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生まれ変わるなら木になりたい!  作者: 神の狸
幼木の章 生まれる世界
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第15話 木でもわかる簡単創造講座

 「むぅー、むぅー、むぅー」



 樹液の真相の発覚と説教から一時間。


 アリアは地面から六十メートル程も離れた世界樹の枝の一つに腰掛け、ふてくされたように頬を膨らませていた。

 その頬は林檎のように赤く膨らんでおり、なんともかわいらしい。

 何より、地面から遥かに離れた位置に座り、飛び出た足をブラブラさせながら、そのリズムに乗って口に出してむぅむぅ言っている姿は普段にない子供っぽさで俺の心を鷲掴みだ。


 ……というか、そんなに樹液を制限されたことが不満なのか。かなり譲歩したんだけどな。


 むしろ、譲歩しすぎではないかと思うぐらい譲歩しているのである。制限したと言っても、今までの半分、二日に一回に減らしただけだ。全く与えないこともできるのだから、まだ感謝してほしいくらいの物だ。そもそもは、このことを黙って、俺からマナを奪い続けていたアリアが悪いのだから。



「そりゃあ、黙ってたのは悪かったけど……

 でも、どうせわたしが飲む樹液の量なんて、今のカエデが一日に生み出すマナの量からしたら微々たるものなんだよ。それを二日に一回とか。わたしに死ねと言ってるようなものじゃないか!」



 それはさすがに言いすぎである。別に死ねとは言ってない。


 しかし、まあ、確かに今の俺からしたら、アリアが一日に飲む樹液の量はたかがしれているのだろう。

 それは事実だ。今の俺のマナの一日の還元量からすると、アリアが一日あたりに飲む量はどんなに多くてっも○.○一パーセントにも満たないだろう。それほど多くのマナを俺は還元している。

 だが、塵も積もれば山となる。例え○.○一でも、それが百年も毎日続けばそれはすごい量になるのだ。

 それに、今はそうだったとしても、百年前の俺からしたら違う。あの頃生み出していたマナの量を考えると、毎日還元したマナの一割近くはアリアに飲まれていたのではないだろうか。

 だが、まあ、百年続けてきたことだ。そもそも、そのことに気がつかなかったのは俺の迂闊さでもあることだし、今更少しも飲ませないというのは、あまりにもアリアがかわいそうなので譲歩したのである。



「だから、二日に一日くらいは我慢してください」


「むぅー。いいよ、わかったよ、我慢するよっ」


「偉い偉いー。よく出来ましたー」


「子供扱いしないっ! 頭を撫でるなっ!」



 アリアが怒った。撫でやすそうな頭だったので、ついつい精霊体の手が伸びてしまった。

 さすがに俺よりもずっと長い間生きている神様を撫でるのは良くなかったか。

 でも、世界樹の樹液に関してだけは行動がやや子供じみてるんだよなぁ。


 まあ、ともかく、少しだけ撫でることのできたアリア金髪は、とてもサラサラでかつふんわりしており、撫でててとても気持ちよかった。

 さすが髪様だけはある。


 …………


 コホンっ

 


「つまらないね」



 わかってるんだよっ! だから、無かったことにしようとしているんじゃないか。

 わかってて、一々傷跡をえぐらないでくれっ!



「あー、あー、もういいよ。はいはい。君は十分に成長しましたよっ」


「なんですか、それは!」


「十分に成長したなら、マナはいらないでしょ。なら樹液を飲んでも……」


「ダメです。大体、創造もするんでしょ。そのための貯金だったんじゃないんですか?」


「あー。そんなことも言ったけなー。忘れてた忘れてた。うん。じゃあ、今から創造しようか」



 えっ!?

 何その軽いノリっ!? 

 

 そんなにあっさり創造できるの? マジで?


 それにしてもどうしてだろう。重要なことのはずなのに、こうあっさり言われると、なんかそれほどたいしたことじゃなく思えてしまうのは。何かの心理的な作用か?



「まあ、あっさりというか。ギリギリというか。

 今のマナ蓄積量なら辛うじて創造を始めることはできるかな?」


「それなら、もう少し貯めてからの方が余裕が出来てよくないですか?」


「うーん。早い話をすれば、創造する前と創造してからでは、後者のほうがマナの流通がはかどるんだよね。だから、できるなら早めに行った方が正直効率がいい。

 それにね、創造をはじめたからといって、神話のように一日とか、一週間で全て出来上がるものでもないんだ。世界がそれだけで回るようになるまで物事をっ進めるには、それこそ百年千年単位の時間がかかるんだよ。早く始めるのにこしたことはないんだよねー」


 

 それは、あれだろうか。やはり必要量のマナが揃ったからといって、すぐに全てを生み出せるわけでもないということだろうか。

 そりゃあ、まあ、そうか。例え家を建てるのでも、お金が溜まってからでも、いや材料を用意してからでもそこそこ時間がかかるのだ。まして、世界らしい世界を作るのには相当の時間が必要ということだろう。



