そのさんじゅうななっ! 激戦、体育祭 その4 屋台と少女の恋の理由
大変長らくお待たせ致しました。ようやく更新です。
前回後書きで5000時超えそうとか言いつつ、結局超えませんでした。・・・が、今後超える可能性がなくもないため、5000字以内縛りは撤回ということで。
敏豪があの日朝ぶつかった少女が心愛だと知り、さらに心愛が自分に好意を寄せていることも知り、敏豪に恋する四人の少女からすれば恋敵が増えたことが発覚した借り物競走が終わり。
「・・・ダーリンは本当に女誑しなのです」
「・・・いくらでも叩け」
「けどその敏豪が好きになっちゃったあたし達ってわけだし」
「否定したくないですね」
叩かれるかと思ったら意外と叩かれないことにある種の恐怖を覚えた敏豪。ちなみにもう1年の競技でそれぞれが出る種目がないため、こうしてフラフラしているのだ。
「・・・さっきばったり母さんに会ったからちょっとばかり小遣いもらえたけど・・・どうすんだよこれ」
敏豪の手元にあるのは3000円。体育祭中の学生が持ち歩く額にしては多過ぎるのだ。
「ダーリン、たこ焼き食べたいのです」
「私たい焼きがいいな」
「私もたい焼き食べたいです」
「あたしはどっちも貰うわ」
「あの、私もいいですか?」
「・・・いいけどよ」
さも当然のように集る4人と(この中で音羽が最も図々しいのは気のせいではない)、控えめながらもおねだりする心愛に、若干うんざりする敏豪。
「・・・屋台どこにあるか知らねぇぞ?」
「あっちにあったのです」
ナタリアがぴっと指さした方に、確かに屋台が並んでいた。
「・・・マジでか」
「生徒も何人か買ってるのを見たのです」
実際に見ると、確かに生徒が並んでいた。よく見れば女学院の生徒も。
「・・・普通こういう時って生徒の買い食い禁止だよな・・・?」
「普通は、ね。けどここは西条東高校よ?何でもありの」
「・・・そう・・・だった・・・っ!」
音羽の分かりやすい理由づけに思わず地に膝を着けそうになった敏豪。
「しょうがねえ、買ってくるよ。ナタリアと音羽がたこ焼き、咲夜華とルナと音羽がたい焼き・・・心愛は?」
「私もいいです?・・・それなら・・・たこ焼きほしいです」
「ん」
一言だけ告げて敏豪は屋台の列に加わった。女子陣は適当に6人座れる場所を探し始めた。
「あ、あそこ皆で座れるです」
「ホントなのです。というかどこか都合がいい感じだったのです」
「そこは・・・ほら、突っ込んじゃいけないお約束みたいなものじゃないの?」
うまい具合に6人座れるテーブルを見つけ、そこに座る咲夜華たち。
「ここ凄いですね」
「あたしもつい最近転校してきたばかりだけどさ、普通の高校にこんなカフェテリアって普通ないよ?」
「ここはほら、西条東高校ですよ?」
「うぐぅ、さっきあたしが敏豪に返した言葉が自分に帰ってくるなんて思わなかった・・・」
机に突っ伏す音羽に皆で苦笑した。
「ところで」
そんな音羽がむくりと起きあがって話を切り出した。
「あんたら、敏豪の何処に惚れたわけ?ここちゃんは改めて惚れたって訳だけど」
「と、唐突ですね・・・」
「そういうのは普通、言い出しっぺが答えるのが道理なのです」
「あー・・・やっぱり?」
音羽は頭を恥ずかしそうに掻く。
「あたしはー・・・5歳の時にね、髪のことでいじめられてたの。ほら、あたしゼバルの先祖返りだから髪の毛赤いでしょ?」
「えっ!?音羽ちゃんゼバルの先祖返り!?」
咲夜華のみならず、その場にいた音羽以外の全員がその事実に驚いた。
「あたしも知ったの転校した後だけどね、お母さんに言われたの」
「へ、へー・・・」
「で、髪のことでいじめられてた時に敏豪が助けてくれて・・・それからかな」
「じゃあ音羽ちゃんは幼稚園の時からずっとです?」
「そういうことに・・・なるのかな?久しぶりに会ったら・・・その、もっとカッコよくなってるし・・・」
『カッコいいは否定し(ないよ/ないです/ないのです/ません)』
音羽の惚気に女子陣一同が首を縦に振って賛同。なんとなく奇妙な集団となった。
「じゃあ次咲夜華」
「えっ、私!?」
「さっさと言いやがれなのです」
全員の視線が集まることで挙動不審になる咲夜華。
「え、えとね?私は、その、小学校の時に差別とかいじめとかされてたんだ」
「あー・・・そういうことですかー・・・」
「その先の展開理解出来たのです」
『どういうこと(ですか)?』
既に咲夜華の正体を知っているためすぐに納得できたルナと、展開すら予測できたナタリア、そして知らないがために首を傾げる音羽と心愛。
「私、人間と吸血鬼の混血なの」
『混血!?』
「そうなんです。前に私、咲夜華ちゃんが敏豪さんの血を飲んでる所見ちゃいましたから」
「ち、血ぃっ!?」
「動脈は狙ってないからね!?」
「その時は指を咥えてましたね」
ひぃっ、という感じで身を避ける心愛やちょっと顔が青くなった音羽に必死に弁明する咲夜華。そしてフォローをするルナ。
「そ、それより話の続き!」
「・・・うぅ・・・やっぱり言わなきゃダメ?」
『ダメ((なの)です)』
