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マガイモノ〈未改訂版〉  作者: 海陽
マガイモノ
16/60

初めての親友 side.框矢

あの日、路地で相棒の鳥を盗られたとか言う奴に絡んでた三人組を倒してから数日。俺は相変わらず、バイト探しの為に求人情報誌を集めてはカフェでページを捲っていた。


一応、あれはあいつと鳥を助けた事になるんだよな?


いまいち実感が湧かないが、誰かの役に立てたって言うのは悪い気はしない。

今日はアイス烏龍茶とか言うお茶を啜りながら、バイト探しだ。


このお茶もさっぱりしてて、中々のもの。カフェオレが売り切れで仕方なく頼んだけど、試してみるもんだ。中々に美味い。


ごくっと飲み込んだその時。



「やーっと見つけたぞ、あんた」


聞いた事がある声が、すぐそばで聞こえた。


「?!」


ギョッとして隣を見ると、膝横にもポケットのついた細身のズボンに半袖シャツの奴が俺を軽く睨んで立っていた。

そいつは紛れもなく路地で対峙していた明るい髪のあいつ。


「あんた、俺が礼をする暇も無くどっか行っちまうから、ずっと探し回ってたんだぞ」


探し回ってた?この数日、ずっと俺を?


「大事な奴を助けてもらったっつうのに、礼も出来なかっただなんてあんまりだぞ。俺は法鴉影人。あんたは?」


「……框矢」


「そっか、框矢か!良し、礼をするよ。俺の事は影人って呼んでくれよな」


髪色だけで無く声まで明るい影人とか言うそいつは、俺の返事も聞かずにそんな事を言う。


俺はついて行くなんて一言も言ってないのに!


「……悪いが、俺はバイト探しの最中なんだ。礼は要らない」


そんな事言うなよー、と尚も声をあげるそいつを背に、レジで金を払って外に出る。


「なぁ框矢、礼をさせてくれよ」


早足で歩を進める俺に、駆け足で追いつくと明るい顔で俺を呼ぶ。


「要らないって言ってるだろ」


「つれねぇなぁ、それじゃ俺の気が済まないんだって!な、頼むから」


何度断ってもついて来る。そして諦めてくれない。何でこんなに俺にまとわりついて来るんだ、こいつは?


「あのな。俺はたまたま通りかかったら絡まれただけなんだ。結果的にお前を助けた事になったとしても、別に礼をしてもらうほどの事じゃ無い。

だからほっといてくれ」


「お前、じゃ無くて影人って呼べよな?

框矢が良くても俺が嫌なんだよ!だから絶対礼はさせてもらうからなっ」


そしてパッと腕を取られ、ぐいぐいと引っ張られる。


「お、おい!お前……っ」


「だーかーらー、影人だっつうの!」


腕を取られたまま着いたのは、古いビルの一室で。


「ようこそ、俺の根城へ」


ニッと歯を見せ笑うと、俺を部屋へと引っ張った。


ようこそと言ったって、お前が連れて来たんだろうが。


だけど来てしまったものは仕方ない。俺は、そいつの言葉に甘えて部屋に入った。


数人掛けの長いソファと一人掛けのソファ、膝丈の背の低いテーブル、大きめのランプ。そして箱型のバッテリーに繋がれた小さい冷蔵庫。水道はあるようだけど、電気は通って無いみたいだ。天井近くに横長の窓があるけど、外を眺める用途ではなさそうだし。


部屋の隅には段ボールが何箱かあって、あとは鳥の止まり木らしきものも置いてある。多分、あのラプターとか言う鳥の為のものだろうが。

なんと無く、部屋全体を観察してしまう。


テーブルにはパソコンが置いてあった。キーボード一台にディスプレイが三台。


……三台?何で三台もあるんだ?


「框矢、昼飯まだだろ?今から簡単に作るからさ、一緒に食おうぜ」


適当に座ってて良いからさ、と明るい声に部屋を見回し長いソファに腰掛けた。


古いけど、結構座り心地が良いな。

ぼんやり思った。けどハッとする。俺はバイト探しをしてるはずだったのに!


「おい……」


「影人って呼べって言っただろー?」


俺の話は全く聞いちゃいない。ごそごそと段ボールの中を引っ掻き回し、人参に玉ねぎや、レタスやらと食材を取り出してテーブルに乗っける。チャーシュー何処にしまったっけ、なんて言いながら、尚もあちこち探すと冷蔵庫から容器を取り出した。


「あったあった!これがあると美味いんだよな」


手際良く食材全てを細かく切り、何処から出したのか、カセットコンロをテーブルに置いて火を点けた。次いでフライパンと小型の木べらも。

冷蔵庫からコンビニで売ってる加熱式の白米を持って来て、食材を炒めて米を加える。


「仕事先には親切な人も居るもんでさ。使えるけど要らない物とかをただでくれるんだよ。このカセットコンロもフライパンも、冷蔵庫にバッテリーもみんなただでもらった物なんだ。中には農家で野菜とか分けてくれる人も居るんだぜ?」


