攻撃は俺には通用しない。しかし俺もまだこっちの世界に来たばかりだ。攻撃の仕方も分からなければ、こっちの世界の常識もいまいちわからん」

「だったら黙って――――――」

「だからこそ、とりあえず話し合おうじゃないか」


 出来れば敵などいない方が良い。

 それに、俺はもうやりたいことがだいたい決まっているしな。


主人公の名前迷うなぁ

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