そのにじゅうにっ! 音羽パニック(後編)
遅くなりました、音羽パニック後編です。色々あります、敏豪と一樹の友情物語だったり、それで音羽が探しまわって怒ったり、ルナが提案したり・・・
それはまあ、本編で。
音羽が転校してきて、早速俺は恋愛戦争に巻き込まれた。・・・いや、音羽が一方的に力を見せつけただけ、と言うべき?
それは・・・一限目の体育から既に勃発した。
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「アンタのヘボ球、簡単にホームランにしてやるわよ!」
「打てるもんなら打ってみやがれなのです!」
なんか音羽がバッターになって、ピッチャーはナタリア。なんとなくネクストバッターはルナ。ワンアウトノーボールノーストライク。
(ちなみに男子は丁度俺のいるチームが攻撃で、俺は回るかどうかの瀬戸際な位置。だからこうやって傍観出来たりしている)
「せやあっ!!」
そしてナタリアが投げた。いつもの剛速球を。
「・・・甘いわね、その球もらった!!」
言うなり音羽はバットを振った。空振るなんてことはなく、キィン、という小気味いい金属音を鳴らして白球はナタリアの上を飛んでいった。
「そ・・・んな・・・!」
「残念だったわねー。これでも小中学校では運動神経抜群の美少女って言われてたのよー」
余裕ぶっこいて塁を踏み進んでいく音羽。愕然としているナタリアを尻目に、だ。
「はい一点♪アンタのただの速球なんて、打ってくれなんて言ってるようなものよー」
「うぐぐ・・・!!」
悠々と・・・というか歩いてベースを踏んで、厭味満々で言い放った音羽。・・・こりゃ最悪だ。
「うわー・・・姫川さんかっこいい・・・」
「ホームランって・・・凄いなぁ・・・」
女子からはやんややんやの拍手喝采。
ついでにその直後のバッターのルナは・・・
「え、えーい!!きゃんっ!!」
「ルナっちー、バッタアウト」
「あぅ・・・」
盛大に空振ってスリーアウト。最後は尻もちをついたりもした。そして交代。ピッチャーは・・・音羽。
「まさか、あんたが相手とはね。どうする?勝負する気?」
「さっきの汚名挽回なのです」
「・・・リーアフォルテさん、それを言うなら名誉挽回、それか汚名返上ですよ?」
「・・・汚名返上なのです!!」
顔を真っ赤にして言いなおすナタリア。・・・あいつもムキになるもんだなぁ・・・
「敏豪、お前の番だぞー」
「あ、マジで?」
「なんだよ、嫁さん見てたのか?」
「・・・いや、音羽のやつが暴走しねーか心配だっただけだよ」
「・・・ああ、納得」
俺を呼びに来た一樹までもが納得するほど、音羽は勝気だから・・・勝気だから暴走しかねないんだよな・・・
「音羽に噛みつかれるお前ってさ」
「なんだよ」
「結構・・・懐かれてんだな」
「それで済めば御の字だっつの」
苦笑いで返す俺。本当にそれで済めば御の字なんだがな・・・
結局、ナタリアは三者凡退の頭を飾ったに過ぎなかった・・・
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「このグラフの式はx=3、y=2」
「正解だ」
授業。この授業は今までは咲夜華・ルナの二人が競り合う形になっていたが(とはいってもそんな感じには見えなかったが)、そこに音羽が入り込む形になった。・・・音羽、勉強できたんだ・・・
「・・・はぁ・・・俺、本当に凡人だよなぁ・・・」
「どうした榊」
「いえ、独り言です」
思わず漏れた独り言に気付かれ、とりあえず取り繕う俺。・・・本当に凡人だって思うな・・・。勉強が出来るわけでもないし、スポーツだって万能なわけもない。・・・考えるだけでもバカらしくなってきた・・・
「・・・うにゅ・・・」
横ではナタリアが唸っていた。・・・なんか声が可愛いんですけど。
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「・・・はぁ・・・」
「どうしたよ、敏豪」
「・・・一樹か」
昼休み、屋上でぼけーっとしていた時に一樹が来た。
「なんか浮かねー顔してんな?」
「分かるか?」
「分かるっての。何年お前とダチやってる?」
「・・・だったな」
やっぱり、長年の友人には分かるものがあるらしい。
「で、どうしたんだ?」
「・・・なんかな?俺の周りが超人過ぎて、すっごい俺が凡人に思えてきたんだっての・・・」
「・・・なーるほどな。確かに代永は勉強面天才、リーアフォルテは運動神経抜群、ヴェイルフォールは見た目起用そうだし、音羽はほら、器用貧乏って言葉が似合うくらいなんでもできるだろ?・・・あ、出来ないことが一つだけあったか」
「なんだよ、その出来ないのって」
「・・・しおらしくすることだな」
「・・・ぷっ」
思わず一樹の言ったことに噴き出してしまった。・・・確かに音羽はしおらしくすることだけは・・・出来なかったな・・・
「まあお前が気にすることはないって言うこった。その天才たちを惚れさせたんだから、お前もそれなりに天才ってことだよ」
