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生まれ変わるなら木になりたい!  作者: 神の狸
芽の章 新世界の始まり
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第6話 世界樹のお仕事

「というか、まあ、別に君一人が造るわけじゃなくて、造るのにわたしと君の二人が必要って話なんだけどね」



 ということらしい。良かったー。本当に良かった。一人で造るんじゃなくて。


 別にやりたくもないのに、友達から誘われたせいで、そいつと二人でやることになった係で、当日その友達が病欠で休んで、結局全部一人でやることになった嫌な思い出が一瞬脳裏をよぎったぜ。

 あれは嫌な事件だった。

 友達が後から仕事の出来に文句つけてくるあたりが特に。

 

 そんなにやりたきゃ、一人でやれ!! 熱なんて気にせず一人でやれ!!


 ……と、どうやらあの時の怒りを思い出して少々熱くなってしまったようだ。

 ともあれ、一人でやらなくてもいいのはいいんだが、アリアと俺の二人がいるとは一体どういうことなのだろうか。二人三脚的な?



「んー。というか、本来は、わたしがある程度大枠を整えておけば、あとは世界の方が勝手に造ってくれるもんなんだけどね」



 ほう。それなら結局、俺の出る出番はなさそうなんだが。

 なぜ、俺が造ることになるのだろうか。



「うん……、まあ、何というか。本来、そのために残してある分のリソースを、君を造るのに割きすぎちゃって、全然残ってないんだよねー。今のまま一人で作るのは如何ともし難いというか。うん、正直無理」



 無理らしい。

 つまりそれはそのリソースを使い込みをしてしまったということではないだろうか。

 無計画なんですね。無節操なんですね。

 と、まあ、造られた当事者の俺がいうことではないような気もするけど。



「つまり、そのリソースの分、働く必要があるということですね?」


「まあ、そういうこと。というか、まあ、君を転生させることになった段階で、少し計画を変えたんだよね。本来の創世とは違う、少し変則的な感じに。だから、まあ、君がいること前提の世界なんだよ。この世界は」



 どうやら俺は重要な位置にいるらしい。まあ、そりゃそうか。仮にも世界樹という名前の木だ。世界の存亡に関わっていてもおかしくはない。



「だからまあ、ここから先に進めるには、君の力がいるんだよね。君がそれをしなければ何も始まらないというか、わたしずっと君が働く気になるのを待ってたんだよ?」


「それはなんとも申しわけない」


「本当にそうだよ! だからずっと働け~働け~と言ってきたのに、君は聞く耳をもたないし」


「いやいや、働け~、だけじゃ何をしていいのか分かりませんから。それで俺は、結局、何をすればいいんです?」


「ああ、基本的に世界樹に与えられた仕事は二つだよ。一つは概念……、いや物質をマナに還元させること。もう一つはマナを正常に保つために、世界に循環させること。これらは今だけじゃなくて、これから先もずっとやっていかなくちゃいけないことだからね。この仕事の分のリソースを君にいや、世界樹というシステムの構築に注いだんだから」



 どうやらこの二つが世界樹の通常業務になるらしい。しかし、これらだけ聞いてもその内容や方法がイマイチ、イメージができない。それが他のものを創造するのになんの役に立つのかとかもさっぱりである。


 特に前者のマナへの還元?とやらはなんなのだろう? 

 俺は、まだ完全にマナというものを理解したわけではないのだ。ただ、少し見えるようになって、少し操作できるようになっただけなのである。

 物質をマナに還元すると言われても、その意味がわからない。

 いや、待てよ。前にアリアがそれらしいことを話していた気もする。なんでも、世界の全てがマナでできているとか。



「そう、今はまだ天と地しかないけどね。マナが全ての物の元になってそれらを生み出すんだよ。

 だけど、生み出すだけじゃあ、そのうちマナはなくなってしまう。世界にマナは有限だからね。

 事実、今この世界は、世界樹である君を除く、存在する全てのマナを天と地に変換してあって、他に何も生み出せない状態なんだよね。だから、新しいものを生み出すためには既存の物、すなわち天や地をマナに一時的に還元してやる必要がある」



 つまりそれは粘土細工を作ろうと思ったら、すでに材料の粘土を全て違うものに使い切っていたというようなものだろうか。だから、前に作ったものを削って粘土に戻す必要があると。

