プロローグ
生まれ変わるなら木になりたい。
青々と生い茂り、世界に彩りを満たす木。
動物は必ず何かを他者から奪い生きている。
それは食事という形であったり、また呼吸という形であったりする。
しかし、植物は違う。彼らは己が力で栄養を得て、また呼吸で奪い取った酸素も光合成で還元する。
光合成。何者からも奪わず、何者にも頼らず、ただ己が力だけで生き続ける植物だけの力。
それは植物を他の生物よりもずっと優れた存在にさせている。
そんな優れた植物の中でも、木はまた飛び抜けている。
日々の暮らしに追われることなく、光合成と呼吸をするだけで暮らしていける自活性。
唯、泰然とそこにあるだけなのに周りを圧倒する、大樹の持つ存在感。
大地に根を張り自然の一部になる安定性。
木はすばらしい。
木こそが理想の存在だ。
木こそが完全な存在だ。
そう、もし二度目の人生があるなら、もし生まれ変わるなら、次はきっと木になりたい。
それが俺の夢だった。
……ああ、もちろん本気で叶うと思っていたわけではない。あくまで夢だ。
休日に時間があれば近所の神社のご神木を見に行ったり、少し足を延ばして森林浴に出かけることはあったが、それくらいのものだ。
友人と出かけるような旅行では、観光名所そっちのけで名所周りの木ばかり観察批評して、友人にあきれられたことはあるが、たかだかそのくらいのものだ。
そう、そんなわけで、この俺、楠木楓はとりわけ変わった所のない、少し木が好きなただの大学生だった。
そう、だったのだが――
「そんなわけで、わたし神様なんだけど、ちょっとした失敗で間違って君を殺しちゃったから、いわゆる異世界転生でもさせてあげようと思うんだけど、なんか希望ある?」
「木になりたい」
「……えっ?」
「木になりたい。そう、樹齢数百年、いや数千年にもなろうかという、雄大な大樹に俺はなりたい」
「マジで?」
「マジで!!」
――どうやら本当に木になれそうだ。