「とは言っても、創造に関して言えば、わたし達が行うことはそれほど多くないんだけどね。前にも言ったけど、わたしが枠組みを作りあとは世界が勝手に生み出していく。まあ、世界が勝手に行う作業自体にもマナは必要だから、どちらにせよ君のやることには変わりないんだけど」


「そのへんよくわからないんですよね…… 世界が勝手に生み出すってどういうことなんです」


「まあ、そうだね。端的に言えば、生み出した被造物達が勝手に他の物も生み出し、世界が自発進化していくということだよ。

 まあ、車を作るのに、まずは車の各部品を作る機械や組み立てる機械を作るようなものかな。一回作ってしまえば、後は勝手に車の部品が作られ、組み立てられていく。

 いくらわたしが神だからといって、一人で全部考えて作るのは大変だからね。作業を分担してしまうんだよ。まあ、どの創造の方式を用いるかでだいぶ様相は異なるけどね」



 効率的な作業分配といったところか。もしくは餅は餅屋?

 神という存在はあまりに大きく、世界はあまりに広いため、神様も細かいことを行うのは苦手なのだろう。だから細かい作業を行う存在を作ると。まあ、理には叶っているな。


しかし、なんだその「どの創造の方式」ってのは。創造の方法は何種類もあるのか?



「うん、まあ。基本的には、創造の方式には二種類あると言われているね。一つがボトムアップ式。もう一つが、トップダウン式だよ」



 ボトムアップ、そしてトップダウン。

 その言葉自体は、俺も聞いたことがある。これはいわゆる組織の管理方式のことではなかっただろうか。

 ボトムアップが、下からの意見を上へ吸い上げることでまとめていく下からの管理方式であり、逆にトップダウンは、上が意思決定をしそれが下部へ支持されていく、上からの管理方式であったはずだ。

 しかし、それが創造と何の関係があるのだろうか。

 はっ! まさか世界も組織だというのか!? まあ、そう言われればそう言えないこともないが……



「いやいや! そういうことではないんだけどね。

 いや、そうともいえるのかな? もう、わたしまで、わかんなくなってきちゃった。

 まあまあ、とにかく、世界創造の仕組み自体は、それほど複雑なものというわけでもないんだよ。

 ボトムアップ式は、言うなればマナのコストの低い下位存在を先に作る方式だよ。下位存在とは、例えば動物、もっと下位でプランクトン、さらには細菌類などまで至る進化の元になる存在のことだね。そして、それらが生きられる環境も作り、あとは気長にそれらが進化するのを待つ。そのうちに、それらの下位存在は自発進化していき、最終的には神に至るものも現れる。そうすれば世界の構造は完全に安定する。これが下からの創造、ボトムアップ式だ」


 

 ボトムアップ式。これは、つまりいわゆる進化論を用いた創造ということだろうか。

 最近が微生物に、微生物が動物と植物に、動物が人間に、そして最後は神に至る。存在の格上げだろうか。



「それ以外にも神が生まれることはあるけどね。

 例えば、人間だ。

 彼らが存在しない架空の神を信仰したとする。それが少数であれば、それほど大きな影響はないんだけどね。これが、膨大な数になると、その一方向に向かった強力な意思の力がマナに影響を与えることがある。そして、遂には架空であったはずの神が新たに生まれてしまうんだよ。

 これが、ボトムアップ式におけるもう一つの神の誕生方式だね」


 

 信仰の力というやつであろうか。

 意思の力がマナに影響を与え、マナが形を変え、新たな存在が生まれる。

 言うなれば、俺が作っている精霊体に近い仕組みだろう。

 俺の場合は、マナに残留した意思を介することでマナに意思の影響を受けやすくしているわけだが、この場合は、複数の意思の力を寄り集めることで、媒介なしでそれを行うだけの強力な意思を生み出しているのだろう。

 一人一人の力は弱くとも、みんなで力を合わせれば……、というやつだ。

 昔読んだ「スイミー」という絵本を思い出すな。


 しかし、この話で一つだけ疑問なのは、この神という存在のことだ。

 これはつまりアリアのような存在のことなのだろうか?



「いや、この場合の神とわたしのような創造神は全く別物だよ。存在の次元が違うといってもいいね。

 ここで言う神とは、言うなれば一つの世界の最上位の存在のことを指している。いわば一つの世界内に縛られた存在、世界内神だ。

 けど、わたし達創造神はそうじゃない。さらにその上、世界外に存在し、世界すらも創世する世界外神といってもいい存在だよ。まあ、前者が後者にまで上り詰めることがないとは言わないけどね。よほど格を上げないと難しいだろうね」



 いまいちわかりづらいのだが、まあ、神様にも格があるということだろう。

 一つの世界の中でしか存在できないか、複数の世界を股にかけて存在できるのか。

 言うなれば、ひとつの店舗を取り仕切る店長と、そのエリア一帯の店舗を管理するエリアマネージャのような関係性だろうか。

 なんかこんな風に例えて考えると、世界創造もいろいろ世知辛く感じてしまうな。

 

