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生まれ変わるなら木になりたい!  作者: 神の狸
芽の章 新世界の始まり
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第4話 天と地と世界樹と

「そろそろ君は働くべきだと思うんだよ!」



 アリアは唐突にそう言った。



「はあ、そうですか。あっ、今日の服似合ってますね。いつもの白いワンピースもいいですけど、黒のゴスロリもいい感じですよ。その金髪によく映える感じで」


「あ、そう? あ、ありがとう。んー、照れるなぁ。ふふっ。

 ……って、そうじゃなくて、わたしは働けっていってるんだよ! 

 ……大体いつも服装なんて見てもいないくせに。確かに白いワンピースはよく着るけど、色々バリエーションがあってだね……

 って、ああ、そうじゃなくて!」



 少し来ている服を褒めただけなのに、一人で照れたり怒ったり、百面相しているアリアがそこにはいた。


 ん? アリアは神様なのに、意外と褒められ慣れてないのか? 

 いや、むしろ神様だからこそなのかもしれない。まあ、そもそも他に神様がいないのか、単純にアリアに友達が少ないのかは分からないのだが。


 しかし、これは面白いことを見つけた。今後のやり取りの中で良い武器になりそうだ。とりあえず困ったときは色々、褒め殺しにしてみるのもいいかもしれないな。ふふふっ。

 俺はそう考えながら、ひっそりと黒い笑みを浮かべた。



 閑話休題



 さて、アリアのアドバイスを元に、精霊体を完成(?)させてからはや数ヶ月の月日が流れた。この世界に来てから、大体半年が経った計算になる。

 最近では、短い時は数日、長い時でも数週間おきにはやってくるアリアと雑談しながら、光合成や、精霊体を動かす訓練をしている日々を送っている。

 

 訓練の方では、最初は腕を動かすだけでも意識を使い、他の部位を消してしまうことがあったりもしたが、次第に慣れ、今では介護を受ける老人程度には自由に動かせるようになった。

 これを動かせると言っていいのかは正直、微妙ではあるのだが、まあ、どうせ動かせたところで、アリアにツッコミを入れるか、アリアからツッコまれるのを回避するために使うぐらいだし、あんまり問題はないだろう。

 うん、実際、ほとんど意味のないことなんだよね、これが。


 結局、木の生活には、そんなにもアクティブさはいらない、ということなんだろうか。

 


 ああ、精霊体の訓練のメリットとといえば、度々アリアからの話題に上がってくる「マナ」。これをある程度自分でも感知できるようになったのは中々に重要なことだろう。


 今でも視認できているのだが、自分の身体(芽)全体から、常に少しずつ出ている薄い靄のような物。これがアリアの言うところのマナであるらしい。


 このような微かな靄が大量に集まって、そして少しづつ自分の思い描いた姿に変えていくというのは、最初は大変であったが、慣れてくると存外楽しいものなのである。

 そう。例えるなら、タバコの煙で輪っかを作ったりする遊びの楽しさにでも似ているだろうか。もしくはラテアート的な楽しさと言い換えてもいいかもしれない。まあ、実は、どっちもやったことはないのだが……

 

 しかし、こういった何か物を作っていくという楽しみ。その果てにあるのが、アリアのしたような、いわゆる創世なのではないだろうか。神様スケールの軽い遊び的な。

 そう考えると、アリアがついつい片手間に新世界を作ってしまって、結果、隕石を落としてしまった気持ちも、意外と俺にも理解できるのかもしれない。


 ………………


 いや、ごめん。言ってみたけど、やっぱりわからない。それで隕石落ちるってなんなんだ? というか何で俺、そんなんで死んでるんだろう?

 

 世界創造も神様の仕事も、俺の人生も相変わらず謎なのであった。




 んっ? 世界創造? 


 あー、そういえば俺は、この新世界でまだ、この荒野しか知らないし、見たこともないんだよな……

 今まではあんまり気にしていなかったけど、実際、他の場所はどうなっているのだろうか?

