第28話 アリアの失敗
「わたし、失敗しちゃった……」
溢れる水と荒れ狂う海。止まらない海の拡大。
侵攻される大地に宿る土の精霊ノン。削られ続ける天である風の精霊シル。
そして、今尚、連絡不通の水の精霊ウィズ。
順調にいっていたはずの創造で起きている非常事態の中で、アリアから溢れたこの言葉は、今の状況が絶望的であることを示してる。
「何が……、何が、あったんです?」
「…………」
俺の問いかけに、押し黙るアリア。
その表情はただただ悲痛に満ちており、俺はその前に口を閉じる。
わからない。
何があったというのだろう。
あの、アリアが、どうしてこんなミスをしたというのだろう。
わからない。
俺には、わからない。
俺はじっとアリアを見つめる。
言葉には出さず、でも急かすように。
アリアを見つめる。
「……全ての根本は火だったんだよ」
俺の視線に耐えられなくなったのか、アリアは少し俯くと、それでも少しずつ言葉を紡ぎだした。
アリアが告げるその話。
それは、アリアの失敗の話であった。
◆
本来、四つの属性はそれぞれにバランスをとっている。
風は土と、水は火と。
全ての属性は対応しあい、それ故に四つの属性は循環し、均衡が生まれるのである。
しかし、ソラの不在は、――火の力だけが衰えることは、それらのバランスを崩壊させる。
アリアはその事を知っていながら、それでも創造を行うことにした。いや、やるしかなかったのだ。
彼らには、――この世界にはすでにほとんど時間がなかったからだ。
マナの供給量と必要量のバランスはすでに崩れていた。
先伸ばすことは停滞と緩やかな滅亡に他ならない。
いや、勿論他にも手はあった。
今いる精霊たち。
彼らを見捨てて、再び精霊の誕生からやり直せば、安全にそれを行うことはできただろう。
しかし、それは今いる精霊たちを犠牲にすることに他ならない。
このまま放置すれば、いずれ子供たちはマナの供給量が足りず、消滅することになる。
それはできなかった。
故にアリアは、無理矢理でも創造をはじめることにしたのである。
創造。
火の不在により、循環は崩れ、相反する力が存在しなくなった水はその力を増していく。
それでも、アリアはやるしかなかった。
すでに賽は投げられているのだ。はじまった創造を途中で止めることはできない。
本来、火によって天へと還るはずだった水を、水の力だけで天へと還す。
アリアはそれを試みることにした。
しかし、それは、どこまでも無謀な試みであった。
神であっても万能ではない。
とりわけ創造とは、神が万全を尽くした中で初めて成功するほどの大事業である。
属性という流れに反発するその試みは、神であるアリアすらも消耗させていく。
結果としてアリアは失敗し、水は一層暴走を増した。
そして、創造は失敗したのだ。
◆
「でも、それは仕方のないことなんじゃ……」
アリアの話を聞き終え、俺はそう呟く。
火が力及ばずだったのは、アリアのせいではない。
ましてソラのせいでもない。
ただ、ソラの性格故の結果。
俺には、それは誰にも責めることのできない、偶然の不幸からの帰結であるように思えた。
「違う!――違う、んだよ…… それもわたしがやったことなんだよ……」
「……どういうことです?」
だが、俺のその言葉に、アリアは必死に首を振ると、俺の言葉を強く否定した。
――アリアの否定が俺には理解できない。
アリアが一体何をやったというのだろう。
俺はあまりに多くを理解せず、アリアの為すがままにしていた。
それ故に、アリアに説明されなければ、いや説明されたとしても、それを本当の意味で理解できていないのである。
「――精霊の誕生の際、君は全ての属性に対してイメージをしたよね……? 君はそれを覚えてる……?」
アリアは一度深く息を吸い、呼吸を整えると、ゆっくりと俺に訪ねかける。
精霊の創造。
俺の中のその記憶は非常に曖昧なものである。
精霊の創造という現象自体のほとんどが、俺の精神内という、ひどく曖昧な環境の中で行われたものだからだ。
だが、微かに残った記憶の中に、それは確かにある。
俺は、イメージすることで、精霊たちに、いや属性そのものに形を与えたのだ。
それは概念の形成。
属性のもつ特性の形成である。
風には軽やかさを。
天を吹き抜け、木々をざわめかせる、自由な概念を。
土には頑健さを。
地を踏み固め、木々の根を支える、頑固で強固な概念を。
水には麗しさを。
川や海を流れゆき、木々を潤す、美しく高貴な存在としての概念を。
火には――、
……?
