レポート31
タンクローリーのナンバープレートにしがみついていたウェザーニは、車が学校に到着すると共に、中庭の植木の陰に姿をひそめて通信機で部隊と連絡をとった。
先程のスタジアムでの戦闘で大多数の兵士が動けぬ状態だったが、海賊たちは宇宙船も遠隔操作で呼び寄せており逃亡寸前と思われた。事態は急を要しており、動ける者を中心に隊を立て直して、至急学校を包囲しろと副司令に伝えた。
敵がこの地に集合したと言う事は女王の体もこのどこかに隠されている可能性が高く、ウェザーニは人気がなくなる頃合をみて宇宙船内部の探索に踏み出そうと機会を伺っていた。
丁度いまグラウンドの方では運良くあのハンター崩れの猫耳娘がディッツの注意を引いてくれていて、更につい今しがた奇妙な技を使う地球人の娘が、これまた珍妙な技を繰り出したおかげで砂塵が舞い上がって視界が悪く隠密行動には絶好の機会だった。
残るはタンクローリーの運転席に座るクレトとか言う液体人間のみだった。
そのクレトに動きがあった。人型の液体が運転席から降りてくると、地上を滑る様な独特の動きで宇宙船の中へと入っていったのだ。
しかも搭乗ハッチは開いたままだ。
ウェザーニは考えるよりも早く弾かれたように植木の陰から飛び出していた。
その時、背後で衝撃音が沸き起こり、ウェザーニは咄嗟に着陸ステーの陰に滑り込んで銃を構えた。
着陸ステーから顔を半分だけ出してタンクローリーを確認すると、幾多の戦いを乗り越えてきた戦士の顔に動揺の色が浮かび上がった。
なんとタンクローリーのタンク部分が吹き飛んで中身が露になっていたのだ。しかも荷台には透明の液体がタンクの形状を保ったまま残されている。
そしてその液体の中には女王の体が眠るようにして横たわっていたのだ。
どうやらその液体はクレトの体の一部らしかった。いやもしかしたらこちらが本体なのかもしれない。
それでも衝動を抑えきれずにウェザーニが思わず女王の体に向かって駆け寄ろうとすると、女王の体を包み込んでいる液体が小刻みに波打ち始めたので、彼はぐっと堪えて着陸ステーの陰に身を隠したまま様子を伺うことにした。
すると液体の表面に広がった無数の波紋が一斉に一か所へと集まりだして、まるで強力な排水パイプに吸い込まれる様に、女王の口の中へと吸い込まれていく。
全ての液体が女王の体内へ侵入すると同時に、メロディアの巨体が荷台からゆらりと立ち上がった。
しかも顔に滲む表情は可憐と言う言葉にはほど遠いものだった。苦虫を噛み潰したかの様に顔を歪ませて唾を吐き捨てると、自分の体を見渡して唇の片端をつり上げて笑う。
恐らく、森の中で見つけた死体は同じ様にクレトに乗り移られていたのであろう。裏切り者の部下の手引きで船に侵入した後で、女王の体を支配して逃走したのだ。そして用済みになった二人は殺されたのだ。
そして女王の精神体が体に戻れなかったのも、クレトの体がバリアの様な役目をしていたのかもしれない。
全ての疑問が解決しても、ウェザーニの胸には空しさしかなかった。身を引き裂かれる様な悲しみとも屈辱とも言えない怒りに身を震わせて、悪魔に乗り移られた女王を複雑な思いで見上げるしかなかった。
その時、船体が微かな作動音と共に振動し始めたので、ウェザーニは傍らの常夜灯へと走った。柱の陰に隠れて振り返ると、船体上部にシールド発生装置が姿を見せていた。
まさかシールドで周囲を封鎖するのか……
ウェザーニは苦悶の表情で歯ぎしりをした。しばらくすると船内から人型のクレトが姿を現した。しかも御丁寧にもハッチを閉じてしまったのでウェザーニの焦りは更に深まった。
「へへ、見ろよ、これがほんとの巨乳って言うんだぜ」
メロディアが自分の胸を揉みながら下品に笑った。
「馬鹿言ってんなよ。どうやらディッツが手を焼いてるようだ。もしかしたらさっきの蟲使い以外の流星ハンターが現れたのかもしれない。俺たちもネズミ退治に出かけるぜ、お姫様」
人型のクレトの体がひも状に変形すると、するりと女王の口の中へと入っていく。すると、クレトに乗っ取られた女王の体は一気に校舎の屋上へと跳躍して姿を消してしまった。
目の前で女王の肉体まで戦闘に駆り出され、それを止める術がないとは……
ウェザーニは怒りにまかせて目の前の常夜灯をビームサーベルで斬りつけていた。
そして体の何十倍も大きな常夜灯が細切れになって地面に散乱した。