 俺自身は木だから動けないし、行くこともできないんだが、それでも異世界というだけあって、どうなっているのか少し気になったりはする。

 元の世界との違いとか。マナがあるという一点だけとっても、だいぶ色々な変化があるんじゃないだろうか。


 よしっ、聞いてみるか。そろそろアリアの説教を聞き流すのも飽きてきたことだし。

 


「――という訳で、だからつまり、働くということはだね……って、聞いてるのっ!!」


「あー、そういえば、この世界て他の場所はどんな感じなんですか?」


「もー。また、そうやって人の話を誤魔化して!」


「いや、まあ、その話はまた後で聞きますからっ」


「ほんとかな……」


「本当ですって。……で、実際、どうなってるんです?」


「ん? どうなってるって…… んー、別にどうもなってないけど?」


「いや、どうもなってないって、どうにかはなってるでしょ。山があったり、海があったり、生き物がいたり」




「いや、何にもないよ? ここから先も、ずぅぅぅっと荒野が続いてるだけ。生き物なんかはまだいないし」




 へっ? なんだそりゃ?

 あまりにも予想外の答えが帰ってきて少しびっくりしてしまった。


 荒野だけ。荒野だけというのか? この世界全てが?

 それはなんという冗談? ジョーク?



「冗談でもジョークでもないって! だから言ったでしょ。君が死んじゃったとき、新世界を創造してったって。

 出来立てほやほやなんだよこの世界は。何にも無いの。あるのは空と大地と君だけ。

 ねっ、すごいでしょう。君は世界で三番目に生まれたってことなんだからね。何なら光栄に思ってもいいんだよ?」



 光栄に思ってもいいって、それが事実なら確かに誉れ高いことなのかもしれないが、しかし、少し信じがたいものがある。

 第一、俺の知っている限り世界創造なんてものは……



「世界には、まず光が生まれる所から始まるんじゃ……」


「あはは、それは君、旧約聖書の読みすぎなんだよ。他の神話とかを見てごらん。意外と多くの神話は光には言及してないから」


「でも、理論的に考えても、光とかの方が先にあるほうが正しいと思いますけど。ほら、光と闇が分化されてないと世界を認識できないだろうし」


「ん? ああ、じゃあ、一度周りをよく見てごらん。この世界のどこに光といえるものがあるの?」


「あるのって、そこら中に…… 太陽だってありますし……」


「ないよ。この世界にあるのは、天地と君だけ。光も太陽もない。思い出してごらん。君は、あの大空の中に一度でも太陽を見たことはあった?」



 ない。そう言われると確かにないのだ。

 俺はこの大空を雲一つない青空と評したが、実際この空にはこの半年間、一度たりともこの青を汚すような不純物が生じたことはない。鳥などの生き物は勿論、風も雲も、そして太陽さえも一度たりとも見たことはない。

 空はいつでも突き抜けるように青かった。そう、それはまるで青以外の物が何もないかのように……



「でも、でも俺は『見る』ことが出来てますよ。つまりそれは光の作用で……」


「本当に? 本当に君はその目で見れているの?」



 目で見る。そこで気づく。自分はすでに木で、本質的には目なんてものは無いのだと。

 しかし、俺は同時に精霊体という目を持つ身体をもっているためにそれを忘れがちになっていたのだ。自分は視覚で世界を認識していると思っていた。

 だが、どうだろう。精霊体がある時とない時とで、外部への知覚はなにか変わっただろうか?