 この場合、マナが材料の粘土、天地がすでに作られているものになるだろう。いや、まあ、世界樹の俺自身もそこに入るのかもしれないが。

 ともあれ、現時点ではこの世界はマナが切れており、何も生み出せず、何も変化しない状況であると言えるのだろうか。


 しかし、それに関しては一つ疑問が浮かんでくる。

 例の精霊体のことだ。

 アリアは前に、俺(世界樹)からはマナが溢れていると言っていた。そして、それを使って精霊体を作るとも。事実俺は、マナを操作し、精霊体を作ってきたはずだ。

 しかし、それでは、有限で、全て使われているはずのマナの量が変動してしまっていないだろうか。

 この事実は、今の話と矛盾してしまう気がする。

 

 いや。違う。そうじゃない。

 ヒントは既にあったはずだ。

 マナの量が変動すること。

 そして、アリアの言う世界樹の仕事の一つ目が、「物質のマナへの還元」であること。

 これらを考えると、つまり、俺(世界樹)から溢れていたマナとは……



「そう、すでに君はこの一つ目の仕事、「物質のマナへの還元」を無意識のうちに多少なりとも行っていたんだよ。

 ああ、安心してね。君がマナに還元していたのは、世界樹である君自身じゃなくて、より莫大なマナで構成されている天地の一部だから。君はそれらを無意識のうちに削って、正常なマナを生み出していたわけ。

 とは言っても、まあ、そもそも、世界樹そのものがマナがないと生きられないんだから、君が今、生きている以上、それを行っているのは当然といえば、当然なのかな?」



 マナがないと生きていられない。それは世界樹がマナを使って生きているということだろうか。つまり世界樹はマナがないと死んで、いや枯れてしまうと、そういうことなのだろう。 

 

 いやいやいやいや!!


 そんな重要なことはもっと早目に言って欲しかった。

 もし、仮にその無意識の還元ができていなかった場合、俺は生まれて早々に再び命を落としていたのではないか。

 嫌だぞ。気がつかないうちに今度は餓死してるなんて。



「ははっ。話すつもりだったんだけどね。ついつい雑談するのが楽しくて忘れてたよー」



 このバカ神は雑談と俺の命を秤にかけていたらしい。これは間違いなく一発殴っていいな。



「いや、まあ、それは冗談なんだけどね。

 もともと、たいして心配はしていなかったんだ。物質のマナへの還元は世界樹にとって、まあ呼吸みたいなものだから。もしくはそれこそ君の言う光合成みたいなものなのかな。

 生まれてくる物、マナは酸素とか二酸化炭素とかよりもずっと扱いは難しいけどね。

 しかしまあ、このマナの還元が、世界樹にとって、ただそこにいるだけで放っておいても本能的に起こるものだということはわたしにとって常識みたいなものだから。

 でも、まあ一応心配だったからね。君が転生して最初、マナがなくても生きられるギリギリの期間である一ヶ月経った時に、忙しい間をぬって、君の様子を見に来たんだよ。

 そしたら君がぼーっとしているし、一瞬マナ欠乏の症状かと思って。ほんと、あの時は焦ったんだよ。

 まあ、実際には、君は単にボケっとしているだけだったんだけどね」



 ああ、あの一ヶ月間、毎日、光合成(笑)をしていた時のことか。それは本当に申し訳ないことをした。今思い出しても恥ずかしい。あの時は木になれた喜びで少し調子に乗っていたのだ。忘れてくれ。光合成の黒歴史の一つだし。



「まあ、よくよく見てみたら、君からはちゃんとマナが出ていたし、それで安堵と興奮のあまり殴っちゃったんだけどね。でも、あれは自業自得だったと思うよ。ほんとに。

 まあ、ともかくもその時点で、無意識の還元ができていることがわかったからね。だからまあ、次のステップにすすんだわけなんだよ」


「次のステップ?」


「精霊体だよ。精霊体。

 君は、精霊体を作ることでマナの存在を認識できるようになったんじゃないかな? 