あれ……?
俺は、火、――火にはどんなイメージを持ったのだっただろうか?
俺はそこで自分の記憶の空白に気づく。
おかしい。
思い出せない。
思い出そうとすればするほど、記憶は薄れていく。
何かに塗り替えられたような、何かにそこだけかき消されたかのような不自然さ。
俺の記憶は、そこだけピンポイントに存在していないのだ。
「――どうしたの?」
アリアが俺に問いかける。
それは問いかけではあったが、既に俺の答えを知っているかのような、そんな確信に満ちた確認であった。
「思い出せないんです……。火、火だけが俺の記憶からすっぽりと抜け落ちているんです」
「そうだろうね……」
「――何か知っているんですか?」
「知ってるよ。知らないはずがない! だって、わたしがやったんだからね…… 火――君がイメージした火。それをわたしが書き換えたんだよ!」
アリアは、話していく内に、少しヤケになったかのように、次第に言葉を荒らげていく。
「……どういうことです?」
「……カエデ。君は、ソラの性格のことをどう思う?」
「何ですか? いきなり……ソラの性格って……」
「ソラの性格は、君の火のイメージに合っているものか、と聞いているんだよ?」
アリアは俺の戸惑いの言葉をかき消して再度、強く確認するかのように問いかけた。
俺は、渋々疑問の言葉を飲み込み、言われたことについて考える事にする。
ソラの性格?
ソラの性格は温厚で控えめで……
っ!?
そこで俺は気が付く。
温厚?
控えめ?
それはおかしいのではないか?
アリアの言うとおりだ。
俺の中の、火のイメージに、燃え上がる火のイメージに全くそぐっていないものだ。
思い返してみれば、確かにおかしいのだ。
実際、他の精霊たちは、大方俺の属性のイメージに沿った性格をしている。
シルの自由さ。ノンの頑固で堅実さ。ウィズの流麗さ。
俺の中のそれぞれの属性のイメージに沿っている。
だが、ソラだけが違う。
ソラだけが、属性のイメージにそぐわない。
俺の中のイメージに沿うのなら、火とは、火の精霊とはもっと燃え上がるような過激な、いや激しい性格をしていていいはずだ。
少なくとも、今の俺の中の火のイメージはそうである。
だが、ソラは違う。
温厚。控えめ。
それは火という属性に当てはめるにはあまりに不適合過ぎる。
思い出すのは、百年前のシルの言葉。
かつてシルがソラの髪にパーマをかけようとした時に言っていたこと。
すなわち、ソラには、ソラにだけは、属性的適合性というものが決定的に足りていないのだ。
「アリア、もしかして、あなた……ソラにだけ、いや火の属性にだけ何かしたんですか?」
「やっと、わかったんだね……」
「何をやったんです!?」
「……だから言ってるでしょ。書き換えたんだって。
君は既にわかっているはずだよ。君が精霊誕生の時、火だけイメージできなかったことを。――いや、そうじゃない。君はイメージしようとしたんだ。火の正しい有り様を。
でも、わたしがそれを停止させ、塗り替えた。火というものが持つ、本来の猛々しさを消し、より弱く、大人しくなるように。火の属性特性を狂わせ、ソラが弱くなるようにわたしが介入した」
「……なんで、――なんでそんな事をしたんですか!?」
「…………」
アリアは答えない。
「……アリア?」
「…………」
アリアは、それまでのヤケになった調子とは一変して、まるで言葉を紡ぐのを物理的に拒否するかのように、再び顔を俯かせた。
「ねえ、聞こえているんでしょアリア? なんでそんなことをしたのかって聞いているんです」
「…………」
「なんで、ソラを弱めて、苦しめるような真似をしたのかって聞いているんですよ!」
「…………」
「アリアっ!!!!!」
アリアは、答えない。
俺は、アリアに食いかかるように問い詰める。
もし、今俺が精霊体を展開していたら、間違いなくアリアに掴みかかっていただろう。