 変わってない。精霊体を作るようになる前から俺は空や荒野を知覚出来ていたし、精霊体が出来たあともその範囲は一切変わっていないのだ。

 つまり俺は目で世界を知覚しているのではないということ。



「そう、そのとおり。世界樹に目はないし、精霊体の目は単なる飾りなんだよ。君が世界を認識しているのは目と光の作用じゃない。マナを用いた知覚なんだよ。だから、この世界に光がなくても、君は君の周りを知覚できている」


「……言葉。言葉は? 今、俺は喋ってますし……」


「言葉もないよ。君は喋っているんじゃない。音には出てないからね。今話しているこれは、一種の心話のようなものなんだよ。概念の伝達といったものかな。それに、その概念を形成するための語彙すらも、君の元の世界の言葉なんだよ。この世界で生まれたわけじゃない」


「あ、マナ! マナはどうなんですか! マナは確かにこの世界の中にあるでしょう。実際に、見たり使ったりしてるんですし」


「マナね…… マナはね、この世界そのものなんだよ。正確にはこの世界の元になっている物。この世界を構成する因子。空も大地も君も突き詰めればマナでできている。故にマナはここにあってここにない。君は世界そのものに対して、それは世界に存在すると言うの?」



 そう、それは論理的な意味で破綻する。それは言うなれば、「この世界はある」というのと変わらない。それは確かに正しい事実ではあるが、世界の内に存在するものを問う今回の質問においての回答としては正しくない。



「じゃあ、本当に、」



 本当に、この世界には何もないというのだろうか。まだ何もない、真っさらな世界だとでもいうのだろうか。



「うん、この世界には天と地と君しかない。ほら、君たちの日本人?の神話にもあったでしょ。澄んだものは浮いて天となり、濁ったものは沈んで地となる。今はまだ、それだけ。この世界はまだ創世期なんだよ。

 スゴイでしょう。この世界にあるのは天地だけ。この世界にいる意思あるものは君とわたしだけ。世界はまだ始まったばかりなんだよ」



 それは確かにスゴイことである。それは確かに神秘的なことである。


 しかし、なんだろう。なんなんだろう、この何とも言えない喪失感は。この落胆感は。


 そう。それは、まるで完成品の模型を買ってきたつもりが、実は自分で作るタイプの模型であったかのような感覚。違う楽しみはあるのだが、でも今求めていたこととは、ズレてしまっていることから来る落胆。


 俺は、木になりたかった。

 だが、それは、内心、確固としたものがすでに確立されている世界を前提としていたのではないだろうか。


 アリアは、チートをくれると言った。新世界に転生させてくれるといった。それは確かだ。俺はしっかりと覚えているし、認識もしている。

 しかし、俺はどこか異世界的な世界がすでにあると思い込んでいたのではないだろうか。


 それは、固定観念が故の盲目だったのだろう。

 俺は、この半年間、この世界にいながら、光も、闇も、山も、谷も、川も、海もそういったものが何一つまだ無いとは全く考えてもみなかったのだから。



 んっ? 光? 光がない?



 そこで俺はふとある事実に気がつく。それは俺にとって世界の万物の有無よりよっぽど重要なことである。それは、一種のアイデンティティに関わる問題。この世界で木に生まれ変わった目的の一つに関わることである重要なこと。


 そう、光はないのだ。勿論水も、酸素も、二酸化炭素も。

 それは、つまり、その……



「光合成が存在しないということじゃないかああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


「はははっ。まあ、そりゃそうだろうね。光も、水もないんだし。

 えっ、何? 今まで本当に光合成しているつもりだったの? 冗談の一種とかじゃなくて? あー、そりゃあないわぁー 恥ずかしぃー」



 ……あれ? じゃあ、俺のこの半年間の大部分て、もしかして本当に無駄遣い?

 なんだかんだアリアに働けと言われても受け流していられたのは、実際は勝手に光合成してるもんだと思ってたからなのに。それが違った? 俺は、働かずに、ただのんびりしてただけのニートだったの? 本当に?


 えっ?


 えっ?


 えええっ?


 えええええええぇぇぇええぇぇぇええええええええぇぇええええぇぇぇぇええええぇえええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!!!




 何だかんだで、今日、俺が一番ショックを受けたのは、世界が天と地と世界樹だけということでも、世界樹には光合成ができないということでもなく、自分が働いていないニートであったという、その事実なのであった。


 ああ、ニートか……

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