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マガイモノ〈未改訂版〉  作者: 海陽
マガイモノ
19/60

第一班Sチーム side.框矢

影人の気持ちは知っていた。

あいつは親を二人共轢き逃げされ殺された挙句、犯人は国会議員ってだけでのうのうと過ごしている。


俺には親なんて居ないから、心底から理解してやる事なんて出来ない。だけどそれがもしダイルだったら、って思った時、確かに嫌だと思うんだ。

憎くて憎くて堪らない組織の所で知り合いが働くってなったら。


それでも俺がこのSPとか言う所で働く事にしたのは、給料が今まで働いて来た中でもダントツに高額だったから。


ずっとあいつばかりが家賃も食費も負担してるって言うのは居心地が悪い。だから、採用試験に臨んだ。影人は渋々だけど、納得してくれたみたいだったし。


合格通知を受け取りに行った時、担当の警察官から一週間後もう一度来てくれ、と言われた。


「服装は地味で動き易ければ特に問わない。来たら配属先を決める為に会場に連れて行くから、時間厳守で頼むよ」


「分かりました」


そうしてもう一度その警察署に行ったら、都心の警察庁に連れて行かれたんだ。広めの会議室とか言う部屋には他にも合格したらしい奴が大勢居て。でも皆俺より明らかに年上で、若くても30代前半に見えた。


未成年とか20代は俺以外には居なくて、何だか浮いてる気がするんだ。周りも俺を遠巻きに見てるし。


そんな時、バインダーを持ったスーツ姿の男がぞろぞろと入って来た。その誰もが結構鍛えてるみたいで、体躯が良い。


「今から班分けを行う。呼ばれた者は返事をし、移動する事」


男の一人が、そう告げると一瞬で室内のざわめきが消えた。

何て言うんだ、この感じ。威圧……じゃない、それでも逆らえない様な重みがあるこの声。


それが威厳って言うんだって事が分かるのは、もう少し後の事。


「採用試験で成績の良かった者から呼ぶ。班分けの後に更にチーム分けをするので、移動した所で留まっているように」


彼は簡潔な説明を淡々と言うと、手元のバインダーをチラッと見て息を吸った。第一班、と良く通る声で告げて俺ら合格者を見る。


「框矢」


真っ先に呼ばれたのは俺で。まさか一番に呼ばれるとは思って無くて、慌てて返事をする。


「はい」


移動って言ったって、どこに行けば良いんだ?


そう思ったら、並んだスーツ姿の彼らのうち、二人の手のバインダーには、第一班、第二班って印刷された紙が挟まっていた。第一班って紙のバインダーを持ってる男の所へ近寄ると、彼は明るい笑みを浮かべていた。


鮫島武司(さめじまたけし)だ。よろしく」


「……よろしくお願いします」


ズイッと差し出された手にちょっとビビりながら、握手を交わす。


痛い。俺の上司にあたるんだろうけど……握力すげぇな、この人。


順々にその後も名前を呼ばれる。


「今呼ばれなかった者は、第二班に入れ」


全員が班の所へ並んだのを確認すると、名前を呼び上げていた男がまた良く通る声で合格者全員に呼びかけた。


「次はチーム分けを行う。各班の中で、更にチームを組んで貰うからな。各チーム八人、今後はそのチームで行動して貰う。指示は班長に仰ぐように」


全てを言い終えると、その男は部屋から出て行った。


「さてと、第一班の皆。俺が第一班班長、鮫島武司だ。よろしく頼むよ。隣に居るのはチームリーダーだ。今から左からの出雲(いずも)のAチーム、最戸(さいど)のBチーム、井藤(いとう)のCチームに分かれて貰う」


そう、俺に向けたのと同じ笑顔で第一班全員を見渡すと順に振り分けて行く。だけど俺は呼ばれなかった。何でだ?


他にも七人程呼ばれなかった奴が居て、彼らも不思議そうに互いの顔を見て微かに首を傾げる。


「呼ばれてないメンバーも居るだろう。そのメンバーは俺直属のSチームに入って貰うからなー。それじゃ、後はチームリーダーに従ってくれ」


ずっと明るくテンションが下がらないまま言い切ると、俺や呼ばれてない奴に振り向いた鮫島って名前の班長。


青生(あおき)白峰(しらみね)秋本(あきもと)翠川(みどりかわ)本野(もとの)神宮(じんぐう)唐丈(とうじょう)。それから框矢だったな。これからは俺と共に仕事に就いて貰う。SPってな、結構物騒な職なんだ。警護対象を護る為に我が身を犠牲にしなきゃいけない。敵の撃退、詮索そして拿捕。その為にSPは武器の所持を許可されてる程なんだ」


ふーん、武器の所持が出来るのか。それなら瀧宗も許可してもらえるのか?なんて、ぼんやり考えていた。


「俺のSチームのSは、specialty、専門って意なんだ。後はsecurityも兼ねてる。

で、このチームは他のチームや第二班とは違って特別重要な人物を警護する事になる」


総理大臣や内閣関係者とかな、と付け加えスッと顔を引き締めた。


「日本のSPはSIG SAUER P230って38口径の拳銃を所持してる。装弾数は7+1発。自分でもし使いたい物があるなら言ってくれ。物によっては許可出来るかもしれんからな。明後日からの勤務の時に渡すから、今日は帰って良いぞ」


実物を見せられ全員の顔も引き締まる。玩具なんかじゃない、本物の拳銃。

そういや影人が言ってたな。日本警察の拳銃所持は、威圧と反抗抑制が目的だって。


瀧宗の事はちょっと聞けそうに無いし。

もちろん、そう簡単に許可が貰えるなんて思ってなかったけど。……帰ろう。あいつの飯、美味いんだよな。


影人と暮らすうちに、俺も随分とあいつに対する警戒心が薄れたみたいだ。いつの間にか影人の作る飯が楽しみになってる自分に内心驚きながら、帰ろうと会議室を出ようとした時だった。

俺だけ、班長に呼び止められたんだ。

38口径のSIG SAUER P230という拳銃は、実際に日本警察(どこの都道府県だったかは覚えていませんが)が使用していたそうです。現在も使用しているのかはわかりません。

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