兄弟達の挽歌:11
「ねえクインシィ?貴女は私を軽蔑しますか?」
誰もいなくなった部屋でデスクに一人腰かけながら彼女は静かに呟いた。
木々の隙間から差し込む月明かりが照らす薄暗い部屋の中で子猫のクインシィと寄り添いながらほんやりと虚空を見つめる。
「ニャァ」と小声で鳴く子猫は彼女の質問には答えない。
「私は罪人なのですよ…クインシィ」
呟きながら彼女は過去へと記憶を飛ばす。
14歳の幼い少女には忘れられない過去がたくさんある。
それはどれもが死に彩られており、辛く悲しい物語であった。思い出すのも…嫌な程に。
それでも彼女は思い出す。決して罪を忘れないそのために。
それが此での彼女が作ったルールであるからだ。
自分のせいで散っていった命たち。今更もう取り戻せないかけがえのないもの。
気がつくのが遅すぎて、それはもう二度と輝かなくなってしまった。
大切なものなのだと何故自分は気がつかなかったのだろうか?
幼かった事は言い訳にもならない。
「彼は私の罪を知っても此へまた来てくれるでしょうか?私や貴女を尋ねてきてくれるのでしょうか?」
「ニャァ?」不思議そうに首をかしげる子猫。子猫の瞳は問う少女をジッと見つめていた。
彼女には秘密がたくさんある。
家族の皆にも言えない秘密がたくさん…たくさん。
それを告白するときは罪が消えるときなのだろうか?
感情がないはずの人形になった自分に芽生えた感情。
移ろいゆく知への欲望だけて生きていくのだと思っていたのに。
戸惑う心が芽生えてきているのだろうか。
「大丈夫。また来てくれるって言ってたよぉ。」
声のする方を見ると、戸口に恵麻が微笑みながらたっていた。
「今度のお土産はなにかなぁ?恵麻はね、ロールケーキが食べたいなぁって思うんだけど、いっちゃんはどう?」
「…独り言の盗み聞きとは、いい趣味してますね?恵麻。」
「盗み聞きなんてしてないもん。勝手に聞こえちゃうの。仕方ないっていっちゃん解ってるでしょ?」
だって私耳がいいんだもん。シレっとした顔で恵麻は告げる。
全知全能の言葉を持つといわれる如月惟智子。
父が連れてきた最後のキョウダイ。
一個下のこの可愛い末妹は己の戒めのためにと自らこの離れに篭り、幼いその身でキョウダイ達を守り導いてくれた。
聡明で息を飲むほどに綺麗で――女神様みたいな彼女だけど、本当は臆病で繊細な普通の女の子だってこの家に住む者はみな知っている。
血は繋がってなくたって、彼女はもう私達の妹だ。もう誰にも傷つけさせない。辛い思いはさせたくない。
だからもう――
「ねえ、いっちゃん?そろそろ認めてあげようよ?ツンデレも可愛いけどさぁ~度がすぎるといけないって恵麻思うの。適度なさじ加減が大切なのです。」
「貴女はどうしてそう言う言い方しかできないのですか?」
はぐらかしながら諭す恵麻から視線をそらすと惟智子は窓の外を見る。
外の世界はとても綺麗でなんだか「早く来い」と惟智子を待っているようだった。




