突然の解雇 side.框矢
「框矢、そろそろ休憩しとけよー?ずっと働き詰めだろうが」
「では休憩に入らさせて頂きます」
働き始めて半年以上。昼夜どちらの職場でも信用を得る事が出来てこれているのは、肌で感じていた。
でも俺は嬉しいとか楽しい、っていった感情は未だに良く分からなくて、表情で表すのも苦手なまま。そんな俺でも、職場の人達は何も言わずにいてくれる。
部品製造の社長からは特に気に掛けられてるのは悪いな、って気持ちもあるけれど有難いんだ。まだ心底からの信用は出来て無いけど、恩には報いたい。
「やっぱり美味いな、ランチパックのたまご」
最近お気に入りのコーヒーオレを啜りながら、物思いに耽りつつ高めの天井を眺める。
社長に何か返してぇな。世話になってんだし。
ぼんやりそう思いながら休憩を終え、また部品を運んだり機器を動かす先輩の手伝いを繰り返した。
「お疲れ様でした」
「おぅ、お疲れ」
仕事を終え、帰途に着く先輩達を送り出す。リュックサックは社長に預けて貴重品と瀧宗のケースを持って外へ出た。
行き先はもちろん、工事現場だ。
「今日は……下水道の工事だったかな」
呟きながら目を擦りつつ現場へ向かうと、そこでも朝方まで働く。そんな俺を見ている奴がいるとは知らずに。
“見つけましたよ……33番”
何故か、見つめられて昔の名を言われたような、得体の知れない気持ち悪さが一瞬身体を襲った。
「……??」
でも本当に一瞬で、直ぐに仕事に集中し直した。そして翌晩もいつも通り工事現場に着いた。けど、なんか先輩達の雰囲気が違う気がする。
「……あれ、お前辞めたんじゃ?」
「え?」
話を聞こうと近寄った現場監督の言葉に目を瞬かせる。
何で昨日の今日で辞めた事になったんだ?
どういう事ですか、と尋ねると頬を掻きながら現場監督自身も腑に落ちないように答えた。
「昼間、お前を捜していたとか言う男が来てな?自分の会社で働かせたいからって、引き抜いてったんだよ」
「誰ですか、その男。俺は辞めるつもりは更々ありませんが」
この仕事は別に苦でも無いし。何で見ず知らずの奴に仕事を辞めさせられなきゃいけないだ。
「さあな、俺も知らん奴だったよ。だがもしお前がまたここに来たら、追い払ってくれって言われたんだ」
追っ払ってくれ、だって?!何の権利があって俺をこんな目に合わせるんだよ!
けどなぁ、と溜息を漏らした監督は俺の肩をポンと叩く。
「お前は一人で雑務全般をこなしてくれる、有難い人材だったんだよ。いくら辞めた事になったとは言え、追っ払うなんてやっぱ出来ねぇよ」
「監督……」
まさかそんな風に思っててくれてたなんて。自分は他人に必要とされてるんだって事に、何だか良く分からないが心が暖かくなった気がした。
「それでもなぁ。一度辞めた事になってしまったもんは、再雇用は難しいんだよ。お前は年齢的にギリギリの歳だったからな」
「そうですか……」
良いバイト先が見つかる事を祈ってるよ、と言われて礼を言うとのろのろと部品製造の作業場へと戻る。
社長はびっくりしていたけど、ゆっくり休みなさい、と言ってくれた。いきなり現れた謎の男にイラつきながらも、その晩はゆっくり寝れた。
何も言わずに休みなさい、と言ってくれた事に感謝した。そしてこれが有難い、って気持ちなんだって事も分かったんだ。
翌日からも普通に部品製造の作業場で働いて給料を貰い、またひと月が過ぎようとしていた頃。
そいつはまた、俺の前に現れた。いや“現れた”じゃ語弊があるかもしれないな。俺も初めて見る奴だったから。
それは、もう見事って言うしか無い様な満月が輝っているある晩。いつものように俺は作業場の借りている一角で座っていたんだ。
いつもならあっという間に寝付けるのに、何故か寝れなくて。作業場の窓から見える満月を眺めてた。
で、漸く寝れそうだってなった時、何かの影が写ったんだ。途端に目が覚めた。
社長から最近は物騒で、空き巣紛いな事をする奴が急増してるって聞いてたから。
世話になってる社長の会社をそんな目に遭わせてたまるもんか、ってその話を聞いた時から思ってたんだ。
俺の能力は表に出せないけど、そういう奴を捕まえるくらいは出来るだろうから。
社長も仮眠室で熟睡してるし、出来る事なら起こしたく無い。ダイルに瀧宗を外で出すなよ、って言われてる。でも夜だし、殆ど反ってない瀧宗なら木刀にだって見えるはずだ。
そう思って、間違っても抜刀しない様に紐で巻き付けてから瀧宗を手に外に出た。
その考えは甘かった、って後で気付く事もまだ分からなかったんだ。




