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レポート30 「フラッシュポイント後編」

 ディッツは光り輝くこけしの輪から抜け出そうと跳躍したが、その体は見えない壁に弾き飛ばされて彼の体は地面に打ち付けられた。


「な、なんだ……!?」


 今やディッツを取り囲んでいる九体のこけしたちは円柱状の結界を形成していて、半透明のガラス管を連想させる結界は肉眼でも確認することができた。

 しかもその結界は遥か頭上高くまで伸びていてその先端は雲に隠れていて見えない。


「なんなんだよこれは……?」


 ディッツはその円柱状の結界を見て言葉を失っていた。

 敵ながらもその心情を私はよく理解できた。

 いま隣でハートマークを作ったまま両目を閉じてぶつぶつと呪文のようなものを唱えている、こけし少女葉月の力は底知れない。


 もしかして彼女は流星ハンタークラスの能力を秘めているのではないのか。


 そう思うと、羨ましい反面嫉妬で胸にちくりと痛みが走った。

 それでも結局は彼女と友達になれたことに安堵している私がいるのだけれど。

 

 その時、私はディッツの顔に一つの影が落ちるのを見た。円形の影は膨張する風船の様に瞬く間に大きくなっていき、ディッツの全身を呑みこんで行く。


「く……くそったれがあっ!」


 ディッツの悲痛な叫びが校庭に響き渡った。

 私も上空を見上げて目を疑った。なぜならば円柱状の結界の先端に雲を割って急降下してくる物体を見たからだ。


 それはこけしだった。しかも全長二十メートル、直径三メートルはある巨大こけしが弾道ミサイルの如く降下してくるという、とてもこの世の出来事とは思えないシュールすぎる光景だった。

 しかも巨大こけしは地上から伸びている円柱状の結界の中を滑り落ちてくるのだ。どう見たって百発百中だ。


「柊家討霊術からくり奥義三番! 津軽海峡龍雪天狗富士っっっ!」


 その葉月の声に呼応するかの様に、結界の中を落下してくる巨大こけしが回転を始めて落下速度が一段跳ね上がった。

 円柱状の結界と地上の間には、空気の抜け穴の様に僅かながらに隙間があるらしく、巨大こけしが押し出す風圧でまさに龍の鳴き声のような咆哮をあげ始めて、まるで台風が起きたみたいに円柱を中心にグラウンドの砂が物凄い勢いで巻き上げられていく。


 私は吹き飛ばされそうになり、思わず地面に手をついた。

 その横では葉月が大股で踏ん張りながら九字を切っていて、ミニスカートが千切れそうな程にはためいてパンティーが露になっている。

 この間見たパンティーとは別のデザインなのに、こちらにもこけしのワンポイントが入っていることに気付いて私は軽くショックを受けた。


「――ふざけんじゃねえぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 砂嵐の中からディッツの叫び声が聞こえてきた。

 ディッツが上空を睨みつけて両手を上げる姿が、砂塵の向こうに微かに見える。

 まさかあれを受け止めようと言うのだろうか?

 敵ながらその姿に天晴だと一瞬だけ思う。


 その時、上空で雷の様な衝撃音が鳴り響いた。どうやら巨大こけしと円柱の結界が触れる時に発する音らしい。バリバリッと言う轟音と共に放電現象が起こりそれがぐんぐんと頭上から近づいてくる。


 そしてまるで校庭に雷でも落ちた様な一際大きな轟音が空気を震わせて、まばゆい程の光が景色を白色に染め上げた。

 巨大こけしの落下の衝撃で地面が一度大きく波打つ。

 衝撃波が足元を駆け抜けていったのだ。そして背後の校舎の窓ガラスが一斉に音を立てて弾け飛んだ。


 風圧で空高く舞い上がった砂煙が視界を遮っていて、その中で巨大こけしの影だけが神話の中の怪物の様に揺らめいているのが見えた。その姿はどこか神々しくさえ見える。


 一転して、辺りは静寂に飲み込まれていた。

 すると葉月が制服にかかった砂埃を手で払いながら、


「解説しよう。柊家討霊術からくり奥義三番津軽海峡龍雪天狗富士とは、円柱状の結界で目標を包囲し、その頭上1500メートルに恐山の麓に生えるブナの巨木より削り出した巨大こけしを召喚して叩き落すという、数ある柊家討霊術秘奥義の中でも最も強引な力技である。尚、この巨大こけしは柊家と縁のある恐山の神社に奉納されていて、普段は拝観料300円で見学可能である――」


 と、満面のドヤ顔で親指を突き出している。

 

「はいはい。解説どうもありがとう」


 私は呆れた顔を浮かべてみたものの、内心は彼女の計り知れぬ能力の一端を目の当たりにして抱き着いて賞賛したいくらいだった。勿論敗北感はあったが、あまりにも力の差が歴然とありすぎて勝負にならない。清々しいほどに完敗を認めざるをえない。


