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レポート38

「さっさとおめえも殺して終わらしてやるからよ!」


 ディッツが獲物を狙うヘビのように舌なめずりをすると、まるで鼻先に大砲を突き付けられた様な重圧と共に目の前からディッツの右拳が消えた。

 葉月は辛うじてパンチが繰り出された事は視界に捉えていたが、軌道を完全に見切っていた訳ではなかった。


「南無三――!」


 半ばやけくそ気味に葉月は気絶している琴乃の体を抱えたまま体を捻った。

 直後、振り下ろされたディッツの拳がグラウンドにめり込むと、雷の様な亀裂が放射状に駆け抜けていき、衝撃波で大地がめくり上がって土の塊ごと葉月と琴乃の体が吹き飛ばされた。


「――!?」


 ディッツは足下に数対のこけしが落ちているのを見つけると、忌ま忌ましい顔で舌打ちをしてこけしを踏みつぶす。

 結界が間に合わないと判断した葉月が、ディッツの右拳を目掛けてこけしを飛ばし、パンチの軌道を変えたのだ。へたな鉄砲も数撃ちゃ当たると言うやつだ。


 しかしこのまま気絶している琴乃を抱えたまま逃げるには限界があった。同じ手が二度も通用する相手ではない事は、その破壊力を見ても一目瞭然である。

 ましてや葉月が大技を繰り出すには精神集中にある程度の時間が取られる。それでは絶好の隙をみすみす与えてしまう様なものだ。破壊力とスピードとも相手の方が一枚も二枚も上手であり、大技が出せなければ葉月はただの生身の女子高生にすぎない。それはまるで日本刀を振り回す相手に縫い針片手に戦いを挑む様なものだった。


 葉月の額に玉の様な汗が滲んで白い肌を滑り落ちていく。まさに絶体絶命。

 ディッツも葉月の弱点を十分に心得ている様で、印を結ぶ時間を与える気などさらさら無い様で、跳躍して一気に葉月に襲いかかった。


 するとそのディッツの胸の辺りで突然火花が上がって爆発が起きた。


「ぐはっ!」


 ディッツの体は短い悲鳴とともにそのままグラウンドに落下して叩き付けられる。


「な、なんなの……!?」


 唖然とする葉月の両横を黒い物体が次々と轟音を響かせてすり抜けていく。

 それは全長一メートルのアーマーロイドだった。

 本田がシールドの内部へと潜入する時に使ったトンネルのある方角から、次々と漆黒の荒鷲を思わせるアーマーロイドが侵入してきて、グラウンドを所狭しと散開していく。


 その数約二十機。

 幾つかの編隊飛行に分かれてグラウンドを旋回していたアーマーロイドから一斉にプラズマキャノンの乾いた射撃音が鳴り響くと、グラウンドのあちこちで爆発と火柱が立ち上った。


「凄い……!」


 葉月は、女王を侮辱された小人たちの民族の底力を見せ付けられた思いでその迫力にただ呆然と立ち尽くしていた。

 しかもアーマーロイドの大半がその照準をディッツへと向けていた。

 プラズマ弾が乱舞する中をディッツが驚異的なスピードで駆けずり回っている。そのスピードはアーマーロイドと言えど振り払う速さだった。


 しかもディッツは自身の気の力を一種のシールドのように応用できるらしく、プラズマ弾の直撃を受けたはずの胸板はわずかな火傷だけで済んでいる。


「クレト! ピックパークを死ぬ気で守れ!」


 ディッツはそう言い残すと、アーマーロイドの群れを引き連れてグラウンドを横断していく。そして驚異的なダッシュ力でアーマーロイドを翻弄しながら、隙を見つけては一気にジャンプをして叩き落していく。

 一方、戦闘力が皆無に等しいピックパークは女王の股の下に潜り込んで、レオパルドの残骸の中から拾ってきたマシンガンをすき放題に乱射していた。


 アーマーロイド部隊の狙いはあくまでディッツとピックパークのみに絞られており、女王が射程圏内に割り込んでくると攻撃を中止せざるを得ず、旋回か素通りをしなければいけない。


