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レポート44

 私がクレーターから抜け出してディッツの後を追いかけると、すぐに背後から轟音が聞こえてきて小人たちのアーマーロイドが編隊を組んで頭上を通り過ぎていった。

 数はおよそ50機。一斉に巨大化したディッツに襲い掛かる。

 プラズマ兵器の火花と爆発がディッツの山のような巨体のあちこちで起きていたが、ディッツの進行を食い止めるまでには至らなかった。


 そしてディッツは小人たちの攻撃よりも自身の体内で起きている拒絶反応の方が苦しいらしく、ふらふらとした酔っ払いのような足取りでグランドから住宅街へと歩いていく。

 足元の民家が無残に踏み潰されて、爆発と火災が起きる。

 異変に気付いた人々が家の中から飛び出してきて、ディッツの巨体を見上げてパニックになっていた。


「ああ、こんなのどうやって止めればいいのよ!?」


 私はこれと言った策が浮かばないまま、傍らに落ちていたライオットガンを掴んでディッツの前へと回り込む。民家の屋根を渡り歩きながら、ディッツの顔を目掛けてライオットガンを数発打ち込んで見るが、まさに焼け石に水だった。


 すると上空には女王の船がステルス機能を解除して現れると、ディッツの正面へと回り込んでいく。


「ちょっと冗談でしょ……!? こんな街中でそんな物騒なものをぶっ放す気!?」


 私が女王の船の主砲がディッツに照準を向けているのを見て愕然となったのも束の間、目のくらむような閃光と空が割れるような轟音とともに二筋の赤いパルスレーザーが発射されていた。


 しかしあろうことかディッツは腕を胸の前でクロスさせてそのパルスレーザーを受け止めてしまう。いや、正確には受け止めたのではなく、自身のオーラーをシールドに変換し受け流したのだ。