全員に『ダメ』と言われ、もう諦めるしかないと踏んだ咲夜華。
「うぅ・・・。・・・そ、それで・・・私の初恋はその時に助けてくれた男の子だったんだ・・・。『女の子一人に多人数で寄って集るなんてバカじゃねえの?』って」
「・・・うん、十分その先が読めた。それ、敏豪だったんでしょ?」
「そうなんだけど・・・実はその日の二日後に転校しちゃってお礼も言えなかったんだ」
全員が全員「あー」と声を揃えて頷いた。
「そりゃ覚えてないのも仕方ないことなのです」
「で、高校入ってすぐだったんだけど、一度だけ輸血パック持ってくるの忘れて倒れちゃったの」
「で、それを見ちゃったのが敏豪で、と」
「・・・うん。その時に血も吸っちゃって・・・」
そしてここでまた納得。
「それで、私の本性を自分で言わない限り誰にも言わないって約束してくれてて、守ってくれて・・・そこで好きになったのかな。後から小学校の時私を助けてくれた男の子だって知って」
「完全に落ちた、ということなのです?」
ナタリアの問い返しに縦の首肯を持って答える咲夜華。
「それは分かる気がするです」
「じゃあ次脳筋さっさと言いなさい」
「・・・仕方ないのです」
はあ、と溜息を一つついて、ナタリアは自分のことを話し始めた。
「予め言っとくのです、私は夢魔と祓魔師の間に生まれた異端児だって」
「・・・ごめんなさいリーアフォルテさん、咲夜華ちゃんとか姫川さんの話を聞いてたから耐性ついちゃって・・・」
別に構わないと言った表情で続きを離すナタリア。
「で、ちっぱいを祓うって仕事が来たのです。その時はもうちっぱいはダーリンと会っていて、一緒に帰っていたのです」
「・・・え、えーと、当時リーアフォルテさんの考え方が「悪魔=存在してはいけないもの」って感じだったみたいで・・・」
「な、なんか今の性格からも分かる気がするわ・・・」
「と、とっくに偏った考えは捨ててるのです!!」
ナタリアは必死に違うと弁明していた。
「ダーリンに諭されてからは考えを変えたのです!!」
「はっはーん・・・」
そこで音羽が結論づけた。
「アンタ真面目に怒られたことなくって、初めて怒られた相手だった敏豪に惚れたと?」
「うぐ・・・」
図星を突かれて言葉を詰まらせるナタリアだった。
「次ルナちゃんだね」
「あ・・・う・・・」
咲夜華に話を振られたルナは、顔を赤くして俯いた。
「ルナちゃんは確か・・・魔の階段地帯で転んで敏豪君にキスしちゃった時に意識しちゃってた?」
「へー・・・階段で転んで・・・」
「じ、事故ですからね!?わざとじゃないですよ!?」
必死に弁明を始めるルナ。しかし音羽や心愛からの疑いの眼差しは消えない。
「そ、そのあとなんですけど、私ヴァレフォールの生まれ変わりで、1人で帰ろうとした時にバエルに襲われて・・・」
「お、襲われる?」
「・・・「お前を我が嫁とする」って・・・私まだ15歳なのに・・・相手25歳くらいでした・・・」
「・・・年下好き!?」
音羽が驚いた顔をした。ルナはその後も話を続ける。
「私、ヴァレフォールの力なんてないんですけど、それでも嫁にするって言われて、拒否したら今度は力づくで・・・」
「もしかして・・・足を捻ったあの日?」
「・・・はい。元々運動が苦手な上に足を捻ったので逃げられなくてボロボロにされて・・・そこに敏豪さんが来てくれて・・・」
「自分を守ってくれた、と」
「そういうことに・・・なります・・・」
ルナが顔を赤らめて呟いた時。
「買ってきたぞー」
「ひゃあぁっ!?」
敏豪が急に戻ってきたため、ルナが素っ頓狂な声を上げた。
「・・・ど、どうしたんだよ・・・」
「ただ恋バナしてただけなのです」
「そ、そうです、気にしないでほしいです」
「・・・まあいいけどよ」
敏豪はそのまま袋を乱雑に机に置いた。中には・・・
「と、敏豪、これ・・・」
「・・・たこ焼き屋やってたのがよ、島田のおっちゃんでさ・・・」
「知り合いなのです?」
「知り合いっつーか共通の趣味持っててすっげぇ仲いいおっちゃんなんだわ、んでたまたま生徒がいなかったってのもあって6パックもらった。全部半額で」
「・・・敏豪、あんたあたしが知らない間で人脈広がったのね・・・」
「うっせぇ!」
その後、1年生の、とくに彼らの出番はなかったため、ただただカフェテリアでぼーっと過ごすだけとなった。たこ焼きやたい焼きを食べながら。
「あ、あふっ!あふぁふぁふぁふぁ・・・」
「音羽ちゃん無理に押し込むから・・・」
「ダーリン、あーん♪」
「わ、私も!」
「・・・あのなぁ・・・」
昼食までの間、ずっとこんな光景が見られたとか。余談だが・・・
「・・・なあ、俺いつまでこうしてなきゃいけないの?」
「・・・ずっと。私のお婿さんになってもずっと。死ぬまでずっと」
「だ、ダメ、わ、私の、お、お婿さん、だもん!」
「・・・俺、泣いていいですか・・・?」
一樹がアリアネルゼと雫の取り合いの景品になっていた。敏豪とは違い、こっちは相変わらずの女の戦争だった・・・
次回、体育祭編最後のお話。体育祭の最後の競技であり、勝敗を決める最後の競技・・・どうなるのかは、その時をお楽しみに。