しかし、生憎、先程までの精霊体はアリアを保護するためのマナとして使ってしまっている。
俺は、ただただ、俯いて黙りこくるアリアを言葉で問い詰めることしかできない。
「それはパパのためなんだよぉー」
そこに不意に背後から別の声がかかった。
間延びしたようなゆっくりとした声。
この声は――
「……シル、ですか? 何故ここにいるんです?」
「流れ込むマナもだいぶ収まったしねぇー。パパの精霊体を見真似で作って、来てみたんだけど、どうかなぁー?」
シルのその姿は、俺のかつての精霊体に近い、少しボヤけた靄のようなものであった。
今や、シルの本体である精神体は、天と完全に一体化している。
そのため、すでにシルは精霊の時のように、精神体そのものを自由に動かし回ることはできない。
肉体と精神は深く結びついており、それを分離してしまうことは非常に危険な行為だからだ。
だからといって、肉体となった天そのものも余りにも巨大なため、それを引っさげて、ここに来ることもまた不可能であろう。
だから、シルは俺の精霊体を真似たのだろう。
勿論、正確にはその仕組みはだいぶ違っている。
俺の精霊体が、俺の体から溢れ出た意識の残留したマナを使っているのに対し、世界樹でもないシルはマナを体から排出しているわけではない。
そのため、天という膨大な概念の一部を切り離し、それを練り上げることで擬似的な分身として用いているのである。
それは、精霊体とは過程は同じであるが、根本的な原料が違っている。
敢えて言うなら、それは分神体とでも言うべきものであろうか。
「分神体ー。うん。いい響きだねぇー。次からはそう呼ぶよぉー」
「そんなことよりも、さっきの言葉はどういう意味なんです?」
「さっきの言葉?」
「アリアが火を――いやソラを弱くなるようにいじったのが俺の為だと言ったことです」
さっき、シルは確かにそう言ったのだ。
あれは聞き間違いではないはずだ。
「どういうことも何も、そのままの意味だよぉー」
シルは、俺から視線を外し、未だ俯くアリアの方に目をやると、少し虚ろに笑いながらそういった。
「ママは、火を弱めることで、こうなることは最初から分かってたはずなんだよぉー。それでも火を弱めざるをえなかったぁー。そうでしょ、ママー?」
シルは、アリアにそう問いかける。
問いかけ? ――いや、それは確認だ。シルはその答えを確信しているようであった。
「…………シル。あなたは何を、いやどこまで知っているんですか?」
「今回のことの原因の大方は知ってるかなぁー」
「教えてください。俺にはそれを知る必要がある」
俺は知らなくてはならない。
それが今回の問題の根幹にあるというのなら、俺自身がその原因であるというのなら、俺はそれを知る必要がある。
「んー、シルはそれでもいいけどぉー ママー。いいのぉー?」
「っ!…………」
アリアはシルの言葉に少し反応して、反射的に顔を上げかけていたが、結局言葉を紡ぐことも、顔を上げることもなく、沈黙を貫き通した。
「んー、反応が無いみたいだしぃー、まあいいかぁー」
「お願いします」
「そもそも、パパは自分が世界樹であるという認識が薄すぎるんだよぉー」
シルは、俺を責めるようにそう言う。
世界樹という認識が薄い?
それは、どういうことだ?
俺は、自分が世界樹と常に理解し続けてきたつもりだし、そのための働きも、木としての成長に一喜一憂もしてきたはずだ。
それが、世界樹としての認識が薄いとはどういうことだろうか。
「んー、そういうところがだよぉー。パパはなまじ精霊体を使いこなせているために、世界樹として、いや木としての意識――危機意識が足りなさすぎるんだよぉー
ねぇー、パパー。パパだって木なんだよぉー?」
「ええ。木ですよ。それがどうしたんですか」
「わからないかなぁー。それがママのしたことの理由なんだってぇー」
???
