表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マガイモノ〈未改訂版〉  作者: 海陽
マガイモノ
4/60

狂気に魅せられた者

「そうですか。失敗しましたか」


高層ビルの最上階。ワンフロアぶち抜いた広い一室で、GBPの報告を受けた男が窓の外に広がる街並みを眺め、一言呟いた。


その声は冷やかで、ゆっくり振り向いた彼の双眸の無情さに男は慄然した。


「良く分かりました。GBPもそこまで秀でている訳では無いのですね」


逆光で彼の顔は暗く、見え辛い。それでもその眼の冷たさだけは良く分かった。


「これからは、別の者を探すことにしましょう。そう、上部に伝えて下さい。貴方はそれが僕とGBP間の最後の仕事となるでしょう」


それは、GBPが二大バックボーンの片方を失う、と言うことであった。


男が去った後、彼は自身の特注の回転式の椅子に座り、机に両肘と顎を付いた。


「仕方が無いですね……僕自身が、動くしかありませんか」


丁度その時、遠い部屋の扉から部下が入ってきた。


「失礼いたします、社長。お客様がお見えです」


「お通しして下さい」


一転して穏やかな笑みと光を眼に浮かべる彼に、部下は頷き退室して行った。


部下の代わりに入室してきた男を見て、それが誰なのかを認めると、彼は一つ溜息を吐きその男に笑いかける。


「なんだ、また貴方ですか。日本新聞社の形響(かたひびき)さん」


笑みを浮かべそう言われた形響は、苦笑しながら彼に近付いた。


「またとはなんですか、ダナニス・青馬衣(あおうぎ)社長。あなたを取材するのが私の仕事だというのは、良くご存知のはずでしょう?」


形響の言葉に今度はダナニスが苦笑する番だった。


「懲りませんね、貴方も。毎回同じ様な取材をして、読者も飽きるでしょうに」


「そんな事はありませんよ!皆、ダナニス社長の善意に感心しているんですから」


彼……ダナニスは、その名を言えば日本では知らない者は居ない。

若干35歳程の若さで食品事業を起業し、一代であっという間に日本有数の大企業へと成長させた、若手の青年起業家。


180cmの高身長に背まである黒髪を細く後ろで束ねている。加えて、すらりした細身の体躯に端正でありながら、ハーフを思わせる彫の深めな顔立ち。

まるで絵に描いたような優男。成る程、道理で女性に人気があるはずだ。


「つい先日も、海外のNPO法人や貧困地域に多額の寄付をなさったんですよね?」


形響の質問に、穏やかに笑みを浮かべるダナニス。


「本当であれば、僕自身が現地で活動できれば良いのですが……。生憎それすらできませんので、せめて活動なさってる皆さんの助けに少しでもなれば、と思いましてね」


「でもその額は億にのぼると聞いてますよ」


「……形響さん、貴方どこからそんな情報を手に入れてくるんですか。これでは取材しなくとも良いのでは?」


ダナニスが困ったように笑いを漏らし、形響を見ると彼は慌てたように身を乗り出した。


「そ、そんな事言わないで下さいよ。ダナニス社長の記事を取れなくなったら、私大変な目に合うんですから!」


終始穏やかに取材を済ませ、また一人になると窓際に立ち、小さくも見える街並みを眺めて目を細めた。


先ずはこの国、そして世界へ。


何かを目論むように口の中で呟き、机上の新聞を手に取る。そこにはダナニス自身の海外資金援助の記事が載っていて、慈善家の文字が目立つ。


フッと小さく笑い、彼は再度特注の椅子に座るとバサッと机に新聞を放った。


「次の手を考えなくてはいけませんね」


脳裏に浮かんだのは孤児院FARMの殲滅と、GBPの追跡から逃れ果せた数人の少年少女の一人、33番の事。


GBPの行動はその全てが極秘にされている為、彼らの存在すら、知っている者は政治家のごく一部しか居ないはずである。


何故FARMの殲滅を知っているのか。そして何故、33番のあの少年を知っているのか。


ダナニスの真意を知る者は、まだ居ない。



***



戦時中、日本は兵力やUボート、レーザーといった武力面で他の大国から遅れていた。あるのは世界トップクラスと言っても過言ではない程の、化学力。


ウィルスやワクチンといった人体に影響を及ぼす物を、国はあろう事か若者達を実験台に生物兵器を創り上げてしまった。


全国から男女問わず健康体の若者を法の下に徴集し、人体実験を繰り返す。


その結果生まれた、超人的身体能力や特殊能力を持つ者達を兵力とし、日本は戦争に参戦した。


“倒したはずが、翌日には戦場に姿を見せる”


それはまるでゾンビのようだ、と異名が付けられる程。


その身体能力の超越した高さに各国の軍から怖れられ、また、兵器としても驚異的な殺戮能力により……日本はその世界規模の戦争に勝利した。


そして兵器とされてしまい、終戦後も生き延びた者達。


彼らは“今後は自衛以外の兵力を一切持たない”という法改訂に伴い全国へと去り、子孫を残しつつその生涯を終えていった。


あれから60年以上。日本は、科学力もさることながら、経済面も発展し今や経済大国の一つとも言われるまでになった。


華やかな発展のその裏で、戦時中の今でいう違法な人体実験に魅せられた者達が現れ始める。


生物兵器として創られた超人的身体能力、そして特殊能力。


我が物にすることが出来たなら。それを未だ戦争を繰り広げる国に輸出すれば、巨万の富を得る事が出来る……と。


だが法律改訂で違法とされ、バレれば重刑を免れないこの行為。彼らが考えたのは、徹底したカモフラージュだった。


全国の孤児を集め、無償である程度までの教育を受けさせる施設。


それが、孤児院FARM。


だが裏では生きていけるだけの最低限の衣食住と教育しか与えず、新薬を研究しては孤児達を実験台にするという、非道を行っていた。


ところがFARMの幹部達は孤児達だけでは満足出来ず、戦時中の生物兵器にされた者達の家系を調べ始めた。


生物兵器の子孫であれば成功率も上がるはずだ、と。


調べあげて居場所を特定すると、彼らは“捕獲”に動き出す。拉致や事故に見せかけ連れ去る。その齢、全て2歳未満。


33番の少年も、逃げたがGBPに捕らえられていった少年少女達も。成功例として生き延びた者は皆、生物兵器の子孫であった。


だがGBPの殲滅によってその野望は消え去り、幹部達も新薬も全て、炎と共に闇へと葬り去られた。


そしてGBPに捕らえられた少年少女達も、国の悪になり得るとされ、その生命を絶たれていった。

全ては日本国の未来の為に、と。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