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レポート20

 ピックパークが郊外の沼地に辿り着いた時には、既にディッツが一仕事を終えた後であった。

 車の横には手足が無残に引き千切られて、内臓が飛び出した死体が転がっていた。顔は潰されていて性別はわからない。

 もっとも今のピックパークには、死体よりも車の屋根の上で胡座をかいて座っているディッツの方が気掛かりだった。


「遅かったじゃねえーか、何かあったのかと心配したぞ」


 と、ディッツは不機嫌そうな顔を浮かべている。逆立った銀髪に蛇の様な瞳。そして身長は百四十センチ程しかないのに、見事に鍛え上げられた筋骨隆々の肉体が異様な雰囲気を醸し出している。


「す、済まねえ。道に迷っただけだ……」


 ピックパークは着ている黒コートがはだけている事に気付いて、ディッツに気付かれない様そっと体を隠した。

 先日、旨そうな女を見つけて後を追ったものの、人形を使った奇妙な技で返り討ちにあっていた。その時に受けた攻撃のせいで腹部に焼けただれた様な傷が残っている。それだけならまだしも、腹の中に蓄えていた肉精丸を排出してしまっていた。


 慌てたピックパークは、ディッツが到着するまでにある程度の肉精丸をこしらえようと思ったが、腹に受けた傷のせいで体が思う様に動かなかった。昨日は一日、排水溝の暗がりの中で体を休めながら、ディッツへの言い訳のことばかりを考えていた。

 しかし結局何も思い浮かばなかった。体は一日じっとしていた為、随分回復している。道に迷ったと言うのも嘘だ。要はディッツの顔を見るのが恐かったのだ。


「――クレトはどうしてる? 女王の体と一緒なのか?」


「あ、ああ。とっておきの隠し場所を見つけたんでクレトもそこに居るよ。何たってあの体だ。この星じゃ目立ってしかたねえ。とにかく計画は全て上手くいってる。何も心配する事はねえよ、へへ……」


 ピックパークは肉精丸の話題に触れられたくなくて饒舌だった。ディッツはそんなピックパークを静かに見下ろしていた。


「そうか、何も心配はないか……」


「そう、何もだ…… そうだ、船はもう沼に沈めたのか? 中古の割には星間航行ドライブシステムも順調だっただろ? あれはほんとに掘り出し物の一品だ。中古屋のボイスターを散々脅して手に入れたんだ。この俺が。だからディッツの役に立ってくれてほんとに嬉しいよ。甥っ子にも帰ったら自慢できる。それにこの沼はちょっと酸が足りねえけどきれいな水をしてる。帰る頃には汚れも落ちてピカピカの新品みてえになってたりしてな」


 ピックパークの下らない冗談に、ディッツの唇の片端がつり上がる。


「へへ、だといいな。そうか、じゃあ後は明日の仕上げを完璧にこなせばいいだけなんだな、そうだろ?」


 ディッツは車から飛び降りると、ゆっくりとピックパークに近付いていく。体は半分近くも小さいのに、その全身から発している肉食獣のような威圧感に完全にピックパークは呑み込まれていた。


「どうした? 何を隠してる?」


「べ、別に、何も……」


 と、ピックパークが言い終えた時、既にディッツの両腕には引き裂かれた黒コートが握られていた。

 ピックパークは慌てて自分の体を見た。腹部の焼けただれた様な傷跡が露になっている。


「い、いや、違うんだ、これは……」


「何があった? 肉精丸は無事なのか……?」


 ディッツの顔に初めて動揺の色がはしる。


「そ、それが、その……」


「まさか肉精丸はねえって言うんじゃねえだろうな!?」


 ディッツは頭を掻きむしりながら叫び声をあげて、狂ったかの様に取り乱した。


「す、済まない、得体の知れない地球人の女と戦った時に全部……」


 ピックパークは思わず後退去る。しかし足がもつれて無様に尻餅をついた。


「ふざけんな!」


 ディッツの右拳がアスファルトを打ち砕く。ピックパークは間一髪のところで逃れた後だった。


「おれがあの味をどんなに楽しみにしていたのかわかってるのか!? 肉精丸がおれの活力の源なんだよ。あれがあるから俺たちベニラ団はここまでのし上がって来れたんだろうが! あれ無しで明日の大仕事をこなしてまた宇宙に出ろって言うのか!? 冗談じゃねえぞ、お前は俺に死ねって言ってんのか!?」


 ディッツの姿が目の前から消えたかと思うと、いつの間にかピックパークの背後に回り込んで後頭部に人差し指を突き立てている。


「なあ、おめえ、ここで死ねかよ……?」


「ゆ、許してくれディッツ、お願いだ…… 俺だって今までベニラ団やディッツのために尽くしてきただろ? たった一度のヘマで命を奪われるんじゃ余りにも俺が可哀想すぎる。頼む、もう一度だけチャンスをくれ。明日中に何とかするから……」


「だよなあ。そうじゃなきゃ愚図なおめえを側に置いておく理由が見当たらねえ」


 ディッツはもう片方の腕をピックパークの首に回して囁く。


「なあ、あと30は用意してくれ。あの味が恋しくてたまらねえんだよ、頼むぜ相棒……」


 ディッツはまるで麻薬常用者の様なとろりとした目で、ピックパークの頬の鱗を舐め上げた。


「女王の方はおれとクレトでやる。だからおめえは肉精丸だけに集中してろ。おれが満足できる数を必ず明日中に作れ! もう時間はねえんだからな。いいか、今回の大仕事を上手くやればベニラ団はさらに大きくなる。カンナニラでも十本の指に入る海賊になるのは確定よ。だからもしヘマをしてこれ以上足を引っ張るような真似をしやがったら、この手でおめえをバラバラにして辺境の太陽の中に投げ捨ててやるからな!」


「わ、わかった……」


 ピックパークは凍り付く様な恐怖の中で、何とか命拾いした事に安堵していた。

 そして明日はこれまでの人生の中で一番長くて忙しい一日になりそうだと唾を飲み込んだ。

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