そのさんじゅうろくっ! 激戦、体育祭 その3 借り物競走
何か色々と話が進んじゃいます。
ついでに音羽の引っかかりも同時に解決するある意味解決編です。
・・・ついでに敏豪争奪戦が激化するとだけ言っておきましょう・・・
100m走以後、競技は順調に進んでいった。
綱引きでは1-A(雫が所属)が全クラスを圧倒し、1-Bは健闘2位。
続く仮装100mでは波乱だった。出場者自体は少ないが、その仮装するものが大変だった。この競技には咲夜華が出場したが、咲夜華が仮装で着たのはスカート丈の短いメイド服だった。他にも浴衣、スーツ、着ぐるみ等。
一部の女子が何故か水着を引き当てて着たのはいいがリタイアしたというのもあった。他にもゴールした直後に保健室に搬送された者がいた。・・・言わずもがな、着ぐるみを引き当てた男子だった。
そして、次の競技が来た。競技名は・・・『借り物競走』。スタートしてちょっと行った先にある机の上の箱に手を突っ込み、引いた紙に書かれたものを持ってこいというもの。ただ、この体育祭の借り物競走は対象が『物』だけでないということが特徴。『者』も含まれているのだ。
参加者は、ルナとアリアネルゼと・・・心愛だった。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「もうじき始まるわね、借り物競走・・・」
「変なの引き当てなきゃいいんだけどな、ルナ」
「変なの・・・校長のかつらとかなのです?」
スタートライン先頭に立つルナを見て(足が遅いということで考慮してもらっていた)雑談をする敏豪達。
「私が中学生の時にもあったけど・・・あの時一番変だったのが「男子が人に見せたくない所の毛」とかあったなぁ・・・」
「うげ・・・」
ナタリアが咲夜華の中学校の借り物競走で最悪なものを聞いて吐き気に襲われた時、スタートを告げるピストルが鳴った。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「はふぅ・・・や、やっと着きましたぁ・・・」
スタート直後、ほぼ全員に抜かれるという悲しい現実を目の当たりにしながらもなんとか紙を引けたルナ。そこに書かれていたのは、
「・・・自分が好きな人・・・好きな・・・あぅ・・・」
「今、自分が想いを寄せている人」。言い換えれば好きな人、ということだ。それを見たルナは顔を赤くして俯いてしまうが、すぐにきょろきょろとしてある人物を探した。
ちなみにこの借り物競走で指示されたもので嫌なものの一例として、『女子の胸パッド』とか『下着』などの物から『身長140cmの人』(←ほぼ無理難題レベル)とか『アレルギー性鼻炎の人』とかの身体的特徴など。挙句の果てには『バストサイズAAの人』なんていう、不名誉極まりないような内容を指示されたりもした。
「敏豪さん・・・敏豪さん・・・あ、いたっ!!」
ルナがとてとてと敏豪に近づき、敏豪の手を掴んだ時だった。
『あっ・・・』
ルナと同時に、別の誰かが敏豪の空いている手を掴んだのだから。
『・・・』
そして沈黙。敏豪は手を掴まれているため鳥肌が立ちっぱなしで、それ以外の3人も何をしていいやら分からず呆然とするだけ。
「と、敏豪さんは渡しません!!」
「わ、私だってこの人は渡したくないです!!」
手を掴んで引きこむ女子と、腕を全身で抱きかかえるように引っ張りこむルナ。若干ルナの方が負けているのは気にしたら負けということで。
「あーもー、お前らさっさと行きやがれなのです!!」
ついにプッツンしたナタリアが引っ張り合いを続ける二人に対し声を荒げた。その瞬間に起きたことを、音羽は見逃さなかった。
(ネコ耳・・・!?)
