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白く冷たい風が辺りの木々を撫でる。
葉も無い枝は、サワサワと哀しく軽い音を立てて静まる。
気温は下がっているというよりも、ない。水などの液体も存在しない。何故なら瞬時に凍ってしまうから。
生物が全くいないようなこの真っ白な冬の森。
真冬。闇夜。満月。雪。―――この条件が揃ったときのみ、「それ」は姿を現す。
白銀の体毛で覆われ、睫毛も白銀。
色が薄く、いかにも儚いといった感じで煙のように消えてしまいそうな。
しかし濃蒼色の瞳が爛々と輝き、儚いという印象を打ち消す。その瞳は、まるで。
狼。
そこには二匹の狼が静かにこちらを見つめていた。
***
「何故だ……。何故死なねばならぬ。あのような下等な生物の為に」
「下等は貴様だ。我が掟を破るなどと愚劣な行為を」
この場は冷たい。寒い。
緋色の髪。燃え盛る炎の如きその髪色は、我が種族にとっては不愉快極まりない。いつだ、いつになれば……。
「お前は大罪を犯した。二度とここに現れるでないぞ」
それは、我が同胞を護るために犯した罪だとしても。生きるために殺したのだとしても。
掟を壊さぬために作られた掟は、あまりに残酷だ。
銀よ。かつて我を創っていた銀よ。
もう一度我を受け入れてくれたまえ。そして。
「あの森に。あいつの元へ……。逢いたいのだ……」