そのにじゅうろくっ! 従妹と誕生日 後編
後編です。・・・さてさて榊家に現れた二人の少女。彼女達が齎すのは一体・・・?
あと、最後の方で敏豪の伯父に「おい」と言いたくなる一言が。
「誕生日!?今日!?敏豪君の!?」
「・・・そうだけど?」
「なんで言ってくれなかったのです!?」
「アンタらに言っても無駄だって思ったからじゃないの?ま、幼馴染のあたしはちゃーんと知ってるけどね」
敏豪の部屋、そこでナタリアと咲夜華の絶叫とも取れる声が響いた。ルナは既にフィーリアから聞いていたため、買い物(慌てて出ていった。無論敏豪への贈り物を買うため)に行った。
「わ、私、プレゼント買ってくる!!」
咲夜華も大慌てで部屋を出た。残ったのは敏豪と、ナタリア・アンナ・フィーリア・音羽の4人。
「アンタは行かないの?」
「私は私自身をプレゼントすれば問題ないのです」
「いや問題あるから」
ナタリアからの壮絶なプレゼント(予告)にすぐさま突っ込む敏豪。
「そういう牛は何を持ってきやがったのです?」
「あたしは・・・まだ言えないわよ。見てからのお楽しみ」
「ちっ・・・」
ある意味殺伐とした空気が流れる部屋。フィーリアにとってそれは堪え辛いものであり・・・
「お兄様・・・怖い・・・」
敏豪の腕に抱きつき、震えていた・・・
「・・・フィーリア、落ち着け。多分・・・いや、きっと・・・大丈夫・・・なはず・・・」
「ところでダーリン、今ふっと気になったのですが・・・」
ナタリアが敏豪の方を向いた。
「なぜ『鳥肌が立っていない』のです?」
「あ?」
「そういえば・・・そうね・・・」
ひょい、とフィーリアを退け、アンナを近づけてみた。そうしたら案の定・・・
「・・・っ!!」
「あ、立ったわ鳥肌」
「立ったのです、盛大に」
「おにーちゃん、私のこと嫌いなの・・・?」
やっぱりか、という感じで敏豪を見る音羽とナタリア、そして涙を湛えて見つめるアンナ。
「いや、嫌いというわけじゃなくて・・・なんというかその・・・」
「・・・あれ?」
そんな中音羽がふと気づいたように声を上げた。
「フィーリア・・・だっけ?アンタ、前に一回敏豪に会ってない?」
「お、お兄様と、ですか?」
「そ。アンタとあたしだけなのよ、鳥肌立たないの」
「そう、なんですか?・・・会ったかどうかは覚えてないんですけど・・・」
「そっか・・・何が境界線なのかしら?敏豪の鳥肌が立つ立たないの境界線・・・」
音羽は頭を抱えて考え始めた。
「ところで妹2号?」
「・・・ナタリア」
「なんです、ダーリン?」
「いい加減名前覚えろ」
「えー」
突然言葉を漏らすナタリア。わざとなのか、と思うようになった敏豪だった。
「気を取り直して・・・フィーリア?」
「は、はい」
「なぜ厚着してるのです?」
「あ、それ私が言う!」
アンナがぴょこぴょこ跳ねた(ベッドの上。敏豪のベッドは使われてこそないがスプリング)。
「あのね、フィーは肌を晒して太陽の下を歩けないの。日差しに弱い体だから、しかたないの」
「あ、アルビノじゃないです・・・」
「もしかして生まれつき?」
「は、はい・・・」
半ばアンナに隠れるようにして返すフィーリア。ちょっと音羽がキュンとしてしまったのは別の話。
「・・・しっかし・・・な話なのです」
「どうしたのよ急に」
「さっき編入生がフィーリアを抱きしめてぽわぽわしてたのです。一体何をしでかしたのです?」
ナタリアの問にフィーリアもきょとんとしている。質問の意図を理解していないのと、そうなっていた事を一切知らなかったからである。
「はぁ・・・。脳筋には未来永劫分からないことよ。諦めなさい」
「牛にも分かるはずがないのです」
「あたしは分かったわよ、お生憎様」
勝ち誇った顔をする音羽の前で、ナタリアは『うにぃ~』と可愛らしい声を上げて音羽を睨みつけていた。
「えと、お、お兄様・・・」
「フィーリア?」
「お、お誕生日、お、おめでとう、ございます!」
フィーリアが敏豪に小さな箱を手に乗せ、突き出した。可愛らしいラッピングを施した、小さな箱を。
「お、おお?」
「これ、お、お兄様へのお誕生日プレゼント、です・・・」
「あ、ああ、ありがとな」
急だったのでびっくりしていたが、小さな箱を受け取る。
「あ、あたしからもプレゼントね。今どうか知らないけど小学校の時好きだったあれあげるわ」
