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レポート32

 本田の運転するカローラは桜吹雪女子学園の校門の前まで来ていた。

 競技場でウェザーニの姿が見えない事に気付き、副司令を問いただしたところ一人でディッツを追って行ったとわかった。

 その時にこれ以上の勝手な行動は許さないと、本田には珍しく感情を露にして脅しをかけた効果があってか、副司令は素直にウェザーニから連絡があった事を申し出てきて、この場所がわかったのだった。


 自分でもどうしようもないくらいに動揺して苛ついているのはわかっていた。その事と蝶々が傷ついた事は決して無関係ではない。

 本田が地球に赴任して以来、蝶々が賞金首の手によって倒れた事などこれまで一度もなかった事だ。しかもハンターとして超一流の実力を持つ蝶々の両親と祖父が地球を離れているときては、肩にかかる重圧は地球よりも重かった。


 ディッツの肋骨に塗ってあった毒は即効性の猛毒だったらしく、蝶々の白い顔は一段と血の気を失い、呼吸はエンストしかけのエンジンの様に喉に絡み付いていた。

 

 市民スタジアムの駐車場でカローラの後部座席に乗り込んだ蝶々は、本田に車を出す様に指示をした後、服を脱ぎ始めた。

 呆気にとられている本田の視線に気付くと、


「後悔したいのなら見ていいわよ」


 と、意味深な笑みを浮かべた。

 本田はちらりと見えた白い肩に刃物傷の様な傷を見つけていたが、気付かないふりをして蝶々の瞳を正面からじっと見つめた。


「――後悔すると思う?」


「早く出せ……」


 一瞬、赤い瞳が揺れた様な気がしたが蝶々は後部座席に寝転がって黙り込んでしまった。

 ルームミラーを天井に向けてカローラを発進させると、すぐに赤いブラジャーとパンティーが後ろから飛んで来て、本田は思わず前方の車に追突しそうになった。

 先程の仕返しか……と、苦笑すると、蝶々の掠れた声が聞こえてきた。


「お願い、一時間は持たせてほしい……」


「だ、誰だと思ってんのさ、お安いご用だ!」


 記憶の限りでは生まれて初めてされた蝶々のお願いに本田は目頭に熱いものを感じて、アクセルを床一杯踏み込んでいた。


 その後、競技場から桜吹雪学園に向うカローラの後部座席では蟲の羽音と歩き回る音が絶え間なく聞こえていた。その音からして半端な数ではなかった。数百、いや数千か。


 後ろが気にならない訳ではなかったが、とにかく本田は今自分に出来る事を精一杯やろうと決めていた。

 しかし、学園に到着して事態は思っていた以上に深刻な方向へ流れていると思い知らされた。

 桜吹雪女子学園は白色のドームに包まれており、敷地内に立ち入る事はおろか中の様子も伺う事は出来なかった。時折断続的に衝撃音がして振動が伝わってくるだけだ。


 お玉ちゃん、持ち堪えろよ……

 本田は祈りにも似た気持ちでドームを睨み付けていた。


「タキン、周囲の封鎖が終わったわよ」


 振り向くと、金髪のロングヘアーで白のスーツを来た美女が立っていた。一見アメリカ人のファッションモデルにも見える彼女は、本田の同僚で名をマリスと言った。普段はニューヨークで暮らし、主に北米・南米地域を担当していたが本田に呼ばれて急遽応援に駆け付けたのだった。


 彼女は本田の指示で学園の周囲をぐるりと取り囲む通学路を境に封鎖してきた所だった。通学路の内側の空間を切り取り歪曲させる事で、通学路の内側は陸の孤島と化して、いま周辺住民は誰一人この学園に近付く事は出来ない様になっていた。


 現に今も通学路を挟んで校門の対面に並ぶ住宅の一つのベランダで主婦が洗濯物を片付けていたが、異変には気付いていない様だ。

 通学路の内側から外を見ればリアルタイムの景色を見る事が出来たが、外側から内側を見てもそこに見える景色はコンピューターが造り出した虚像なのだ。

 いま誰かが通学路の外側から学園に入ろうとしても、反対側の通学路に出るだけで決して学園の敷地内に足を踏み入れる事は出来ない。


 しかしこの状態が長く続けば異変に気付く人間も出てくる。まさに時間との戦いだった。そして傍らでは小人の兵士たちが総動員で、シールドの下を潜って向こう側へ突入する為の穴を掘っている最中だった。


