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レポート30 「フラッシュポイント前編」

 私は時間を稼ぐ為に校舎から離れつつ、かと言って葉月と琴乃ちゃんの居る校門側へ向う訳にも行かず自然と足は体育館の方へ向っていた。


「遅いな」


 突然耳元で声がする。私は走りながら空かさず裏拳を叩き込む。しかし左拳は空を切るだけだ。

 すると背後で今度は馬鹿にしたように笑い声がする。急停止と同時に声に向って放った回し蹴りもむなしく宙を舞う。

 それどころかそこにある筈のディッツの姿が見えない。


「ほら早く逃げねえとヤッちまうぞ、おい」


 突如背後から耳元に生暖かい息が触れる。おぞましさに反吐が出そうだった。怒りまかせに放った肘打ちも空振りだ。

 もう完全に舐められていた。

 私は無駄に走り回って体力を消費するよりもこの場での決着を余儀なくされた。

 両目を瞑って背後の気配に集中する。そして振り向き様に左ストレート一閃。しかしまたもやディッツの姿はそこにはない。恐るべきスピードで既にまた私の背後へと回り込んでいるのだ。


 また馬鹿にした笑い声が耳元で聞こえてくる。

 まるで影踏みをするかの様に、私はディッツの姿を追いかけた。確かに体温を感じる程のすぐ真後ろに立っている筈なのに、何度振り向いても姿を捉える事ができない。

 無益なバカらしい遊びに、私は完全に頭に来ていた。


「いつまで逃げ続けるつもり! 男なら正々堂々とかかってきなさいよ!」


 挑発をすれば何とかなると思った私がバカだった。


「ひゃああっ! なにすんのよ、このタコ!」


 突然背後から伸びてきた両手が、私のお尻を鷲掴みにしたのだ。しかもイヤらしい手つきで何度も何度も揉んでくる。


「――こ、この変態オヤジ!」


 私はお尻から両手を引き離そうと身体をくねらせたりチョップをしてみるが、両腕はまるで岩の様に硬くびくともしない。しかも最悪なことにその間も指先が気持ち悪い昆虫の様に動いている。

 怒りと恥ずかしさと嫌悪感で顔が熱かった。ヘルメットをしているから尚更だ。


 しかもディッツは更に調子づいて、今度は片手を胸にまわしてくる。

 幸いにも胸部は特殊装甲のプロテクターで覆われているので直接胸を触られることは避けられたが、ディッツの指はプロテクターを剥がそうと執拗に胸の辺りを彷徨っている。

 例え強化スーツ越しとは言え、その感触の気持ち悪さで全身に鳥肌が立った。


「いい加減に――」


 私が怒りを堪えきれず肘打ちを放とうすると、ふっと両足の支えが無くなって体がフワリと宙に浮いた。

 

 しまった――


 次の瞬間、私の体はバッグドロップの要領で背中から地面へと叩きつけられていた。ライオットガンとレオの頭部が無残に地面を転がっていく。

 しかし幸いな事に強化スーツとヘルメットが衝撃を緩和してくれていたので、大したダメージはない。


 私は体勢を立て直そうと素早く起き上がろうとするが、背中にディッツが飛び乗ってきた。


「殺す前に顔を拝んでやるよ」


 と、ディッツは力ずくでヘルメットを剥ぎ取った。


「ひはー、猫耳かよ! ラッキーだ、俺のタイプだぜ。てめえ当然処女だよな? 死ぬ前に後ろから犯されるってのはどうだ?」


 ディッツは私の背中にしがみついたまま、耳朶を舐めてくる。

 気色悪さと嫌悪感で怒りが爆発寸前だった。

 私は全身の力を振り絞って無茶苦茶にもがいた。しかしディッツの力はまるで万力の様に強く、私の体をがっしりと上から押さえつけていてピクリとも動かない。

 身長は私の方が10センチは高いはずなのに、まるで巨大な岩に押し潰されているみたいだった。


 しかも私がもがけばもがく程、まるでアリ地獄に吸い込まれていくように体の自由が奪われていき、ディッツは卑しい笑い声をあげて猫耳を口に含んで私の全身を撫で回していた。


