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Träumerei  作者: 兎野桃也
7/12

兄弟達の挽歌:6

 まずはそうですね―共通点から考えましょうか。

 惟智子はそう言うと藤島を見つめて問いかける。共通点は…


「血が抜かれていること?」


「そうですね。しいていえばそこしかないと言ってもいいでしょう。秩父の事件でも今回の事件でも血液が故意に抜かれた形跡が認められる。秩父の事件では動脈を切り血液を採取したと記載がありますが、今回も同じなのですか?」

「いや、今回の事件は違うんじゃないかな?ほら、解剖がまだだからはっきり言えないんだけど…たぶん何らかの方法で殺害した後に四肢を切断、そして遺体をロープで縛り吊り下げて…血を抜いたみたいだよ。死後ついたとされるロープ痕が遺体にはっきり出ていたから…」


 そう犯人は遺体をバラバラにした後にロープでしばり吊り下げてポタポタと滴り落ちる血を…血を…



「血をどうしてたんだろうな?」



 ふいに疑問が浮かび上がる。四肢を切断し遺体がミイラ化するまで血液を抜く。そこまでして血液に固執する理由って…?


「貴方だったらどうして血液を集めますか?」


 彼の疑問を見透かしたように惟智子が告げる。

「俺だったら――」そう言って思わず藤島は固まってしまった。

 全く、全く思い浮かばなかったからだ。

 血液を集める理由って?一体どんな理由があると言うのだろう?一般的に考えて血液を集める理由と言えば輸血のためだろう。医療技術が発展しいかようにも人の病気を治せるようになったって血液だけはどうにもならない。培養して増やす事も無から創造することも叶わないのだ。


 血液だけは生きた人間から採取していくしかない。


 しかし輸血に必要だからと言って人を殺さなくてはならないとはちょっとおかしい。

 輸血が必要なら病院に行けばいい。

 いや百歩譲って病院に行けないような身分の者だったとしても、殺人を犯してまで血液を入手するなんて…いや、そうせざる得なかったとしても、もっと別の人間でもよかったはずだ。

 夜の街を徘徊すれば身元不明にさせるくらい簡単そうな人間が見つかるだろう。身元もしっかりしている子供たちを狙わなければならない事情とはなんだろう?


 あの子たちでなくてもよかったはずなのに。何故…?


「吸血鬼だったからーとか?」

 考えあぐねた結果、藤島は考える事を放棄した。

いろいろ考えているうちにわけがわからなくなったからだ。そしてえらく適当に答えたのだった。

古の妖怪、吸血鬼様なら生きるために血を欲するだろうと言うことだ。インテリ臭いイメージの妖怪様ならば若くて知性のある若者をターゲットにすることもあるだろう。

 というか所詮温室育ちの一般ピープルな自分には猟奇殺人者の考えなんてわかりっこない。それなのに…



「なるほど。なかなかいい答えなのです。」



 ショートした思考回路で、てっきとーに言った答えに、彼女はなんと合格点をくれるようだ。

「えっ?それ本気で言ってるの?」

 ぽかんとした顔で聞き返す藤島に惟智子は相変わらずの無表情で「えぇ。」と短く返事をした。


「世界の総人口を貴方は知っていますか?今現在人口約70億人がこの地球という星に住んでいるのです。70億人も人がいるのですよ?一人くらい吸血鬼が混じっていても不思議はないのです。」


「ないのですって言ってもなぁ~いやでも吸血鬼だよ?いるわけがないでしょ?」

 藤島の否定の言葉に惟智子は「ふぅ。」と一呼吸おくと、その青い瞳をきらめかせながら


「世の中にはいろんな人がいるのですよ」と言った。


「私は何もお伽話しのモンスターの話をしたいわけではないのです。貴方はヴァンパイアフィリアと言う言葉を知っていますか?」

 ヴァンパイアフィリア―聞いたことのない言葉に首をかしげると彼女はゆっくりとその言葉の説明を始めた。

「ヴァンパイアフィリア、日本名に直すと吸血病や好血症などといいます。人獣問わず血液を好み口にする病気とされています。犯人がこの病を患っているのであれば、まぁ血液に固執する理由もわからなくはないのです。」

 血液を好み口にするってなんだそれ?本当にそんな病があるんだろうか?

 いぶかしむ藤島だが、彼女が言うことは絶対だ。本当にある病気なのだろう。だが…

「じゃあ犯人は血が飲みたい病気にかかってますってこと?」

「一概にそうとは言い切れません。まぁ犯人が吸血鬼という場合でのみの話ですから。でも―可能性としては零ではない。」

 なるほどね。血を好む病気かぁ…ぼんやりと聞いた言葉を自分の中で反芻させていると

「もう一つの共通点を考えてみるのです。」

「もう一つ?」先ほどまで血液に関すること意外無いと言っていなかったか?

「しいて言えばもう一つということです。生まれた年が一緒だ―貴方がそういったのでしょう?」

「でも君は、生年は偶然かもって言ってたじゃないか!」

「はい。今でも偶然ではと考えています。しかし、貴方がこの事件に共通する何かを感じるきっかけになったのは、この項目にあると考えるのです。貴方はココを見て何かを感じたのではないのですか?」

 彼女はそう言うと先ほどまで読んでいた捜査資料をおもむろに開き、とあるページの一節を指した。

 そこにはこう書いてある。被害者村木孝博15歳。埼玉県○○私立中学に通う中学三年生。中学―三年生?

「どちらも三年生ってことか!」

「そうです。どちらも三年生。受験生なのです。資料によると被害者の村木孝博は成績優秀で目標としていた県下ナンバーワンの高校に入学が決定的であったとされています。」

「沢辺誠もそうだ…成績優秀で品行方正な絵に書いたようないい子だった。」

「貴方はそこに引っかかったのでしょう。成績優秀で品行方正な輝ける将来が待っていたはずの子供たちの惨たらしい死に、貴方は違和感を感じたのですよ。」

 冷たい声音で囁く惟智子。

 彼女の言葉にそうか…と納得している自分がいることにふと気づく。

 此にくるといつもそうだ。

 自分でも気がつかない“何か”を彼女はいとも簡単に拾い上げる。

 それを言葉にしてわかりやすく教えてくれるのだ。


 まるで全てを見透かしているように。


「さぁ共通点のおさらいは以上です。――困りましたね。このままではこの物語は終わってしまいます。頭脳明晰な受験生の血を求めるヴァンパイア。一体貴方はどこの誰?血を得た先にあるものは?何故血の魅力に捕らわれた?あぁ――」


 ゴクリっ。彼はひそかに喉を鳴らす。




「これでは物語を完成させられない…」




 あぁ…今日は見れるのだろうか。藤島は彼女の話を聞きながら別のことを考えている。彼女はたまに見せるのだ。


「私がソレを補いましょう。」


 誰もが見落としてしまう。それはまたたく程に一瞬の―――


「此からは私が紡ぐ物語です――。」


 言い終えた瞬間、彼女は静かに口を結ぶ。


 その口許は微かにほんの微かに吊り上り、見た人を虜にさせる極上の微笑がそこに出来上がる。




 さぁ、全知全能の君の言葉を聞かせておくれ。



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