 最初、君はマナの存在すら認識していなかったはずだよ。それが今では、ぼんやりとではあるけどその存在を認識できるようになったでしょ。

 大量のマナへの還元を行うのは非常に大きな危険を伴うし、それを意識的に行う必要性があるんだよ。そのためには当然、マナを認識できてないといけないんだよね」



 だから、アリアは俺に精霊体の俺がマナ制御を覚えるまで待ったというのか? これまでの期間はその為の準備期間だったと。ここまでくると、全てがアリアの計算の内だったのではないかとも思えてしまう。



「いや、まあ、君が光合成なんて変なことを言い出すのというのは少し誤算だったんだけどねー。そのせいで予想していた時間よりもだいぶ遅くなっちゃったし」



 光合成の話はするな。あれは、なんというか、本当に黒歴史なんだ。忘れてくれ。頼むから。



「まあ、黒歴史はともかく、そろそろ君は、意識して物質をマナに還元することができるようになったはずなんだよ。まあ、還元にはいくつか制限がつくこともあるけれど、今はまだあんまり関係無いからね。どう? 少しやってみたら」



 意識的なマナへの還元。それが本当に俺にできるのだろうか。



「そうだね。いま君が分かりやすく還元しやすいのは大地かな。まずは自分の根を意識して。そこから、根に接している土を自分が発しているマナで薄く覆うんだ。

 君から発せられたばかりのマナは、まだ君の意思を残しているから。いわば君の手足のようなものなんだよ。精霊体を操作するあの感覚。あれをもっと広げる感じ」

 


 俺は、自分の本体、根を強く意識する。

 すると、意識の集中を失った精霊体がその形を崩してしまったようだ。

 しかし、今はそれに構ってはいられない。むしろ形を崩してしまい、マナに戻った精霊体の残滓も本体に取り込む。

 そして、その取り込んだ分のマナも、そして全身から出ているマナを意識して、それら全てを根に集中してそこから排出する。

 イメージはそう、水が土に染み込んでいくイメージ。広く、薄く土に浸透していく。

 それは、マナすらも自分の一部として捉える感覚。精霊体が形を失い、液体になったようなものだ。

 俺は自分の手足を動かすかのようにマナを染み渡らせていく。

 根を中心に広がっていくマナ。

 そしてそれはじきに限界を迎える。

 自分が薄く広がりきった感覚。これ以上広げたら破れてしまう。



「そう、今。イメージするんだよ。君のマナが土を溶かしていく感覚を。自分の感覚を妨げる余計なものを消し、それもまた手足の一部にする。戻せ。全てを元に。ほどけ。その土という概念を」



溶ける。溶かす。


それを。


ほどく。ほどける。


そのままに。


消える。消す。


そして。


戻す。戻る。



 自分の感覚にとって邪魔になっていたその感覚を、少しずつ自分が溶かしていく。

 

 溶かし、それもまた取り込んで。ほどき。それもまた巻き込んで。消し。それもまた自らの元に復元し。戻し。それもまた自らの物とする。


 形を失い、溶け込んでくる。自分が増えていく感覚。今までの数倍に、数十倍に、数百倍に増える。増える。増える……



 そして……




 俺がふと、本体に意識を戻すと、世界樹の芽の周囲の土はマナに変わり、本体の芽は半径五メートル程度の巨大なマナの池に浮いていた。


 成功したのか……?



「上出来なんだよ。君は今までよりも遥かに多くのマナを還元できた」


「でも、この状況はどうなんでしょう。これ、本体がピンチじゃないですか?」


「うん。まあ、それは大丈夫だよ。君は周囲大地全てをマナに還元したわけじゃないからね。今は膨大なマナがある為にその影で見えないかもしれないけどね。そのマナのある部分にもちゃんと大地は残っているんだよ。一時的に、いささか密度は薄くなってるかもしれないけどね」



 どうやら今の俺はマナの池に浮いているのではなく、マナ濃度が濃くなった大地の上にいるだけらしい。

 俺は、試しに、そのマナを地上に浮かび上がらせてみる。

 今度は上部の周囲一面が靄状のマナによって視界が遮られる。

 その代わりに露出した地面を見てみると、確かにそこにはしっかりと土がある。そして、その周囲の土との違いはあまり感じられないようだ。



「マナに変化したわりには、あんまり土の量などは変わっていないんですね」


「まあ、君がマナに変化させたのは土そのものではなくて、大地という概念の一部だからね。膨大な大地の概念の前では君の還元したマナなんてのはほんの僅かなものに過ぎない。すぐに周囲から補填されて均等化されるよ」