 店長よ、出世までの道は厳しいぞ。



「おっと、話がズレたね。世界創造に戻そう。ボトムアップ式は説明したんだっけ。じゃあ、次はトップダウン式だね。

 こちらも仕組みは簡単だよ。むしろさっきの逆。上からの創造。先に何体かの世界内神を作ってしまって、あとはそれらに創造を任せる方式だね。上位の神が、下位の神を生み、さらにその下の存在を生んでいく。

 まあ、初期投資コストは神を作るだけに余分にかかるけど、ボトムアップに比べて初期から世界の構造が安定しやすいのが特徴かな。あとは成長速度が早い。自発進化を待つ必要がないからね。

 さっきのボトムアップ式はコストは低いんだけど、いかんせん時間がかかるんだよね。まあ、世界が安定していない分、多様な変化を遂げるから、一風変わった面白い世界を作りたい神向けの方法なのかな。二つ目か、三つ目あたりの世界を作るときはボトムアップ式を使う神が多いらしいよ。面白世界コンテストなんてものがあるくらいだしね!」



 なんだその面白世界コンテストというのは……!?

 


 …………面白そうじゃないか!!!!!! 



 正直、俺も少し見てみたいかもしれない。


 と、そういう話じゃないんだった。とにかく、二つの方式はそれぞれ、色々メリット、デメリットがあるらしい。

 今回はどちらを選ぶのだろうか?



「うん。今回はね、トップダウン式の方を選ぼうと思ってるよ。君の成長して立派な木になりたいという要望もあるしね。それだったら、安定していて早く成長する世界の方が、向いてるからね」



 どうやら一応、俺の気持ちを汲んでくれているらしい。

 いや、一風変わった世界というのにも少し興味がなくはないんだが、流石に自分がその中にいるのはなぁ……

 傍から見ていて面白くとも、中に入りたいとは思わない。そういうのは、あくまで傍観者だからいいのである。中にいる方は堪ったもんじゃない。

 実際、面白世界とかいうものにも当たり外れがありそうだしね。

 ハズレだった時のリスクを考えると迂闊に面白そうな方を選ぶわけにもいかない。

 どんなに楽しそうでも、自分の木としての成長という本分には変えられないのである。


 しかし、トップダウン式ということは……



「これから、神様を造るということですか?」



 こう言葉に出して言ってみると、しみじみここが神様が生まれる前の世界なんだなと実感するな。

 

 というか、神様を生み出すために働く俺って一体何者なんだ……?


 いや、ボトムアップ式であれば下位存在から神が生じても、おかしくはないのかもしれないのだが。でも、今回はトップダウン式なわけだしなぁ。

 実際、神様の創造自体はアリアが行うのだとしても、その一端を担っているというだけで、俺もすごく偉くなった気がしてしまう。


 ……まあ、実際のところは、世界樹だからそこそこ偉いんだろうけどね。一応、世界のマナの管理を担っているわけだし。


 いやいや、そうじゃない。

 結局神を造るのかということだ。



「うん、まあ、本当ならそうするんだけどねぇ。でも、現状、神を造れるほどには、君のマナは貯まってはいないんだよねー」


「じゃあ、やっぱり創造はまだ無理なんじゃ……」


「いや、だから今回は、変則トップダウン式で行っていこうと思っているんだよ。トップダウン式に一部ボトムアップ式を取り入れた、まあ、折衷案みたいなものかな? 最初の神を生み出す初期コストだけボトムアップ式で削って、後はトップダウン式を行うんだ」



 変則トップダウン式。

 つまり、それは、神を生み出す代わりに神の進化元となる存在を生み出すということだろうか。

 そして、神が生まれた後は、それに任せると。



「そういうことだね。まあ、この世界は元々、わたしが暇潰しで創ってしまったために、少し他の世界と違った構造でね。その辺の調整も必要だし、この方式が一番だと判断したんだよ。まあ、変則式自体は、他でも使われた実例はあるしね」


「そうですか。まあ、その辺はよく分からないので、アリアの判断に従いますが……

 それで、結局、これから何を造るんですか? やっぱりプランクトンとか?」


「いやいや、そんなに下位の存在は造らないよ。神は無理にしても、そこそこマナの貯蓄はあるんだしね。もう少し上位の存在からはじめるんだよ。

 それに言ったでしょ。世界の調整が必要だって。だからそれにもふさわしい存在を造ろうと思うんだ」


 

 そこそこ上位で、神に至りやすく、そしてよく分からないが、世界の調整にも使える存在。

 

 ……何だろう。その便利すぎる存在は。

 すごく気になる。


 ああっ! そう、いつまでも回りくどく言っていないで、さっさと教えてくれ!!



「そうだね。これからわたし達が造るのは……」


 

 そして、アリアはゆっくりと世界樹の枝の上に立ち上がると、やはり勿体ぶりながら、すごくイイ笑顔、つまりドヤ顔で、ポーズを決めてこう言った。




「いわゆる精霊だよ!」

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