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レポート2

「そうだ。ねえ、今日時間ある?」


 お昼休みも残り十分程となった時、琴乃ちゃんが何か思い出した様に聞いてきた。


「うん、全然平気だよ。なんで?」


 どうせ私は学校が終わってからも特にやる事のない退屈な日々を過ごしていたので、琴乃ちゃんの誘いは出来るだけ――それは約96%の高確率で受ける様にしていたのだ。


 それに一週間前からお爺ちゃんとお父さん、お母さんの三人は親戚の葬式で、遥か彼方の銀河系にある惑星に出かけているし、私の天敵で、目の上のたんこぶで、兄弟は他人の始まりをとても実感させてくれる三つ上の姉は、二日前からハンターの仕事で留守にしているので、今の私は何だか解放的になっていて、楽しそうな事には全て首を突っ込みたいと思っていたのだ。


「実はね、クラスの子から聞いたんだけど、学校の裏手にある神社で幽霊を見たって言うんだよね……」


「……ユーレイ?」


 私は思いっ切り顔をしかめて聞き返した。てっきり買い物だとか、近くの学校へお気に入りの男の子を見に行くと言ったごく普通の用事を思い描いていたからだった。


「うん。なんでもね、その子の話だと昨日の夜の十時位に神社の前を通り掛かったら、同じ歳くらいの女の子が宙に浮いてるのを見たんだって」


 琴乃ちゃんの大きくぱっちりと開いた目が微かな興奮で光輝いている。


「で、苦しそうな顔で宙に浮いたままもがき苦しんでたんだって! しかもね、それだけじゃないの!その女の子の幽霊はなんとコスプレをしているらしいのよ。まるでどこか外国のお姫様みたいなゴージャスな衣装を身にまとっていたんだって!すごくない!? 幽霊のうえにコスプレだよ!」


 琴乃ちゃんは外見は古風でおとなしい感じのする美少女なのに、プロレスや超常現象ものに目がないのだ。もし琴乃ちゃんが私たち家族の秘密を知ったら、一体どんな反応をするんだろう?


「ね? ね? なんかおもしろそうじゃない? コスプレした幽霊なんて。それとも昔どっか外国のお姫様がこの辺りで死んでたとかかな?」


「琴乃ちゃんも好きだねえ」


「だってオカルトとプロレスは人生を楽しくする香辛料だって、死んだお祖父ちゃんがよく言ってたんだもん」


「はいはい。でも、どうすんの? コスプレ幽霊に取り憑かれて知らない間にコスプレしてたら?」 


 私たちは顔を見合わせてゲラゲラと笑い転げる。

 散々笑った後で、今夜の10時に学校の裏門で待ち合わせる約束をして教室へと戻った。



 放課後になって、私と琴乃ちゃんが帰宅の支度をしていると、クラスメートの早瀬由華里が話しかけてきた。

 いや、私は琴乃ちゃん以外のクラスメートとは未だに微妙な距離を保っていたので、琴乃ちゃんに話し掛けてきたと言う方が正確なのかもしれない。


 案の定、早瀬はちらりと私を見て愛想笑いを浮かべると、後はずっと琴乃ちゃんだけを見ていた。

 まあその方が変な神経を使わなくて済むから気楽なんだけどね。

 私は二人から一歩離れたところで、何をするでもなくただ話を聞いていた。


「知ってる? 最近この辺りで若い女の子が拉致られちゃうのが流行ってるんだって。怖くない?」


 早瀬はブラシで髪をときながら、言葉とは裏腹に何だか楽しそうな口調で言う。


「それでね、どうもその犯人ってのが黒コートを着た変質者らしいんだよね」


「やだ、怖いね」


 どうやら琴乃ちゃんは幽霊は大丈夫でも変質者は怖いようだ。


「今日の夜どうしよう?」


「琴乃ちゃんはどうしたいの?」


 私はどっちも平気だったけど、琴乃ちゃんに気を利かせて尋ねた。


「うーん……」


 琴乃ちゃんはしばらく考えた後で、

「うん大丈夫だよね、二人だし。捕まえに行こ、コスプレ幽霊」

 と、ヘッドロックをかけるジェスチャーをしながら言う。


「あはは、捕まえるんだ」


 私は無邪気に笑っていた。

 これがあの事件の始まりになるなんて少しも思わずに――

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