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Träumerei  作者: 兎野桃也
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兄弟達の挽歌:4

「聞いているのですか?」

 抑揚の無い声で惟智子は尋ねる。


 その声は透き通った冷たい水のような響きを持ち、聞いている人の脳に直接響いているかのように錯覚させる。

 とても美しい響きの声なのに、その声に感情はいっさい交じっていない。

 如月惟智子14歳。

 如月家の末の妹であり故、如月総一郎氏の財産を全て相続した少女である。

 株や会社、土地でさえも全て彼女名義になっており、如月グループの総帥と言っても過言ではない。

 14歳の少女に全ての利権を託して逝くとは…と誰もが皆思っただろう。



 しかし、如月氏は彼女だからこそ全てを託したのだと思う。



 全知全能と謳われる彼女だからこそ…



「聞いているよ?それより相談したいことがあるんだ。話を聞いてくれるかい?」

 惟智子の話をサァっと聞き流し藤島は話を進めようとしたが、すかさず惟智子に反論された。


「貴方は毎回毎回…学習すると言う言葉を知っていますか?」


「知っているよ?学習する…だろ?判ってるよ?」


「いいえ、貴方は知っているだけで理解しているわけではないのです。学習とは、人や動物が生後に経験を通じて知識や環境に適応する態度、行動などを身につけていくことを指します。それなのに貴方はいつまでたっても学ばない。私は言いました。先週の水曜夜の九時近くだったと記憶しています。貴方にもう此へは来てはならないとそう申し上げたはずです。いいえ、先週だけではありません。その前の週も前の前の前の週にも私は貴方にそう告げました。それなのに…貴方はケロっと忘れた顔で再び私の前に現れる。これは貴方が学習していない事を指しています。即ち学習するという言葉の意味も貴方には理解できていないのです。」


 惟智子は冷たい声で一気に話すと、その空よりも水色なライトブルーの目で藤島を見つめてきた。

 小柄な白い体躯に、腰よりある綺麗な白銀色のロングヘアー。

 小さな顔には零れんばかりのトロンとした大きな瞳。丸襟の白いブラウスにワンポイントの真紅の細いリボンをネクタイ代わりに結び、黒いハイウエストのロングスカートを穿いた絶世の美少女。

 洋風とも和風とも取れない彼女でしか出せないこの美しさはこの世の造形美を凝縮させたようだ。


 まじまじと目の前の少女に魅入っていると、ぼんやりとした表情の惟智子が「聞いているのですか?」と尋ねなおす。

 さぁ見入るのはコレくらいにしてそろそろ反撃しないと、そう思っていると、

「まぁまぁそう目くじら立てないの~せぇっかく藤島さんが美味しい紅茶とケーキ持ってきてくれたのよ?食べなきゃもったいないじゃない。甘いものは心を幸せにしてくれるわ。いっちゃんもケーキ食べたら、たちどころに今怒ってる事なんかどーでもよくなるんだから。」


 惟智子の怒りをざっくりと刈り取ったのは先ほどまで電話口にて激しい攻防?を繰り広げた透子だった。

 昨日の敵は今日の友!といったところか。


 トレイの上にケーキと紅茶のポットとカップを載せた透子がニコニコしながら部屋にはいってきた。


「そう…貴女が私を売り渡した犯人なのですね。」


 惟智子は冷たい視線を投げかけながら無機質にそう言い放つ。

「失礼ね~売り渡すなんて。大体、この家の総代は確かにいっちゃんだけど、実際取り仕切ってるのは最年長組がいない今は私なんだからね?それに、私はちゃーんと民主主義の国に生きる者として皆に多数決をとったわ!ケーキを食べるか、食べないかってね。その結果、食べるを得られました。民主主義の結果なんだから文句を言わないのー」



「その多数決の議題がすでにもうおかしいのです…。」



 ポツリと呟く惟智子をよそに透子はトレイをデスクの隅に置くと本で散らかった部屋をテキパキと片付けていった。部屋の端で書棚と化していた椅子を発掘し藤島に「どうぞ。」と勧め、デスクの上に積載された何十冊もの本を退かし、綺麗に布巾で拭くとトレイからケーキとカップを取り綺麗に置いた。


動くたびに ミディアムショートの髪がサラサラと揺れる。


「透子を穴が開くほど見て…貴方は何がしたいのですか?もしや透子に惚れたのですか?」


 藤島が透子を見ていると惟智子がとんでもないことを口走る「何を言ってるんだ」と突っ込む前に

「やだぁ~藤島さん本当ですか~?私ったらてっきり藤島さんはいっちゃんにベタ惚れのロリコン野郎なんだと思ってました~嬉しいわぁ~気持ちだけもらっておきますねー。」


 透子自身から爆弾を落とされてしまった。


 ロリコン野郎の響きにダメージを食らう藤島をよそに、テキパキとカップに紅茶を注ぐと「ごゆっくり」そう告げて透子は部屋を後にしていった。

 嵐のような透子が去った後、部屋に残されたのは藤島と惟智子の二人のみ。

 二人のみ?おかしいな、本来なら後一人…というか後一匹いるはずなのに。

 キョロキョロともう一人…いや一匹の住人の姿を探していると

「彼女は今お出かけ中なのです。それより…貴方は何しに此へきたのですか?ケーキと紅茶を携えてまさか本当に遊びにきただけなのですか?要件があるのなら早く言って帰って欲しいのです。ケーキと紅茶で売られた身です。話を聞くだけ聞いてあげましょう。ですが素早く手短にお願いするのです。彼女が此へ帰ってきたら、私は彼女と遊ばねばならないのですから。」

 相変わらず惟智子は手厳しい。

 しかしケーキと紅茶作戦はまずまずの成績を修めたようだ。

 彼女は静かに発掘された椅子に腰をおろすと、何も言わずにケーキをパクパクと啄ばみはじめた。そしてゆっくりと紅茶を啜る。紅茶を飲む彼女の顔は相変わらずの無表情だが、でもどこか満足気にも見えなくはない。

 なるほど。さっさと話せと言うことね。

 美味しいケーキを頬張りながら、藤島は今日起きた事件の事を話しはじめた。


 

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