兄弟達の挽歌:2
喧騒と騒音の中、地域住民で溢れ返る人混みを掻き分けて現場へと入る若者が一人。
年齢は二十歳中ごろといったところか。
明るい茶色の髪の毛に、人懐っこそうな甘い顔、そして場違いこの上ない仕立ての良いストライプのスーツに、これまた高そうな腕時計をしている。
ぱっと見は夜の町に生きるホストの様だ。
手帳を見せながら「どうもどうも~」とかるく挨拶し中へズンズン進むと、まぁたお前か!と先輩刑事の視線がビシバシと彼に刺さった。
事件事件に追われる所轄の皆様と違い、基本お気楽の窓際部署の彼はこーゆー現場だと肩身がせまい。
それでも彼、藤島恭一が自由に現場に入れるのは何を隠そう彼のお爺さまが警視庁のトップであらせられるからだ。 刑事に成り立ての頃は彼もお偉いさんの孫ということで、まだ花形部署にいたのだが、まぁ?いろいろいーろいろ 紆余曲折をたどった末に、気がつけば窓際部署へ移動となっていた。
それを不憫がった孫思いのお爺ちゃんは、藤島のたっての願い「後学のために現場に入らせて」を聞き入れる形をとり、晴れて自由に現場に訪れることができるようになったわけである。
警視庁トップの孫という肩書きを恥ずかしげもなく、フルに活用して彼は現場をキョロキョロとみてまわる。
突き刺さるナイフのようなきつい視線をやすやすと跳ね除け、パシャパシャとたかれるフラッシュに目を細めながら、ぼんやりと映った光景は残忍極まりない被害者の姿だった。
黒いビニール袋から覗く、落ち窪んだ目に水分の抜けかけた皮膚。そしてバラバラの肢体。
まるでミイラのようなこの遺体を遺族に見せる時がきたらと思うと本当にやりきれない気持ちになる。
遺体から目を離し、彼はくまなく周囲を見渡した。
現場のありとあらゆる特徴を五感フル活用で集めた彼は、鑑識の知り合いに情報をこっそり提供してくれることを約束させてその場を後にする。
車で急いで署に帰り、向かうは我が城である窓際部署だ。
近代的なつくりの花形部署、捜査一課様の横をすり抜け、資材やらなんやらで溢れかえる鑑識さんの横すら抜けてしばらく進むと、とある古びたエレベーターが出てくる。
このエレベーターは鑑識さんの現場押収品運搬に使われるエレベーターで、普段使用する人はあまりいない。
コレじゃないと行けないなんて不便たよなぁ。爺ちゃんどうにかしてくれないもんかな~
ブツブツといろんな事を考えながら、そのエレベーターに乗り込むと、彼は迷わずボタンを押した。
地下2階の資料室のボタンを。
ガギンっグオォォオオオン。
軋んだ音を立てながらどんどんエレベータは下っていく。
やがて、チンっという機械音の後にドアが開くと、そこにはどんよりとした空気が漂う、窓すらない密閉された空間が顔をだした。
無限に続いているかと思うくらいに広く、そして捜査資料がつまった無機質なシルバーラックが永遠と並ぶ、事件の海がそこにはあった。
窓際部署って…窓すらないってどうゆうことよコレ?
ココに飛ばされた当初はそんな文句の言いっぱなしだったが、今ではなんとも思わくなっているから不思議なものだ。
人間の適応能力って凄い!
薄暗いラックの林を潜りぬけ、資料室の真ん中端にある自分のデスクまで向かう。
読んだら積むという作業を繰り返し、整頓するって何?楽しいの?状態の汚いデスクの上から資料を掻き分け彼は最近読んだとある資料を探していた。
秩父山中死体遺棄事件。
絶対とは言えない。しかし彼の第六感がコレだ!と告げているような気がしてならない。
――あなたの感覚はとても貴重なものなのです――
いつだか聞いたあの子の言葉…彼はその言葉を信じている。
乱雑に詰まれた資料の山から目当ての資料を見つけると、持ち出し禁止のルールをサクッと破り鞄に詰め込んだ。
そして、フト時刻が気になり時計を確認する。時刻は午前十一時。
「やばっ急がなきゃ…間に合わないっ」
彼はぼそりと呟くと車のキーを手に持ってすばやく署を後にした。