音羽からも包みを渡される。そこそこの大きさのそれは、フィーリアから貰った包みより遥かに大きく見えた。
「音羽もありがとな。・・・開けてみるか」
包みを丁寧に解き、開けたその中には・・・
「フィーリアのは・・・キーホルダー?」
「お、お兄様がこういうの好きだって、お父様から聞いたので・・・」
「選んだの私!」
アンナ・フィーリアからのプレゼントはイルカの小さなキーホルダーだった。
「音羽のは・・・っと。・・・お、懐かしいな、これ」
音羽から貰った包みの中には、3000ピースの巨大パズルとルービックキューブだった。
「キューブなくしたからな・・・相当懐かしいや。パズルは・・・白猫家族のか」
「敏豪こういうの好きだったの覚えてるから。お小遣い無くなっちゃったけど」
「無理して小遣い全滅させる必要ねーってのに」
「いーのよ、敏豪にだったら!一樹だったらゴメン被るけど」
ボーイッシュな感じで笑みを浮かべる音羽に、敏豪は苦笑した。そんな中、インターホンが鳴って咲夜華とルナが同時に来た。
「か・・・買ってきました・・・」
「無理しなくてもいいってのに・・・」
咲夜華はまだ肩で息をしているが(それでも軽く)、ルナはぜーぜーと全力疾走した直後のような荒い呼吸をしていた。やけに大きな包みを持って。
「わ、私・・・これ!」
ズイッと出された包み・・・とトマトジュースの缶。
「・・・ちっぱい、なんでトマトジュースを買ってるのです?」
「・・・えと・・・なんとなく・・・かな?」
「・・・まあ後でジュースは貰うとして・・・包みは・・・」
ガサガサと、けれど包みを丁寧に解いた先に出てきたのは・・・
「前に欲しいっつってたラノベじゃねえか!」
「一昨日くらいに敏豪君が欲しがってるの見てて、でも買えなかったって感じだったから」
「やっべ、これマジ嬉しい!!」
目の前で大喜びしている敏豪を見て、嬉しそうな顔をした咲夜華。
「私は・・・ちょっと大きくて高いものになっちゃいましたけど・・・」
「・・・ちょっととか言う話じゃないわよこれ・・・」
包みを見て引きつった顔をする音羽。
「中身は・・・おいおい、ガン○ラ・・・」
「嫌い・・・ですか・・・?」
「そんなわけねぇけど・・・作った事ねーからなぁ・・・でもありがとな」
「・・・いえ・・・」
敏豪から困ったような顔をされつつも、しっかりとお礼を言われ、顔を赤くするルナ。それを見て釈然としないナタリアは結局プレゼントを買いに行った。戻ってきたのはその1時間後で、買ってきたのは安物の銀の十字架ネックレスだった。
「・・・これ、悪魔にとって大ダメージじゃねえのか?」
「違うのです。銀と十字架に弱いのは吸血鬼だけなのです」
にやりと咲夜華の方を向くナタリア。少なくとも一番の脅威であると認識していたのでこのような行為に出たのだが・・・
「へー・・・でもこれ、安物だよね?あ、でも心がこもっていたら安物でも嬉しいって聞くけど」
「あれ・・・?咲夜華、なんともないのか?・・・後鳥肌立つから離れてくれ」
「あ、ごめん。でもこのネックレス何ともないよ?」
「・・・!!」
ナタリアの頭に衝撃が走る。銀の十字架を触ってもなおけろりとしている咲夜華に、である。
おまけ
「・・・なあアンナ、今おっちゃんの周り何人いる?」
「お父さんの周り?んーとね・・・私のお母さんとフィーのお母さんと、リーナのお母さんともう一人お母さんがいるから・・・4人!」
「4・・・!?」
「ちょ、ちょっと待ってよ!それってさすがに犯罪じゃないの!?え、ちょっと待って、今「お母さん」って・・・」
「は、はい・・・お父様は、4人のお母様と一緒に暮らしてます・・・」
「それで子どもが3人・・・」
一般常識を知る敏豪・咲夜華・ルナ・音羽は、アンナとフィーリアの父(敏豪にとっては伯父)の常識はずれな事態に頭を抱えた。が・・・
「ということは、重婚も可能なのです」
「無理だからな!?俺逮捕されちまうって!!」
「そこは・・・編入生とか牛が考えてくれるのです」
「責任転嫁!?」
ナタリアからも常識はずれな言葉が出て、敏豪は「もう嫌」と思い始めるのであった・・
次回は夏休みの榊家Part2です。・・・とは言ってもこれ抜いて後2つで夏休み編終わりますけどね。