 どうやら見た目通りの仕組みとはまた違うらしい。その概念とやらがなんなのかはよくわからないのだが、しかし、まあ、それを理解せずとも、俺の役目を果たせるのならそれでいいのではないだろうか。

 これ以上、情報をもらっても、正直頭がパンクしかねない。

 今は、そう。余計なことを考えず、マナへの還元の作業をより習熟する方が、より重要なのではないだろうか。

 あの役立たずに思えた精霊体の操作が、世界樹の仕事に密接に関わってくるとなると、一層練習にもやりがいが出るというものだ。



「さて、君にはこれから、他の物が生まれる為のマナを用意するために、空や大地を分解して正常なマナに変えていってもらわなければならないんだよね。

 そもそも君自身である世界樹が生きるためにも、そしてそれが成長して大きくなる為にも、相応のマナが必要なんだからね。

 君のしていた今までの無意識的なマナの還元だけでは、君が生きる為の分で、その大半が使われてしまっているんだ。せいぜいが薄い精霊体を作れるくらいのマナしか残っていなかったんだよ。まあ、それは一種の安全装置のようなものだったんだけどね。

 でも、それじゃあ、世界樹は成長することすらできない。世界樹が大きくなるには今よりもずっと多くのマナが必要なんだからね。

 そして、世界樹が大きくなれば、無意識的なマナの還元も、そして意識的なマナの還元もより大きな規模で行うことができるようになるはずだよ。

 だから、君はまず世界樹が成長し、多くのマナを生み出せる土台を作る必要があるの。そして、そのためには積極的にマナの還元を行わなくちゃいけないんだ」



 どうやら、俺はそもそも成長の危機にすらあったらしい。

 あれだな、成長期の子どもがあまり食べ物が貰えなくて身長が伸びないのと同じだと思われる。

 事実、生まれてから半年以上経つのに、まだ芽のままから全く成長する気配がないし。

 その……、光合成と言って行っていた行為は単なる空振りだった訳だしね。

 

 理想の大樹になるには、アリアのいう物質のマナへの還元、これを意識的に行うことが必須なのだろう。

 そして、そうして大きくなることが、また更なるマナへの還元に繋がり、結果的に創造がなるのだという。

 

 うむ。


 ならば、やろう。

 死ぬ気でやろう。


 忘れがちかもしれないが、俺がなりたいのは立派な大樹であって、芽のままでは意味がないのだ。

 今までは光合成をすれば成長できると思っていたから何もしなかったが、そうでないというなら、必死にやるしかないだろう。

 今世の俺は立派な木になるために生まれてきたのだから!

 

 目指せ理想の大樹!!




 かくして俺の世界樹人生、いや世界樹木生は本格的に幕を開けたのであった。

 以下は、用語説明的な何かです。

読まなくても、別に問題はありませんが、読むと疑問が解消されるかもしれません。

まあ、むしろ深まる可能性もありますが。



・作中にでてくる概念について


 作中でも少しだけアリアが触れている概念ですが、アリアが言うように、主人公は物質をマナに還元しているのではなく、概念をマナに還元しています。

 実際、この世界にある天と地はまだ物質ではなく、概念の状態です。


 これがどういうものかというと、文中の粘土の例え話で言うなら、例えば粘土でイヌを作ろうとしている時、必要な粘土をより分け、「イヌ」とタグを付けた状態が概念です。そして、これを犬の形にし、そして崩れないよう固めたものが物質となります。

 この場合、後者はだれが見ても同じ形をしたイヌですが、前者は「イヌ」になるんだなということは分かっても、どういう「イヌ」なのかは、この時点では個々人の頭の中で再現されるスタンダードな「イヌ」のイメージによって変わってきます。


 このような具体的な形を持たないけども、何かだけは理解できる物が概念となります。

 概念とはまだ、固まっておらず、そういうものとは分かっても、その詳細は観測するものによって補完されるものです。


 よく、作中で天地として、青い空や、荒野が出てきますが、この辺は、主人公の空や大地に対するイメージが生み出している光景とも言えます。



 この辺については、また次の章辺りに本格的に触れていく予定なのですが、一応、現時点での補足説明でした。

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