「女王は船?」


 マリスはシールド上空を見上げる。姿は見えないが女王の宇宙船はディッツ達の逃亡に備えて学園の真上で待機しているのだ。そして女王自身は心労が重なって精神体の維持が難しくなっている為、今は船の中で休んでいる筈だった。


「まさか地球まで来てたなんて。噂通りの物好きなのね。巨人種らしく自分の体に合った旅行先を選んでくれていれば、今ごろは……」


 マリスは肩を落として溜め息をつく。ハリウッド男優とのデートをすっぽかして来てもらった為、珍しく言葉にトゲがあった。


「しっ。彼等に聞かれたら大事だぞ。それに彼らは元々は同じ種族じゃない。四千年前、銀河を流浪していた巨人族がリナーズ星で彼らと出会って王に祭り上げられた。それはなぜか? 彼らの古くからの言い伝えだったからだよ。天から降りてきた巨人が世界を統べるというね。彼らの互いに対する感情は僕らの理解の範疇を超えている。めったな事は言わない方がいい」


「勿論それくらいわかってる。ちょっと愚痴ってみたい気分だったの。でもほんとにシールドの中に行く訳? 地球にも他のハンターが居るんだし、何もわざわざ私たちが危険な目に会う事もないでしょ? それにあんなモノをここで使わせていいの?」


 と言ってマリスが怪訝そうに視線を送った先には、身長1メートルほどの黒い汎用人型兵器が50体並んでいた。

 中世ヨーロッパの甲冑に四枚羽が生えて、全身にメカニカルなデコレーションを施したようなデザインをしていて、胸部にあるコクピットや足元で小人たちが忙しそうに調整作業をしている。


 それは女王警護隊の装備として船に積んであったもので、なりは小さいが――彼らから見れば巨大ロボットの類に入るかもしれないが――これ一機で地球上の最新戦闘機以上の機動力を持ち、装備によってはイージス艦級の火力を誇るもので、カンナニラ銀河ではこうした汎用人型兵器をアーマーロイドと呼称していた。


 当然地球のように連邦に属さない発展途上の惑星では、このように破壊力が高く技術的に悪影響を与えかねない兵器の使用については文明監視条項の中で厳しく禁止と謳っており、それを地域の文明監視員と協力して取り締まるのも辺境駐在員の職務の一つだったが、本田の独断で許可を出したのだ。


「勿論最低限の武装しか認めてないけどね。と言ってもこれでも十分大問題でバレたらかなりマズいことになるのは承知の上。でも今回ばかりは特別でね。君はここで待機しててくれ。一人の男として踏ん張り時ってやつだよ」


 目の前のシールドの向こう側にはまだ玉子とその友達が取り残されている。蝶々が傷つき玉子にまで何かあった場合、本田は二人の両親に合わす顔がなかった。ましてや玉子がこんな危険な目に会っているのも、元はと言えば自分がベニラ団の情報を渡してしまった為であり、体の芯が凍り付いてしまう程の恐怖と責任を感じていた。


「本田殿! トンネルが貫通しましたぞ!」


 副司令が駆け寄ってきて、足下で片膝をついた。本田を見上げる目には気合いが充満している。


「よくなついてるじゃない」


 マリスが笑いを堪えてそっと囁いたが、本田は聞こえなかったのかそれには答えず両手で自分の頬を思い切り叩くと、腕時計のスイッチを押した。光の粒子が全身を包み、左肩に連邦警察の紋章が刻まれている対凶悪犯罪者用のバトルコンバットスーツに姿を変えた。


「それでは今よりシールド内部へ突入します!」


 本田が号令をかける。

 副指令が立ち上がって胸に手を当てて敬礼をすると、50体のアーマーロイド部隊から一斉に起動音が鳴り響いた。

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