二人に引っ張られて、なぜかドナドナが聞こえてきそうな敏豪を見ながら、音羽は頭の中の引き出しを漁り続けていた。
ちなみにアリアネルゼは、運よく一人歩いていた一樹を発見し、一緒に来てほしいと懇願、息が上がっていたこともあってか、一樹がおぶって走る形になっていた。ちなみに俊足名誉会長は一人おぶっても速度をあまり落とさないというチートぶりを披露してみせていた。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
『~~~~~っ!!』
「ちょ、ルナ、痛い!えと、君もさ、ちょっと速度落としてくれないか!?腕痛いから!!」
敏豪は片腕を女子に引っ張られ、残った片腕をルナに抱きつかれた状態で盛大に引き摺られていた。
「えっ、あっ・・・」
敏豪の悲痛な叫びが功を奏したのか、女子は走るのを止めた。
「痛ぁ・・・ジャージ下に履いてなかったら今頃両足擦り傷だらけだっつの・・・」
ルナが片腕に抱きついたまま、敏豪は立ち上がった。
「・・・で、一体なんで俺が必要なわけ?」
「そ、それは、その・・・」
何故か言いよどむ女子。その時、不意に敏豪は彼女が持つ紙を見つけた。
「ちょっとその紙見せて」
「あっ・・・」
するりと取ってしまった紙を見る。そこにはこう書かれていた。
「今自分が想いを寄せている異性」と。
「・・・おいおい・・・」
「えと、あの、その・・・」
「・・・ルナは?」
「え、あ、こ、これです・・・」
ルナから渡された紙を見る敏豪。そこには「今、自分が想いを寄せている人」と書かれていた。
「・・・」
思わず敏豪は言葉を失った。どちらも目的が自分だった、ということが原因で文面はよく見れば同一内容。しかも
「わ、私と一緒に来てほしいです!」
「私と、私と一緒に来て下さい!」
半分告白のような形で、二人の女子から一緒に来てと頼まれる敏豪。
「・・・待て、一体どういう流れでこうなった?」
敏豪は二人に待てと言い、事情説明を求めた。
「好きだから・・・じゃダメですか?」
「いや、ダメだと言ってるわけじゃなくて、どうしてこうなったか聞きたいんだが・・・」
「・・・敏豪さん・・・」
ルナが敏豪の名を呟いた時、隣の少女の髪にネコ耳が生えた・・・ように見えた敏豪。
「・・・敏くん?」
「・・・え?」
その少女からあまりにも懐かしい呼び方が聞こえ、思わず呆けた声を上げてしまった。そして改めて見る、ピコピコと動くネコ耳。
「もしかして・・・心愛?」
「やっぱり・・・敏くんだ!!」
突然ギュウッと抱きつく心愛。
「ふむぐっ!?」
敏豪は座り込んでいたため、当然と言えば当然だが、心愛の胸に顔が沈んで行った。つまりは窒息。
「あっ!!」
敏豪の顔が心愛の胸に沈んだその同じころ、音羽が声を上げた。
「ど、どうしたの音羽ちゃん?」
「なーんか見覚えあるなと思ったら・・・あの子ここちゃんだ!」
「こ、ここちゃん?」
きょとんとして聞き返す咲夜華。ナタリアは既に・・・
「・・・あの女ぁ・・・私のダーリンに馴れ馴れしく抱きついてやがるのです・・・!」
黒オーラを誰が見ても分かるほどに放っていた。
「え、え?」
「私と敏豪の幼馴染みで、青葉流通の一人娘」
「あ、青葉流通って・・・あの青葉流通!?」
「うん」
ほえー、と言わんばかりに呆ける咲夜華に音羽は複雑な感情を持っていた。
(・・・戻ってきてくれたことは嬉しいんだけど・・・ライバル増えちゃってるし・・・ああもう、どうしたらいいのよあたしは!!)
結局ルナ・心愛共にゴール出来ず終い、という結果に終わった。
次回は5人の悪魔っ子がそれぞれ恋したその訳を暴露するガールズトークがメインです。
さらにいうと次回から『5000字以内縛り』を撤回しようかと。・・・どうも次回結構長くなりそうなので。