兄弟達の挽歌:10
毎度の事だが、「もう二度と来ないでください」そう言われて部屋を追い出された。
彼女からこの台詞を聞くのも、もう何回目になるだろうか。
来るな来るなと言われる程に通いたくなるものである。
嫌よ嫌よも好きのうちと言うし?嫌われてるとか考えるな!ポジティブに行こうぜ自分!ネガティブはいかん。暗黒思考に陥ったらコノ家に突撃なんて2度とできなくなる。
ブツブツと呟きながらコテージを後にし帰路についていると
「あら、お帰りですか~?」と声をかけられた。
声のほうを見ると先ほどお茶を出してくれたこの家の住人がニヤニヤ顔でお見送りに来ている。
如月透子。この人、どうやらへこみ顔で帰る藤島をあざ笑いにきたらしい。
「なんだ、透子ちゃんと宗也君か。お帰りですよ~毎度の事ですが、もう二度とくるなと言われました。」
「そう、毎度のことでしょう?まぁ私的に言うと落ち込んでこの家に来なくなってくれてかまわないんですけどね~」
ケラケラと笑ながら透子は言う。励まされている感じはまったくしない。
やっぱり此の家の住人には嫌われているのだろうかと彼は思う。しかし――
「私ね、藤島さんに感謝してる部分もあるんですよ?」
唐突に自分の考えと逆の事を言われた。感謝…?官舎の聞き間違い?いやいやいやいや。
「あの~俺なんか感謝されるような事したっけ?」
困惑気味に聞き返す藤島に、透子はフっっと笑うと
「貴方がココに来るようになってから、ココの皆は変わりました。恵麻なんかがいい例ね。あの子は本当にキョウダイ以外に興味を示さない子になってたから…」
「恵麻ちゃんが?」
「そう。もちろん私や宗也も他のキョウダイも…ここに住んでるってだけで変な目で見られたりするから。そのうちもう、そうやって特別視されることにも慣れちゃって。家に帰ればみんなが居るからいっかぁって…」
「そんな…変な目で見られるって…ちょっとお金持ちの家の養子になりましたってだけでしょ?」
「それでも“普通の人”とは違うんです。普通じゃないってことは差別されるんですよ。悲しいですけどね。」
「世界は区別・差別で出来てますから。」
きつい声音ではっきりと言い切る透子に藤島はびくりとした。
“差別”ついさっき惟智子の口から聞いたばかりのワードだ。
思わず彼女に振り向くと、少し悲痛な面持ちで透子は話続ける。
「陰陽、光と影があるように、善と悪があるように、はっきりとした“違い”は人の心を落ち着かせるんです。だから…私たちのような人間はカテゴリー別に分けられ区別・差別されるんです。でも、普通ではないと区別される私たちを普通と言ってくれる貴方のような人もいる。蔑んだり気味悪がったりしない人がいる。私はそれを他の子たちにも教えたいんですけど…ほら、お家大好きで家に篭城してる子とかもいますから。その子たちに良い刺激になるんですよ藤島さんは。」
ニッコリ笑顔で言う透子に藤島は安堵する。よかった、いつもの彼女だ。
「そっか。なんか照れるな」そう言おうとした彼の声を遮るように
「でも!!でもでもでもっ!」
といきなり大声で透子が叫ぶ。
「我が家の姫君いっちゃんを手篭めにしようとしてることはまた別ですからね!」
「はいぃ??」
手篭め?手篭めってまた表現が古いな!ってそんな事考えてる場合じゃない!
ぐるぐる思考する彼をよそに、透子の熱弁は続く。
「あの子は我が家のアイドルなんです!『銀の姫君』『可憐なる銀細工』の別名を持つ気高き我が妹!この家の子は皆、惟智子にメロメロなんです!でもあの子はそっけなくて…あの家から出てこない。会いたくても会えない子たちのやりきれない気持ちの矛先は今、全てあますところなく藤島さんに一直線です。「あの野郎、お菓子で俺達を釣りイチコに会いに行くなんて…許すまじ!闇討ちを推奨する!」と宣言してる子もいるんですよ?」
いやいやいやなんだソレ。闇討ち?!ここの家の子達が言うとシャレにならな…
「でも、惟智子が会いたいなら仕方ないかって意見のもと闇討ちするって話はストップされてます。よかったですねー」
透子は不満そうにぷくぅっと頬を膨らませながらそう告げた。
「あの子が俺に会いたいって?二度とこないでくださいって毎度言われてるけど?」
そうだ。いつも来るなと言われるんだ。それなのに会いたいだって?
不思議そうに問う藤島に透子はいたずらっぽい笑顔で言う。
「それはルールの下に言わざるえないから言ってるだけですよ。本当は会いに来てくれる藤島さんのこと結構気に入ってるはずなんです。天邪鬼なんです。今風に言うところのツンデレさんなんですよ。」
ツンデレとは。これまた思いもよらない言葉だ。姫君様が聞いた日にゃ、さすがにあの鉄面皮も崩れるだろう。
「あの子が決めたルールにあの子自身が苦しんでる。」
ビックリワードに楽しんでいると、不意に透子がぽつりと言った。
あの子が決めたルール。彼も全てを聞いたわけではないが、なんとなく思い当たるところがある。
いつ行っても離れのあのコテージにいる彼女。母屋のほうには消して近づかない。
年頃の子のように外で遊んだり、買い物したり、オシャレを楽しんだり、そういった一切の娯楽を捨て、ただ粛々とあの家で本を読んでいるのだ。
それは彼女が定めた制約。ルール。
「でも藤島さんはルール破りの天才ですもんね?」
「あぁ―」
「そうだね。ルールにも例外があるしね。俺はその例外ってことで!」
いつかあの子を連れ出せるだろうか。
暗い本だらけのお城に篭る銀色のお姫様。
外の世界に出て遊ぶことを頑なに拒む彼女を引きずりだせればいいな。
ルールと制約に縛られるお姫様を救出するなんて、まるで王子様みたいだろ?




