第11話 アリアの想い
「もともとね、この世界は大して力を入れるつもりはなかったんだよ」
アリアは語る。それは、アリアの話。
「ほんの暇つぶし。そうだね、授業の合間にノートの端に四コマ漫画を書くみたいなものかな。本業として力を入れるつもりなんて全くなかったんだよ。すでにわたしは三つもの世界を担当していたしね」
「でも、その暇つぶしのせいで、本来死ぬはずの無かった君を殺してしまった。焦ったよ、わたしは。どうしようってね。死ぬはずのない君の魂を受け入れる場所がなかったんだから」
アリアは悩む。それは、必然。アリアの過ち。
「結果として、わたしは君をこの世界に転生させることで、その辻褄を合わせることにした。ついでに君の願いを叶えることにして」
「そして君は世界樹となった。天と地しかない世界に、概念しかない世界に、世界樹という肉体を持つ生命が生まれた。生まれてしまったんだよ」
アリアは間違う。それは、過ぎしアリアの選択。
「概念しかないのなら放置しておいても良かった。その世界には何もないんだからね。何の変化も起きない、永遠の静止。無限の停滞だよ」
「でも、すでに君という生命が生まれた。君が認識し、考え、行動することで、世界は必然的に変化するようになる。世界は動き出してしまう」
アリアは考える。それは、はじまる世界の変化。
「それでも、わたしは最初は大してやる気はなかったんだ。つじつまさえ合えばいい。この世界は所詮遊びなんだって」
「でも、君が、カエデが木になれて、木として生まれて、本気で喜ぶ姿を見て、わたしは思ってしまったんだよ。綺麗だって。君のその純粋な木への憧憬がとても綺麗だって」
アリアは思う。それは生まれるアリアの想い。
「本来の停止した世界の中では、君はそれ以上成長することは無かった。世界樹は世界とともに大きくなるんだ。この世界はそれを為すだけの条件を揃えていないんだからね」
「でも、わたしは願ってしまった。この世界を、このカエデが世界樹としてある世界を。その憧れにふさわしいものにしてあげたいって。君が世界樹として成長して行ける、立派な木となれる世界にしてあげたいってね」
アリアは願う。それは叶えるべき、アリアの夢。
「だから、わたしは決めたんだ。この世界だけの神になる。この世界だけに集中しようって」
「勿論心残りはあるよ。他の世界も、みんなわたしが創ってきた世界。いわばわたしの子供のようなものなんだからね」
「でも、彼らは、かの世界らはもう立派に育ったよ。わたしが見ていなくても動いていく。だから、友人に任せることにしたんだ。この世界を、わたしの新しい子供を、君と一緒に立派に育てていきたいから」
アリアは託す。それは受け継がれる、アリアの願い。
「まあ、その手続きをしている間に、肝心の君が死にかけてしまうなんて思いもよらなかったんだけどね。君が助かって本当に良かったんだよ。君がいなくちゃ、この世界を育てる意味なんてないんだから」
「わたしは君と一緒に育てていきたいんだ、この世界も、そして君自身も」
アリアは語る。
語り、悩み、間違い、考え、思い、願い、託し、
そして、アリアは問いかける。
「だからさ、」
「わたしと一緒に、この世界を作ってくれないかい?」
「共にこの世界での日々を歩んでくれないかい?」
「わたしは君とそれをしたいんだよ」
「カエデ」
そして、俺は、俺は――
「――、――――――」
――アリアが尋ね、世界樹は答え、そして、世界は始まった。
 




