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レポート11

 私と柊葉月は駅前にある雑居ビルの屋上へと来ていた。

 彼女の霊能力とかってやつで琴乃ちゃんの行方を探る為に人気がなく静かで落ち着ける場所を探していて、たまたまこのビルが目に止まったのだ。

 運良く屋上へ出る扉には鍵がかかっていなかったので、私たちは屋上へ出ると隣のビルから死角になっている大きな給水タンクの横を選んだ。


「さて、と――」


 彼女はおもむろにトートーバッグからこけし人形を一つずつ取り出すと足元に並べていく。


「へえ、いつも持ち歩いているんだ、それ?」


「まあね、大事な仕事道具だし。――それにお守りみたいなものだから……」


 そう言ってこけしを並べる彼女の横顔は笑っているようにも、またどこか寂しげにも見えて、なんとなく私は柊葉月という少女ともっと仲良くなってみたいと思うようになっていた。


「よし、こんな感じかな? あとは仕上げに本日の主役に登場していただきますか」


 柊葉月は手際良くこけし人形を円形に並べ終えると、私の顔を見上げて意味ありげに微笑んだ。

 こけし人形は全部で九つあり、それが等間隔に並んで直径一メートル程の円を作り出している。

 そして最後にバッグの中から特大のこけし人形を取り出して円の中央へと置いた。そのこけしは他の物より二回りほど大きくて全長で30センチほど、直径が10センチくらいと丁度2リットルサイズのペットボトルくらいの大きさをしていた。


 あ、あんたはいつもそんなもんを持ち歩いてるんかい!

 おまわりさん、こいつです。極太サイズのこけしを持ち歩いているヘンタイ女子高生はこいつです!


 と、思いきりツッコミたかったけれど、まだ彼女とそこまで仲良くもなっていなかったので、私は悶々とした複雑な顔を浮かべていると、柊葉月は女の私でもドキッとするような艶やかで色っぽい微笑みを浮かべながら極太サイズのこけしを巨乳に挟むように抱きしめて、愛おしそうに頭を優しく撫で始める。


 あまりの18禁ネタに私の顔はカーッと熱くなってつい俯いてしまう。と同時にふと気付く。


「もしかして私からかわれてる……?」


「ふふ、だって子猫ちゃんウブでかわいいんだもーん」


「もういいから、早く先に進んで!」


「はいはい子猫ちゃんは怒ると怖いわねえ。じゃあさっき言っていたもの出してくれる」


 私は照れ臭さもあって半分キレ気味に言うと、ようやく彼女は真顔になって特大サイズのこけしを円の中央へと配置した。そして私は学生カバンの中から一冊のノートを取り出して彼女へ渡した。

 それは昨日私が授業をサボって屋上に居たので、その間の授業の内容がわかるようにと琴乃ちゃんが貸してくれたノートだった。


「ほんとにこんなのでいいの……?」


「本人に縁のあるものならばなんでもいいわ」


 そう言って彼女はノートを受け取ると、空白のページを一枚だけ破り取り、さらにそれを九等分にちぎって円を象っている九体のこけしの下へ敷いていく。


「……まず私は最近街に増え始めた特殊な気配を探っているうちに一つだけ気配が他とは動きが違っていていることに気付いたの」


「動きが? どういうこと?」


「普通地球人にしても宇宙人にしても物理的な制約はあるでしょ? 目の前の道がT字路ならば左右のどちらかに曲がるだとか、壁があったら迂回するとか。勿論あなたたち宇宙人の中には地球人を遥かに上回る体力の持ち主だとか、不思議な能力を持っている連中が居るってことは本田君に聞いて知ってるわよ。実際私は昨日の夜、神社へ向かう途中で屋根の上を走る謎の少女を目撃しているし」


「げえっ、あれ見てたの!?」


「当たり前でしょ、あんな派手なことをしたら嫌でも目に付くに決まってるじゃない。とにかく、無数に感じた気配の動きは大体が街の構成と配置に適合していて道が右に折れていればその通りに曲がっているし、建物があれば迂回している。だけど一つの気配だけは明らかにそんなものは無視して、ゴーイングマイウェイに道が折れていても壁を突き抜けて建物を突き抜けて移動しているわけ」


「実際に壁に穴が空いていたり建物が破壊されている訳ではないってことね?」


「そう。それで私は仮説を立ててみた。相手は空を飛んで移動しているのか、もしくは零体に近い存在なのではないのかと。そして街にある神社やお寺という霊的なスポットに零体専用の罠を幾つか仕掛けて見たってわけ」


「そして昨日の神社の一件になるわけか……」


「それでこの中央に鎮座する特大の極太こけしが柊家に伝わるカラクリこけしの一つよ。で、周りのこけしがあの神社に張ってあった罠に使用していた物なの。罠にかかった獲物の匂いはこけし自体に染み付いていて決して忘れないわ。まずこれが気配A。そしてもう一つがあなたに今もらったノート。これが琴乃ちゃんの気配B。いま街の至るところにはこの気配Aと気配Bの名残りがそれこそ絡まった糸のように残っているけれど、気配AとBが重なった気配Cはまだ昨夜からと比較的新しくそれほど移動距離も多くはない」


