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第1話 腹が熱い!

 酒の席では吉田がいつも一番うるさい。普段は真面目でしっかりしているのに、酒が入ると愚痴と下ネタのオンパレードだ。もう何本もビンを倒して、店長に迷惑をかけている。


 宇崎佑都(うざきゆうと)と吉田は、学生時代の同級生だ。中学生の時に出会い、部活関係で知り合った。趣味は合ったり合わなかったりだ。勉強は吉田の方が出来た。高校は同じ所へ進学したが、案の定吉田は高校でトップの成績を誇り、有名国立大学の医学部に合格して見せた。その後、約束されているかのように医者になり、今では年収2000万を超えているとか。

 一方の佑都は、そうは稼げていない。大学は地方の国立大学の教育学部を出て、今は中学校の教師をやっている。教科は英語だ。一応、学生時代から英語だけは得意だった。それでも吉田に勝てたことはなかったけど。


 今日は、久々に会えないかということで、珍しく吉田の方から誘いがあった。二人きりで飲むことは珍しくないのだが、吉田から誘ってくるのは珍しい。医者である以上忙しいのは分かる。だからこそ、まさか向こうから連絡をくれるとは思いもしなかった。


「正直、年寄りの相手をするのは面倒なんだよな~!」


 酒がだいぶ回っているようで、医者のくせに患者の悪口を言っている。こんなところを関係者に見られたら、どうなるのだろう。久々に話ができると思ったらこれだ。

 佑都も教師である以上、それなりに不満や疲れは溜まっていた。無論、愚痴を全く零さない酒の席などあるはずもないが、それにしても吉田は言いすぎな気がする。


「愚痴もいいけど、医者なんだからもっと感動的な話をしてほしいね。奇跡の蘇生とか…ないの?」

「俺は内科医じゃねえんだぞ?そんなもん知らねーっつの!」


 だめだ、これ以上仕事の話をするのは無理な気がする。かといってここまで来て急に話題を変えるのも無理だろう。時刻は1時過ぎ。明日は休みだからいいものの、一か月後には高校入試が控えている。その準備にこっちも忙しいのだ。佑都はコップ一杯の酒を飲み干す。


「とにかく、これ以上愚痴をこぼすんだったら――――――」


 店内に悲鳴が響いた。これには佑都も、あれだけ酔っていた吉田も思わず驚き、声のした方を見る。入り口近くで、女性が腰を抜かしている。その傍らには白髪の大男。見るからに酔っている。そして、右手には…なぜかナイフ。強盗か?


「えへへ、いいじゃん姉ちゃん。良い体してるねぇ~Fカップはありそうだ。ちょいとその服の下、おじさんに見~せ~て~」


 なるほど、セクハラだな。しかしあのナイフは恐らく…服を裂くのに使うつもりだろう。これはセクハラではない。一線を越えてしまっている。

 佑都は立ち上がった。吉田は立ち上がった佑都の顔をぼーっと見上げる。


「どーする気だ?」

「どうもこうも、あの変態を止めに行く」

「店の人に任せりゃいいんじゃないの~?」

「今は女の店員しかいない。それに、俺そんな酔ってないし、たぶん大丈夫」


 佑都には自信があった。子供のころから合気道をやっていたため、喧嘩は強かった。そんなやんちゃな方ではなかったが、いざってときは上級生の不良集団を返り討ちにしたことだってある。

 それに、佑都はああいうやつを見逃せなかった。私利私欲の為に他人に迷惑をかける…というより、自分に迷惑をかけるやつだ。自分が不快だと思ったことに関しては、なんでも首を突っ込んで止めたがる。それに今回の場合、原因はあの大男の性欲だ。余計に腹が立つ。


 佑都は客をかき分け、大男の前に立ちはだかった。

 すでに女性の服は肩の部分が裂かれていた。ほかの客も、どうせなら…と言わんばかりにその光景をただじっと見ている。ったく。


「おいおっさん。離せよ」

「あぁん?なんだてめぇ、この姉ちゃんの彼氏か?」

「ちげえよ。ただてめぇのそのお粗末な笑い声が鬱陶しいだけだ」

「あぁん?」


 大男は女性を離して、佑都に向き直る。女性はその隙に店を出た。見た感じ、たぶん女子大生だ。こんな時間に一人でこんなところに来るのが悪い。自業自得だ。

 だが、それとこれとは関係ない。佑都は、今、自分の為に戦おうとしている。


 大男は、躊躇せずにナイフを突き立てる。酔っていることもあってか、完全に殺す気だ。

 一撃目をうまくかわし、男の腹に蹴りを入れる。男は少しよろめくが、ほとんど堪えていない。見た目だけじゃないようで、だいぶ頑丈だ。

 ならば、転ばせて身動きをとれなくすればいい。

 大男は再び佑都めがけて走ってくる。ナイフを刺しに来た。佑都は構える。


「いいぞ!やれやれ!」


 野次馬の一人が、佑都の背中を押した。不意に佑都はよろけた。さらに、床に零れた酒に足を滑らせ、大男めがけて倒れこむ。




 それから店内に、再び悲鳴が響き渡った。

 腹が…熱い…。なんだこれ…。湿ってる。酒か?

 体が動かない。なんだ、意識が朦朧としている。大男が、取り乱して店内から逃げ出すのは、分かった。クソ、逃げやがった。


「ゆ、佑都!?」


 吉田の声だ。さっきまであんなに酔ってやがったくせに、急に良い声だしやがって…。


 ああ、だめだ。体がだるい。意識が…飛びそうだ…。



<転生準備完了しました>



 ん?何の準備?



<水分を除去しています…>



 水分を除去?…そんなことしたら死んじまうぜ?



<水分除去完了 骨肉除去完了…>



 なんの声だ?



<魂との接続完了…






―――――――――霊体化を開始します>


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