どういうことだ。
俺が木だということがアリアのしたことの理由?
アリアが火の力を弱めたのが俺が木だから……
俺が木だから……
木……
火……
っ!
ああ、そうか、そんな単純なことだったのか。
これは、確かに俺の木としての認識不足を指摘されてもしょうがない。
つまり――
「――俺は木であるために、火に弱いということなんですか」
「そうだよぉー。パパは世界樹といっても、所詮は木なんだよぉー。近くに強い火の力があれば燃えてしまう。木であるパパにとって火であるソラは天敵といってもいいはずなんだよぉー」
本当に、単純な話だ。
木は火に弱い。火は木を燃やす。
たったそれだけのことだ。
そんな小学生でも知っているようなことを、木である筈の俺がすっぽりと忘れていたのだ。
「ママはパパと違って、そのことをよぉーく知っていたはずだよぉー。だから、パパの天敵である火を弱めざるをえなかった。パパを守るためにねぇー」
結局、俺の認識不足だったということか。
アリアは、木である俺を守るために、火の属性的適合性を弱め、火の精霊であるソラの力を弱めた。
しかし、そのために、創造の時までに、ソラの力が神の精神になれるだけの力を得ることができなくなった。
どう見ても、俺のせいではないか。
「結局、俺が悪かったということなんですね……」
「それは……」
「それは違うんだよっ!」
アリアが不意に立ち上がり、シルの言葉を遮るように、俺の言葉を強く否定した。
「どうしてです? アリアは俺を守るためにそうしたんでしょ? なら、やはり俺のせいじゃないですか」
「違う……違うんだよっ。そもそもの発端は結局、わたしの責任なんだよ!」
「……だから、どうしてです!?」
「ねぇー、パパー。そもそも、火と木の相性が悪いだけが理由なら、他の世界はどうやって生まれるんだろうねぇー?」
ただひたすらに自分を責め続けるアリアと、それを急かし問い続ける俺。
それを見かねたのか、シルがヒントを与えるかのように、口を挟んできた。
他の世界?
そうだ。確かに、他の世界にも世界樹はあるはずである。
火と木が相容れないというのなら、他の世界はどうやって火という属性を生み出しているのだろうか?
「どういうことなんです、アリア?」
「…………」
「アリアっ!?」
「……それはね、そもそもこの世界が、はじまりからして間違っているからなんだよ――」
はじまりから間違っている?
なんだそれは?
この世界のどこが間違っているというのか?
「――前に、話したことがあるよね、この世界の話。わたしは元々、この世界を発展させるつもりはなかったんだよ。でも、人間だった君を殺してしまって、君の木になりたいという想いの手助けをしたくて、それでこの世界を進めることにした。始めることにしたんだよ」
それは、かつて黒いマナ事件の後に、アリアから聞いたアリアの話。
この世界の誕生と、アリアがこの世界に専念するまでの話。
「でも、その時点で、この世界はすでに狂ってるんだよ。作られるべき順番が狂ってる。
そもそも、世界の創造において、世界樹なんてものは、それほど早く作られるべきものじゃないんだ」
世界樹が早く作られるものじゃない?