「ほんとにあんたって人はすごいわ。友達になって正解だったとつくづく思う」


「あら、ようやくあなたも私がダイヤモンドで天使ってことに気がついたみたいね」


 そんな事を言いながら、私と葉月が巨大こけしの落下地点へ向かって歩いていると、グラウンドのどこかに転がっているはずのレオパルドの頭部が発する電子音声が砂煙の中に響き渡った。


「ピックパーク確保ニ成功デース。繰リ返シマス。ピックパーク確保。ドウゾ――」


 それを聞いて思わずガッツポーズを取った。


「よし! こちらも解決よ。グラウンドで落ち合いましょ!」


 そう言い終えたと同時に、巨大な物体が接近する気配と空を切る音がして私たちは反射的に身を伏せていた。砂煙の中を巨大な何かが頭上を掠めていき、背後で起きた大きな衝撃音に振り返るとそこには体育館に突き刺さっている巨大こけしが見えた。


「葉月、大丈夫!?」


「なんて奴、あれを食らってまだ生きてる訳!?」


 私と葉月は身構えて、砂煙で視界が悪い中をディッツの姿を捜した。


「――居たわ、あそこ!」


 葉月の声に振り向くと、既にディッツは校舎へ向っている途中だった。


「レオ前言撤回! あいつが向ってるわ! とにかく学校から逃げて!」


 私は傍らに落ちていたレオの頭部を掴むと、ディッツの後を追いかけた。

 やはり巨大こけしのダメージが残っているからか、その足取りはふらついていて頼りない。

 これならば先ほどみたいに弄ばれることはないはず。

 今は畳み掛けるように追い込むべし。


 私は目の前の大金星に俄然やる気が沸いてきて、ディッツを追いかける両足にも自然と力が入る。

 しかしディッツの姿が校舎の中へ吸い込まれると同時に、屋上にレオパルドの姿が現われるのが見えた。胸部にある電磁シールドランチャーがピックパークを固定している為、壊れかけのロボットの人形が太ったトカゲの縫いぐるみを抱き締めているみたいで滑稽な光景だった。


「ちょっとなにしてんのよ!? 早く学校から逃げろって言ったでしょ!?」


 と、私は脇に抱えているレオパルドの頭に向って怒鳴った。


「ソ、ソレガ学校ノ周囲ガシールドデ囲マレテイマシテ……」


「え――?」


 私は反射的に周囲を見渡すと、ふと玄関先の宇宙船に視線が釘付けになった。いつの間にか船体上部にパラボラ状の物体が姿を晒していたからだ。そしてそれは恐らくシールド発生装置で間違いない。


「まさか閉じ込められた……?」


 私は不測の事態にパニックになりかけていた。学校の敷地内に閉じ込められたと言う事は、何が何でも奴等を力ずくで倒さない限り学校の外へは出られないと言う事だ。


「なんて事……」


 ついさっきまでピックパーク一人を確保できれば人生初のミッションにしては上出来だと思っていた。

 冷静に力の差を判断して一番戦闘力の低いピックパークに的を絞ったつもりだった。決して功名を立てようと焦った訳ではなかった。いまディッツを追いかけていたのだって、あれだけの重症ならば勝機は見えたと冷静に判断したからだ。

 

 なのに事態は最悪の方向へと傾いている。

 私はどこかで判断を間違えたのか……?

 その時、屋上でレオパルドが背後に向って発砲を始めたので、私は我を取り戻した。


「どうしたの!?」


「ソ、ソレガ、ソノ……」


 私の腕に抱かれている頭部が困った様に声を詰まらせた。

 そして首なしレオパルドの体が屋上からピックパークを抱えたまま飛び降りてきて目の前に着地をする。その直後、フェンスと校舎の屋根の一部が崩れて激しく地面に叩きつけられた。


 私は校舎を見上げて絶句した。

 なぜならば屋上にはピンクのドレスを着たツインテールの少女が立っていたからだ。しかも身長は優に五メートルはある巨人種の少女だ。

 そして私を最も驚かせたのはその身長五メートルの巨大少女こそが、まさにメロディア女王その人だったという事だ。


「ち、ちょっと、女王ってあんなにでかかったの……!?」

 

 隣で葉月が呆然と屋上を見上げて呟いた。


「わ、私だって知らなかったわよ! でも幽体離脱して観光する訳が、今わかった気がする……」


「ねえ、どうすんのよ、これ!? あの女王の体からプンプンと他人の気配がするんだけど! 乗り移られてるわよ!」


「ど、どうするって……そう言えばレオ、あんたいま女王に向って発砲してなかったっけ……?」


「威嚇射撃ダカラ、当タッテイマセーン。ゴ心配ナク」


 レオパルドは人の心配も知らずに飄々と答える


「もう一体どうしろってのよ、これ……!?」


 ピンクのドレスを着たツインテールの巨大女王が傍らの給水タンクをもぎ取り、両腕で持ち上げた。年下の割にはさすが気品があり育ちの良さが滲み出ていた美少女だと思っていたが、いま目の前で繰り広げられている姿はまるでエンパイアステートビルによじ登ったキングコングみたいに見えて、私の頭の芯はクラクラと揺れていた。


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