 二筋のパルスレーザーは鏡に反射した太陽光のように、きれいに45度の角度でディッツの巨体を反れて空の彼方へと消えていく。


「もうムチャクチャだ……」


 パルスレーザーを受け流した巨獣ディッツもそうだが、こんな街中でパルスレーザーを発射した女王の船も無茶苦茶だった。

 今回は運良く空に向かって反れたが、これが市街地を直撃していたら死傷者は何千人というレベルになっていたはずだ。もう未曾有の大災害クラスだ。

 しかも女王の船はまだ諦めていないようで、エネルギーを充填している砲門が赤く輝いていて、その光が徐々に強まっているのがここからも見える。


「だめだ。女王側も相当頭に来てるから話し合いなんか通用しなさそう……」


 私は考えるよりも早く、民家の屋根からディッツの腰の辺りに飛び移り、ごつごつとした背筋の山を駆け上がって左肩へとよじ登った。

 女王の船に向かって両手を振って私の存在をアピールしていると、ディッツの巨大な右手が虫けらを叩き潰すみたいに襲い掛かってきたので、慌てて右肩へと回り込む。


「これでも一応あんたを助けようとしているのよ! 少しは大人しくしてなさいっての!」


 しかし今度は左手が容赦なく襲い掛かってくる。バチン、と耳元で巨大な気球が割れたような音とともに足元がグラつき風圧で体が吹き飛ばされそうになる。


「くそ、もうなんなのよ!」


 私は首の後ろを駆け抜けてまた左肩へと戻る。こんなイタチごっこをしている間に主砲の二回目の発射が刻々と近づいていく。

 焦る気持ちでライオットガンを全弾ディッツの頬に撃ち込んでみるが、まるで蚊に刺されたみたいに巨木のようなごつい指がボリボリと掻いているだけだ。


 するとディッツが突然大きく深呼吸をしたかと思うと、両手を宇宙船に向けて突き出した。


「――!?」


 ディッツの両腕がぐにゃりと軟体動物のように撓ったかと思うと、まるで触手のように伸びて宇宙船へと襲い掛かった。

 二本の腕はそのまま宇宙船に絡み付き、それと同時に今度はディッツの体自体がどろりと溶け始めていく。


「な、なんなの!?」


 ディッツの上半身の一部がまるでアメーバのように二本の腕を伝って宇宙船へと移動をはじめる。顔や肩や胸までもが蠟のように溶け始めてすでに原型を留めていない。

 私はそのアメーバの波に飲み込まれるのを避けるために、腰の辺りまで下がるしかなかった。


「こいつ宇宙船を乗っ取る気なんだ!」


 いまやディッツの上半身は完全に溶けて二本の腕を伝って宇宙船に向かって大移動を開始していた。

 腰から下の下半身だけが原型を留めたまま宇宙船を逃すまいと踏ん張っている。


 すると私の視界を一つの黒い霞が駆け抜けた。


「――蟲!? 姉貴っ!?」


 私がふと周囲を見回すと、いつの間にか足元のビルの屋上に姉貴が立っているのが見えた。


「姉貴、体はもういいの!?」


「周りが騒がしすぎておちおち寝ていられないわ。それにハンターになりたいと言っていたわりには手を焼いているようだけれど?」


「だってこんなの反則だよ!」


「ふふ。確かに初陣にしてはちょっと特殊すぎるケースね。いいわ。今回だけは手を貸してあげる。姉妹のよしみで」


「で、でもどうやって戦えば…… なんか私の体が力が入ったり抜けたりしておかしいんだよ!」


「大丈夫。門は既に開かれて玉子と繋がっている。ただサーモスタットが働いているだけよ」


「サーモスタット?」


「まだあなたの肉体が(ゲート)の力に対応しきれていないから、自動的にセーブ状態になっただけよ。もう大丈夫。集中しなさい。感じるのよ体の中のゲートを」


「体の中のゲート……」


 私は両目を閉じた。

 体の中から聞こえてくるいのちの鼓動。

 私と言う存在を形成し突き動かす全ての源。

 私はリズムだ。そのリズムの裏側から聞こえてくるもう一つのリズム。

 二つのリズムはやがて一つに重なり――


「キタァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」


 全身に漲る熱いマグマのような迸り。そそり立つ猫耳。体中からあふれ出してくる万能感。

 それと同時に姉貴の体から無数の蟲たちが飛び立って、ディッツの両腕に沿うようにして一列に整列した。

 それは私と宇宙船を結ぶ架け橋だ。

 私は躊躇なくその蟲の大群に飛び移ると、蟲で出来た橋を全力で駆け抜けた。

 その真下の道路では白いカローラが私に並走しているのが見える。後部座席からは葉月が身を乗り出して親指を突き出している。


「そうか! そういことね!」


 ディッツの両腕から無数の触手が伸びて私に襲い掛かってきたが、いまの私はそんなものに掴まるようなどん亀ではなかった。

 宇宙船に飛び移ると、船体にへばりついているアメーバ状の皮膚を引き剥がして大声で叫ぶ。


「女王、この船はもう捨てて! 早く逃げないとこいつに全て飲み込まれちゃうわ!」


 すると宇宙船がガクンと大きく揺れた。

 ディッツの全身の全てが宇宙船に移動したために大きくバランスを崩したのだ。

 ディッツの肉体はもう原型を留めておらず巨大な一つの肉玉となって、宇宙船の前部にへばりついている。


 その巨大な肉玉から無数の触手が伸びて、私と宇宙船を飲み込もうと侵食を始める。

 私は触手を交わしながら宇宙船の後部へ逃げていく。


 そして傍らのハッチが開いてそこから数隻の救命艇が慌てて飛び出していくのを確認すると、私は立ち止まって肉玉ディッツと対峙した。

 ディッツのアメーバ状の肉体は宇宙船の半分を飲み込み、さらにその勢力を拡大しようと猛然と私に襲い掛かってきた。

 

「――連邦外に逃げた犯罪者は生死問わず(デッド・オア・アライブ) でもあんたは私の始めての男だから一生忘れないでいてあげる……!」


 肉隗が巨大な津波となって押し寄せてきた時、私の全身全霊を込めた左拳は足元の宇宙船の船体を貫いていた。衝撃波が足元にある機関室のメイン反応炉を直撃した手応えとともに。


 ディッツの肉隗の波をすり抜けて、私は宇宙船から飛び降りた。


「葉月お願い!」


「OK! まかせて!」


 宇宙船の真下に待機していたタッキーの運転するカローラの後部座席で、葉月が素早く印を結ぶと、宇宙船を取り囲むようにして無数のこけしが出現する。

 宇宙船の爆発による被害を最小限に食い止めるためだ。


 そして全力でUターンするカローラとともに私も全速力で宇宙船から離れた。

 その背後で爆音と閃光が起きて、周囲が白い光に包まれた。


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