確かにこの世界では、世界樹が三番目に作られている。
天と地、そして世界樹。
その順番が間違っているというのなら、それは確かに世界が狂っているんだろう。
例えば、世界樹の前に属性が生まれていれば、確かに今回のようなことは起きないのだから。
だが、それは前提条件が無視されてしまっている。
なぜなら――
「でも、それじゃあ、マナの還元はどうするんです? マナの還元をしなければ、他の物を生み出せるだけのマナが生まれないんじゃないんですか?」
――世界樹が先に作られなければ、マナの還元ができないのだから。
そして、それなしで、属性が生み出せたり、創造ができるのなら、そもそも俺はこんなに苦労していないはずななのだ。
創造にはマナが必要である。マナは万物の素なのだから。
世界のほとんどを占める天地の概念を削ることで、大量のマナを得なければ、何もできないはずなのだ。
「ううん。
カエデ、それが大きな勘違いなんだよ。
考えてごらん。なんで、はじめに全てを天地にする必要があるの?」
「それは、マナが澱むのを抑えるためだって、アリアが言ったんじゃないですか」
「そう。それは確かにそうだよ。でも、そもそも、天地の概念を作るなら、その時一緒に他の物も一緒に作ってしまえばいいと思わない?」
「それは……」
確かにそうだ。そうなのだ。
考えてみれば、どうせ後から解体して別の物を作るなら、最初にそれをやってしまえば、わざわざ天地の概念として置いておく必要なんてなくなる。
全てを天地の概念に変換すること自体が、間違っているのだ。
そんなことをする間に、他の物を創造してしまえばいい。
まだ、マナはマナのままそこにあるのだから。
「そう。本来、世界は全てを天地に変換することなんてことは、ありえないんだよ。
旧約聖書にあるような七日間の創世。
そこまではいかないにせよ、もっと早期に全てを片付けるべきなんだよ。
少なくとも、属性なんていう基本中の基本は、世界樹なんて被造物を作る前には済ませておかなくちゃいけなかったことだった」
そうだとするなら、何故アリアは、最初から全てを創造しなかったのか?
その答えはすでにアリア自身が何度も話している。
つまり――
「でも、この世界ではすでに手遅れだった。
わたしは、当初この世界を発展させるつもりがなくて、放置しておくつもりだった。
だから、全てを天地の概念に変換した。
そして、その時点で、この世界はすでに正常に創造されることはなくなっていたんだよ」
――アリアがこの世界を見捨てていたからだ。
暇つぶしで創られたこの世界は、俺が生まれるまでは放置されていた。
ただし、神すらも恐れるマナの魔化だけは最低限の対策をして。
そして、俺は当初、つじつま合わせのためだけにこの世界に転生させられた。
俺の希望した世界樹として。もしもの時の為に残された、わずかなマナを使って。創造の順番なんて無視されて。
「だから、今回の創造の失敗は、やっぱり全てわたしのせいなんだよ」
この世界は最初から間違っている。
「わたしが、適当に世界を創世し、放置したせい」
この世界は最初から狂っている。
「その過去こそがわたしの失敗」
最初に、アリアに見捨てられたこの世界は――
「わたしの罪なんだよ」
――こうして失敗することが、初めから決まっていたのだ。
◆
アリアが全てを語り終え、黙るのと同時に、この場を沈黙が支配した。
俺は何も口に出すことができない。
アリアの失敗。
それはあまりにもどうしようもなさすぎた。
今更責めるべきことではないのは分かっている。
それは過去の失敗だ。
遠い過去の失敗。
そして、アリアはずっとそれを取り戻そうと必死だった。
あの日、二人で誓った二人の誓い。
この世界と世界樹の成長を見守る為に、アリアは取り返しの付かないこの世界を必死にどうにかしようとしたのだ。
他の世界を手放してまで。
自らの身を削ってまで。
アリアは、どうにかしようとして――
――そして失敗した。
今尚、ウィズは海を制御しようと必死にもがき苦しんでいる。
ノンもウィズを助けようと、大地として必死に海を押さえ込んでいるはずだ。
しかし、もうどうしようもないのだ。
俺は、すでに諦めていた。
俺は、すでに見捨てていた。
この世界の歪みはあまりにも大きすぎて、そして深すぎる。
すでにアリアは力を失い、俺はどこまでも無力だ。
シルやノンには、天地として対処療法的な対応は出来ても、根本的な水の暴走を抑えることはできない。
ウィズの力では、この状況をどうすることもできない。
俺たちの誓いは果たされない。
この世界はもうこれ以上育つことなく、いずれ水のそこに沈むだろう。
全ては水に。
その時、世界樹である俺が生き残れるのかどうかはわからない。
もしかしたら、海の底でも普通に生きていられるのかもしれない。
でも、そこに、シルやノン、ウィズやソラはいないだろう。
この世界の創造は果たされず、世界は永遠に停滞するのだ。
そして、俺は死んだようにたった一人で木として生きる。
俺は、結局、一人で……
俺はゆっくりと視界を閉じていく。
世界は深く、深く沈み込んで――
――そして、不意に、赤く弾けた。