流石にランプや食器は自分で買ったけどな、とあっという間にチャーハンを作ってしまった。ほかほかと湯気を立てる出来立てのそれは、見るからに美味そうで。


「食えよ、框矢の昼飯でもあるんだからさ」


そう笑って皿によそって俺に渡して来た。


「……」


暫くチャーハンを見ていたけどせっかくもらったんだし、と思ってスプーンを手に取る。


「美味いな」


一口頬張ってぽろっと出てしまった。

ダイルのも美味かったけど、こいつのも中々の美味さ。俺は料理なんてからっきし出来ないから、美味い料理を作れるって言うのは凄いと素直に思う。


「なぁ框矢、あんたって何処に住んでるんだ?」


思ったけど、こいつ……最初からずっと俺の事を名前で呼び捨てにしてるな。

まぁ、良いんだけどさ。


「カプセルホテルや漫画喫茶とか」


「ふーん」


ふーん、って何だよ。お前が聞いてきたんだろうが。

自分もチャーハンを頬張りながら、暫く何かを考えていたそいつ。


「そういや、あいつは?」


ラプターとか言う鳥の姿が見えない事に気付き、向かい側に座る彼を見やるときょとんとした表情をする。


「ラプターの事か?ラプターも今は飯の最中だと思うぜ」


フライパンからチャーハンを再度よそいつつ、狭い窓から空を眺める。


「隼の主食は小鳥だからな。まぁ虫を食うこともあるけど」


「へぇ」


隼か、確か猛禽類だったっけな。どうりで鋭い爪してるわけだ。


チャーハンを食べ終わると皿をテーブルに置いて、担ごうと自分の荷物に手を伸ばす。取り敢えず、バイト探しをしなきゃならないからな。


「影人……だったか?チャーハン美味かった」


「お、名前で呼んでくれたな!どう致しまして。なあ、框矢もここで暮らさねえか?」


「はぁ?!」


唐突な申し出に思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。暮らす?会って間もない他人のこいつと、ここで?


「ラプターはほんと大事な奴なんだよ。そのラプターを助けてくれたし、毎日ホテルだ漫画喫茶だと寝泊まりしてたらあっという間に金が尽きるぞ?」


いや、まあ、そりゃそうかもしれないけどさ。


確かにホテル暮らしは金がかかる。食費だって携帯のプリペイド代だってそれなりの金額。ダナニスとかいう奴の所為で、バイトを二つとも辞める羽目になって収入源が無い今、宿泊費は結構痛い。実際、所持金も四万を切ってるし。


「ここの家賃は水道代込みでひと月4800円。框矢は2000円持ってくれたら良いし、食費は俺持ち。後は……うん、俺の仕事を少し手伝ってくれたら助かる」


「……」


「良い案だと思うけど?」


にこにこと俺を見てくるそいつ、影人は、まるで俺がその案に乗ると信じ切っているみたいで。


「お前の仕事は何だ?」


「便利屋だよ。家事の手伝いも買い物の代行も、ペットの世話に電球の交換。頼まれた事を何でもこなすんだ。後は裏の仕事で情報屋をしてる。これでも結構信用されてんだぜ」


その時、窓から器用に室内に入って来たのは、影人がラプターと呼んだ隼。


「美味い飯食えたか?」


隼に影人が声を掛けると、“うん”とでも言う様にピィ、と一声鳴き声をあげる。


「俺はまだ他人をあまり信用出来ないんだ。努力はする、それでも良いなら住まわせてもらう」


「もちろん!仲良くしようぜ」


スッと俺に差し出してきた影人の手を、ゆっくり掴み握手を交わす。そうして影人との共同生活が始まったんだ。俺にとって二番目の家と言える場所が出来た瞬間だった。


互いの境遇や年を話し、驚いたのは影人がダイルの事を知っていたと言う事。

ダイルが現時点で世界最高の名工だってことも、正式な入国者で無いことも。


「良いなぁ、框矢!ダイルの最高傑作じゃねえか」


「……そうか?」


瀧宗と村雨に惚れ惚れと見惚れつつ、羨望と憧れの眼で手渡した瀧宗を見る。


「あるとは知ってたけどさ、俺なんか持たせてもくれなかったんだぜ?“お前には扱えん”って言ってさ。代わりに叢雨(むらさめ)くれたけど」


「村雨?」


同じ短剣があるのか?


「違う違う、叢雨。框矢のは“村”、俺のは“叢”。框矢のには劣るけど、叢雨だってかなりの切れ味なんだ」


抜刀してみても良いか?と瀧宗と俺を交互に見てくる影人に、一つ頷く。


喜々として鯉口に近い所の鞘と、柄に手を掛ける。


こいつにとってもダイルは大事な師らしく、情報屋として様々な情報を売り買いする中でも、ダイルの情報だけは絶対に売買の対象にはしないんだとか。


村雨をベルトに付け直し、ソファの肘掛けに腰を下ろして影人を見る。


「な、んで、抜けないんだよ…っ!」


「大丈夫か?」


思わず苦笑いしてしまうくらい、渾身の力で抜刀しようとする。が、鯉口とはばきが吸い付いた様に抜けないようで。ゼーハーと荒い息で俺に瀧宗を返してきた。


「ダイルが框矢に渡したって事は、框矢なら扱えるって事だろ?」


まぁ、そういう事になるんだろうな。


多分な、と短く答え、鞘と柄を構える。居合斬りの構えだ、とかダイルが言っていた気がする。瀧宗を床と水平にし、柄を握る左手に軽く力を込める。そしてチャキ……と小さな金属音と共に、瀧宗を抜刀した。