「そうか! それを追いかければ自然と琴乃ちゃんが見つかるって訳か! もしかしてあなたは天才ですか!?」


 私は興奮と期待が一気に高まって、彼女に向かって手を合わせて拝んだ。


「きゃは、天才じゃなくて天使よ! じゃあ今から九つのこけしがここから近場の気配Cを探して、からくりこけしがそれを辿って琴乃ちゃんを捜しに行くわ。精神統一するからしばらく黙っててよ子猫ちゃん!」


 そう言って柊葉月は目を閉じると、小声で「臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前」と呪文を呟きながら両手の指を合わせて次々と印を結んでいく。確か中国から伝わった道教の呪文に密教や陰陽道の要素が加わった呪術だったか。

 その声に反応するかの様に円形に並んだ九体のこけし人形がカタカタと激しく揺れ始めて、それぞれがバラバラの方角へ向きを変える。


 そしてまるで強力な磁力に引き寄せられるように九体のこけしが一斉に南南西の方角へと向きを変えた瞬間、それまで中央に静かに鎮座していたからくりこけしが突然音もなくなく浮かび上がり、


「派っ!」


 彼女の合図と同時にカラクリこけしは、まるでロケットの様に物凄い勢いで大空へと飛び立っていく。


「――飛んだ!」


 それまで固唾を飲んで見守っていた私は思わず叫んで、一瞬にして空の彼方へと消えていったからくりこけしを見送ったまましばらく立ち尽くしていた。




 本田は自宅のある川沿いのマンションへ戻ってくると、足早にエントランスを横切りエレベーターへと飛び込むと、操作パネルの鍵穴に鍵を差し込んで左に回してから13階の釦を押した。


 最上階である13階には3部屋ずつ通路を挟んで向かいあうようにして合計で6部屋あるのだが、借り主は全部本田名義となっていた。

 つまりマンションの最上階全てがカンナニラ銀河連邦警察の地球派出所アジア支部兼住居となっているのだった。


 本田は部屋の一つに入っていく。

 部屋の中はどこでも見掛ける造りだったが、20畳程のリビングにはびっしりと様々な機械が設置され、壁には40インチ位のモニターが幾つか並んでいてどこかの地形図やグラフを映出していた。

 本田は立ったままでパネルを操作すると、ネクタイを緩めながらキッチンへ行く。日本製の冷蔵庫の中から缶コーヒーを取り出してリビングへ戻ると、壁のモニターの一つには一人の女性が映っていた。


「やあリリスク、元気にしてたかい?」


 と、本田はその女性に母星語で声を掛けてモニター前の革張りの椅子に腰掛ける。リリスクと呼ばれた女性は、左側が金髪で右側が赤髪のロングヘアで額には親指程の大きさの角が四本生えている事以外を除けば地球の女性に似た外見の持ち主だった。年齢は30歳前後だろうか。色気のある微笑みを浮かべてアルトの声で喋り始める。


「――私は相変わらずよ、タキン。今日はどうしたの? 地球の女の子に泣かれて困ってるなんて相談じゃないでしょうね?」


「や、やめてくれよ、こう見えても僕は仕事人間でそんな暇なんて全然無いよ」


 本田は少しばつが悪そうな顔で言う。


「ところで実は調べてほしい事があるんだけど――」


「いいわよ、あなたの家族には世話になってるんだし。さ、なにが知りたいの?」


 彼女は本田の幼馴染みで、現在は連邦警察本部の情報管理室に勤務していたが、競争倍率が高く3年続けて選に漏れていた所を、見兼ねた本田の父親が警察幹部に口利きした事により漸く合格出来たのだった。もっとも努力家の彼女ならば放っておいても大丈夫だった筈だが――


「実は最近地球で――」


 本田は缶コーヒーを啜りながら一連の出来事を説明し、連邦軍もしくは同盟惑星の地域軍の機密作戦を洗ってほしいと頼み込んだ。リリスクは余裕の笑みを浮かべて快諾してくれたが、その後で多少の時間の猶予を見てほしいと付け加えた。


「まあ、相手が軍だから簡単に情報が得られるとは思ってないから。――でもなるべく早く頼むよ、君の豊富なボーイフレンドのネットワークを使ってね」


 先程のお返しに本田はリリスクの男関係をからかって通信を切ろうとすると、リリスクが思い出した様に呼び止めた。


「――そう言えば、Zー92ーHZ区域に居たパトロール艇8号から定時連絡がないらしいの。なにか知っている?」


「8号って言えばベニラ団のディッツを掴まえた――? まあ大方手柄を立てて酒盛りでもしてるんだよ、船乗りは昔から豪気な人が多いし、特に外洋の人間はストレスが溜まりやすいから」


「でも船内コンピューターともコンタクトが取れないのはおかしいわ。信号自体ロストしていてこれじゃあ船自体に重大なトラブルが発生した可能性があるって、いま外洋公安部は蜂の巣を突いたような大騒ぎよ。――と言っても安閑とした日々を満喫中の辺境駐在員様にはあまり興味のない話だったかしら?」


「はは、両親に泣かれるのがツラくてね」


「ジョークよ。あなたの甘い笑顔を見ていると何故か無性にいじめたくなってくるのよね。でも本当にあなたたちファミリーには心から感謝している。だからさっきの件は任せておいて。こういう時のためにいろんな男とデートをしているんだから」


「ありがと。頼むよ、首を長くして待ってる」


 本田は通信を切った後もしばらくモニターを見つめたまま考え事をしていた。何か引っ掛かる事があったが、たぶんただの杞憂だろうと自分に言い聞かせて席を立った――

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