 しかし彼らも策は練っていた様だ。数体のアーマーロイドが女王に接近すると次々とワイヤーを発射して体の自由を奪っていく。

 

「葉月ちゃん、今のうちに早く逃げるんだ!」


 葉月が声が聞こえた方を振り返ると、校舎の崩れかけのベランダに本田が苦しそうな顔で立っていた。そしてその肩にウェザーニが立って無線機に向って色々と指示を出している。

 そこで琴乃もようやく意識を取り戻して、目の前で繰り広げられる戦場さながらの光景に目を丸くした。


「――こ、これはもしかして有刺鉄線電流爆破デスマッチ……!?」


「寝呆けてると、巻き添え食らうよ。早く立って!」


 葉月がそう言い終えるや否や、一際近くで大きな爆音が鳴り響いた。振り返ると玉子の死体の傍らに一機のアーマーロイドが墜落して燃え上がっていた。しかも爆発で飛び散った土砂で玉子の体が半分ほど隠れてしまっている。


「お玉も連れていかなきゃ!」


 琴乃が我先にと走り出したので、葉月もその後を追いかけた。しかしふと二人の足が止まった。

 いつの間にか玉子を見下ろす様にして赤い影が立っていたからだ。

 蝶々は素肌の上に赤いコートを一枚羽織っただけの格好で、憂いをおびた赤い瞳で玉子を見ていた。


 まるでその周囲の空間だけが切り取られて時間の流れが止まったみたいだった。

 蝶々は跪くと、無言のまま玉子の顔に掛かった砂塵を払いのける。

 その白くて長い指の細やかでゆっくりとした優しい動きを見ていると、葉月の胸につい熱いものが込み上げてきた。


 そして蝶々は玉子にそっと耳打ちをする様な仕草を見せた後でゆっくりと立ち上がると、戦闘機が飛び交う中をディッツに向って歩きだした。

 蝶々が片手を上げるとディッツを攻撃していたアーマーロイド部隊が散開して女王の方へと飛んでいく。

 蝶々の存在に気付いたディッツの顔がこわばった。


「……てめー、あの毒を食らってもう平気なのか? さすがとしか言い様がねえな……」


 しかし言葉とは裏腹にディッツの瞳には凶暴な闘志が溢れていた。


「ふふ、心配しなくても毒はまだ抜けた訳じゃないわ。あなもまだ楽しみたいでしょ?」


「その自信満々のプライドをへし折ってたっぷり犯してやるぜ、それとも妹みたいに胸をぶち開けらてえか?」


 ディッツが左手に持つ玉子の心臓を舐めあげると、赤く染まった長い舌を見せつけたままニヤリと下品に笑う。

 遠目にその光景を見守っていた葉月と琴乃は嫌悪感で顔をしかめた。

 その時、葉月は異変に気付いた。

 まるで水脈を掘り当てて地下から水が吹き出すみたいに、突然玉子の死体から気が溢れだしたのだ。




 私の意識は深い海の底から浮き上がる様に、あるいは大空から舞い降りてくる様に、不思議な浮揚感と共にいつもの場所へと着地した。

 意識が明確になるにつれて、今まで居た光の場所の記憶が指の間を滑り落ちていく様に薄れていく。


 私にそれを止める術はなかった。ただ目を覚ませば記憶は全て消え去っているだろうと言う確信だけがあった。


 そしてどこからか声が聞こえる。失われていく記憶と入れ替わる様に、言葉の一つ一つが私の心と肉体に注がれていく。

 長い間、ナイフで刺される様な痛みしか受けなかった冷たい声の筈だったのに、今は心に染み込む様な温かみがあった。


 その声が囁く。

 さあ、飛び立つ時が来たわよ。目覚めなさい、と――


 私の視界に太陽の光が差し込んできた。


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