何かを倒す為に抜刀した事は無いけど、既に瀧宗は俺の手に馴染んでいて。長年瀧宗を使ってきたんじゃないかって、錯覚してしまう。


「やっぱかっこ良いなー。框矢は容姿が整ってる方だしよ、着物着たら侍じゃね?」


拳銃より刀が似合ってるよ、と楽しそうに言う。凄えな、と褒められなんだかむず痒い。

だけど。楽しそうに言う言葉は結構物騒な単語だぞ?俺もだけど、お前だって17歳だろうに。


納刀しながら溜息を一つ。


それから。午前と15時までは便利屋、それ以降は情報屋として仕事をする影人。俺はその手伝いをしながら過ごす日々が始まったんだ。


ただ……やればやるほど、俺は便利屋には向かないらしい。何でもササッと器用にこなす影人とは違い、俺は不器用で。特に電化製品の修理なんぞ、あんな手先を使う仕事はまず無理だ。


結局、便利屋で俺が手伝えるのは買い物代行の荷物持ちくらいなもの。それでも影人は笑っていた。仲間が出来て楽しいから良いんだ、って。


ある日、便利屋()の仕事を終えて部屋に戻ってきた影人が、俺を見るなりこの後人が来るんだ、と言ってきた。


「17時くらいだと思うんだけど……客が来るんだ。情報屋()の方のな。黒白龍(こくびゃくりゅう)っていう香港系ファミリーの幹部らしい。初めての客だよ、何処から俺の情報を得たんだか」


「ファミリー?」


「裏の組織さ。マフィアと言えば分かりやすいか?対抗組織(敵さん)の情報を欲しがってる。框矢はもし何か聞かれても、応えないで良いよ。俺の後ろで座っててくれたらそれで」


「分かった」


やくざとは違うみたいだな。そんな事をぼんやり思ってた俺に、影人はあぁそうだ、ともう一度俺を見てきた。


「悪いけど、瀧宗だけ持っててくれねぇか?海外の奴って、日本のとは違って普通に銃とか所持して来るから」


威嚇の意味も込めてさ、と言う彼に分かった、と答えてパソコンを立ち上げるのを眺める。


カタタタタ……とキーボードを見ずに、かなりの速度でタイピングをして横文字ばかりの文を打っていく。それも器用に三台全てのディスプレイを見ながら。


暫くしてパソコンを切ると、俺に出掛けようぜ、と笑いかけてきた。


「何しに?」


「晩飯の材料調達」


框矢は財布無しで良いから、と言われ、瀧宗のケースだけ背負って出掛ける。


「なぁ、何か食いたいものとかねえの?」


「特には無いな」


こいつの料理は何でも美味いし、俺だって特に好き嫌いは無い。任せておけば間違いないだろ。


「何だよつまんねーな、リクエストくらいしろよな」


ぶつぶつ言いつつ、簡単に炒め物でもすっかな、と精肉コーナーに向かう影人について行く。


「明日はカレーにでもするか」


楽しそうに笑みを浮かべながらカゴへ食材を入れていき、あっという間にカゴの数は二つを超えた。


「買い過ぎじゃないか?」


カートのカゴを見て、そう思わず聞けば別に?と返って来る。


「いつも数日分纏め買いするんだ。このスーパーじゃ、その方が実は割引が効いて得なんだよなー」


まるで主婦のセリフ。ふーん、と言うしか出来なかった。案の定、荷物は段ボール二箱になってしまったんだ。


「影人、お前軽い方にしとけ。力無えだろ」


態々わざわざ重い方を持とうとする影人に声を掛ければ、悔しそうな表情をする。


「そりゃあ框矢に比べりゃ力は無いさ。でも一応男なんだせ?」


軽く憤慨して持とうとするものの、見るからに無理そうで。


「見栄張るな。腰痛めるぞ」


ひょいと段ボールを受け取り、軽い方を持たせる。人並み外れた筋力のおかげで30kgはある段ボールも楽に持てた。こういうとき、この身体能力があって良かったって思うんだよな。


「框矢って細身なのにさ、どこにこの重い物を持てる筋力があるのかな。不思議だよなぁ」


「さぁな」


ビルに戻り、冷蔵庫に物をしまってから数十分程した時だった。

遠くで車が停まる音、そしてビルの階段を上ってくる二種類の靴音。スッと影人の表情から笑みが消え、仕事の顔になった。


顔を見合わせ一つ頷くと、窓を背に影人がソファに座った。その後ろの木材の丸椅子に瀧宗を持ち、俺も座る。


一体、裏の組織ってどんな奴なんだろう。


コンコン、とノックの後にドアが開かれ、そこにはスキンヘッドとスポーツ刈りの二人の男が立っていた。

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