 悔しかった。こんな最低の奴をぶちのめす事が出来ない、自分の無力さに腹がたつ。一体、私は今まで何に憧れてきたというのか。

 こんなに無力なのに手に入れる事だけを望んで、一体私は何になりたかったのだろう。

 泣けばそこで終わりだとわかっている。一粒でも涙が流れてしまえば、立ち向かう力も消え失せて、あとはただ蹂躙されるだけだ。


 だけど、私の視界はみるみるうちに霞んでいく。それが何よりも悔しい。

 すると、ふとその視界の中に人影が現れた。


「ちょっとぉ、なにこんなとこで乳繰りあってんのよ!? まさかそんなのが趣味な訳ぇ!?」


 それは腰に手を当ててあきれた顔を浮かべている葉月だった。


「――んな訳ないでしょ!」


 私は泣き笑いでツッコんだ。


「あら、そう。宇宙人だからストライクゾーンが広いのかと思ったわ。でも残念ね。男の趣味がこんなに悪ければ、狙った男がバッティングすることも無くてずっと友達でいられると安心したのに……」


「へへっ。こりゃまた可愛いらしいお嬢ちゃんじゃねえか。順番は守らなきゃいけねえな。それともそのでかいオッパイが寂しがってんのかよ!?」


 背中のディッツが盛りのついた犬みたいに吠えた。


「うわ最低…… でも許してあげる。ホントのオッパイ星人に会えて嬉しいから。知ってる? FカップのFはfascination(魅惑)のFよ。魅惑しちゃうダイヤモンドで天使の私が罪なのよね? そうでしょオッパイ星人さん」


 葉月はふっくらとした唇を突き出して、甘えた風に言う。そして、その顔にすうっと氷の膜が覆い被さる様に真顔になった。


「……でもゴメンね。あんたは全然私の趣味じゃないの。だからオッパイはあげれないけど、こけしならイッパイあげられるから許してね!」


 葉月が印を結ぶ。まるで優雅な白鳥の舞の様に――


「臨・兵・鬥・者・皆・陣・列・前・行!」


 周囲の空気が一気に葉月の元へと吸い寄せられていく。

 そして詠誦が終わると同時に、水面で弾ける気泡の様に空中に次々とこけしが出現して私とディッツを取り囲んだ。

 突然現われたこけしに、ディッツは私の背中を飛び離れて身構えた。


「まさかおかしな技を使う地球人ってのはおめえの事か!?」


「あら、宇宙人にも噂されるなんて光栄だわ。やっぱりこの可愛さは銀河級なのね!」


 葉月が私に目で合図を送ってくる。直後、円を描くこけしの一つがデイッツの背中目掛けて襲いかかった。

 ディッツがこけしを避ける隙を見て、私はこけしの輪から飛び出して葉月の横に並ぶ。


「さあて、ここからが本番よセクハラおやじ! 地球の女はスッゴイってことをたっぷりと教えてあげるわ!」


 宙に浮くこけし人形はディッツを中心に輪を形成していて、彼の動きに合わせて影の様に移動して輪の中心から逃さなかった。

 凄腕のスナイパーが覗くスコープの中で戦慄する標的の様に、ディッツの顔に焦りと恐怖が浮かび上がる。


「くそっ、いったい何を企んでやがる!」


 まとわりつくこけし逹に苛つく様に、ディッツが葉月を睨み付けた。

 葉月は瞳を閉じて胸元で次々と印を結びながら九字を詠唱していて、更に十字目に「愛」と叫ぶと、ふくよかな胸元で両手を合わせてハートマークを作るとディッツにウインクをした。

 その瞬間ディッツを囲むこけしたちがまばゆい程の光に包まれた。


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