「・・・なんか釈然としねぇ」
「言うなれば、恋愛の天才か?」
「・・・一度死ね」
・・・何でこんなこと言われんやならんのかという気持ちはあるが、なんとなくすっきりはした・・・と思う。
「・・・ああ、それと敏豪」
「なんだよ、まだ言うことあんのか?」
「音羽の正体、覚えてんだろ?あの三人が何であれ、誰か一人に絞るんならあいつの能力だけはどうにか阻止れよ?」
「・・・分かってるよ。アイツがゼバルってことも、あいつが俺の事狂ってるみたいに好きだってのも」
「それと素直になれなくて、最終的には過激な手段に出ちまうってことも、だろ?」
「まあな。お前も俺も、あいつの幼馴染みだからさ、分かんないわけでもねーもんだよな」
お互いで唯一知りえる事実。・・・まあ、これで気が楽になった。
「ありがとよ一樹。気が楽になった」
「気にすんなって」
礼を言って教室に戻った。そして・・・
「どこ行ってたのよ敏豪!!探したじゃない!!」
「探したって・・・俺すぐにどっか出てったわけじゃねえぞ」
「もういなかったわよ!!バカ!」
「死にに行ったわけじゃねえんだし・・・そんな心配することでもねーだろ?」
教室入ったら入ったでいきなり音羽が抱きついてきやがった。・・・何故か鳥肌立たない不思議。
「ちょっと牛!!ダーリンに抱きつかないで欲しいのです!!抱きつくのは真の嫁の私の特権なのです!!」
「なによ脳筋!あんたみたいな脳筋は敏豪には似合わないわよ!!」
「むかっ!!お前みたいに無駄にでかい乳は余計にダーリンを怖がらせるだけしかないのです!!」
「ちょ、二人とも!!敏豪君の首に腕決まってるから!顔が青くなってる!!」
「敏豪さーん!!しっかりしてくださーい!!」
・・・この日、三途の川を渡りかけた。ウソとかそういうもんじゃない。マジで渡りかけた。
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あとで気がついた時、俺は保健室にいた。付き添いでいたのはルナ。
「あ、気がつかれました?」
「・・・何があった?」
「姫川さんとリーアフォルテさんが敏豪さんを取り合っちゃって、窒息して気を失ったんです」
「・・・その後どうなった?音羽のやつ暴走しなかったか?」
「・・・その・・・『不妊にしてやろうか!?』とか『お前なんか何も出来ないうちにあの世に送ってやるのです!!』とかケンカ始めちゃって・・・」
・・・案の定、な感じだった。
「それで、桐生君と代永さんが二人を羽交い絞めにして、私が敏豪さんをここまで連れてきたんです」
「・・・そっか、ありがとな、ルナ」
「そ、そんな、お礼を言われることなんて・・・」
顔を真っ赤にして頬を抑えるルナ。・・・畜生、なんか可愛い。
「あ、後、昨日帰ってから恐怖症を治す方法を調べてたんです」
「・・・だからか?目の下にクマあんのって」
「は、はい。昨日寝ちゃうのが遅かったので・・・」
・・・なんかルナには本当に悪い気がしてきた・・・
「それで・・・なんて書いてあったりした?」
「やっぱり、治すには怖いものに接して慣れていくしかないみたいなんです。高い所が苦手ならゆっくり高い所に登っていって少しずつ慣れていく。水が嫌いなら少しずつい水に触れて慣れていく。それしか方法がないんです」
「・・・そっか」
仕方・・・ないよな・・・。恐怖症ってのは大概そんなもんだし。・・・なんで音羽だけ何ともないのかが不思議だけど。
「ま、まあ、エッチなことしてほしいとかそういうことではないので・・・というかリーアフォルテさんみたいなことすると余計悪化するって聞いたので・・・」
「・・・ルナ、黒歴史にしておきたかった事をほじくり出さないでくれ・・・」
「えっ、あっ、ご、ごめんなさい!」
自分の言ったことで俺が嫌な事を思い出しちまったことを謝るルナ。
「と、とにかくです!異性恐怖症を治すには少しずつ異性の事を知っていけばいい、ということになるかもなんです。それか異性と触れあっていくだけ・・・友達としてでもいいんですけど」
「・・・な、なるほど・・・」
「これを言ったの、敏豪さんだけなんです。・・・私だけとは言わないので、皆でゆっくり、治していきませんか?敏豪さんの女の子嫌い」
「・・・そうだな。一応きっかけもあるわけだし、治る可能性はあるわけだからな」
「きっかけ?」
「・・・げ」
このあとルナに『きっかけ』について(音羽の事を伏せて)説明しなければならなかったという余談。
次回から一気に時間飛んで夏休み編に入ります。一回目は
『夏休みの榊家 Part1』です。あ、Part1とありますが、その1その2とかの感じで、連続して、ということはありませんよ?
あと、この夏休み編は新キャラが何名か増えます。・・・ある悪魔なSNSやってたら頭の中でキャラが増える増える。・・・妹キャラが・・・あーあ。
ちょい質問ですが、ヘル(死の世界の女神)とアナト(バアルの妹or嫁)は悪魔として認めてもいいのでしょうかね?