四部
道山の先導で、城の中を歩く俺達。
「もう諦めろ」
げんなりした顔をして俺達の後からついてくる沙之に向けて、俺はそう言う。
「仲間はいつも一緒にいるものだ。たとえ死ぬときであってもな」
「まだ言うか……」
無理に沙之をまきこんでいるだけなのに、道山はいけしゃあしゃあと仲間だのと言い出す。
「私達には沙之さんが必要なの。居てくれるだけでも心強いわ」
「お前もかよ」
笹波もまた、そう言いだす。まあ、俺だって沙之を巻き込もうとしたのには変わりは無い。特に何かを言える筋合いではないのである。
「あんたからは何か無いの?」
沙之は、俺に向けて言い出した。
この状況で何を言い出せというのだろうか……二人に合わせてバカな事を言えというのだろうか? それとも、謝罪の言葉でも言えというのだろうか?
それでも考えた俺は、とりあえず、沙之に向けて言う。
「ついてきてくれてありがとう」
まあ、こんなところだろう。謝罪をする気は無いし、憎まれ口を言える立場でもない。
「そんな……どういたしまして」
なぜか、小さな声で言った沙之。どうしてだろうか? また気まずくなる。
最近の沙之はなぜか、しおらしい。
わかりやすいぐらいにゴテゴテとした彫刻をされており、豪華につくられた扉があった。
この先にこの城の主がいるというのを書いてあるような様子だ。
それを開けると広い部屋に出た。
遠くには、カーテンがある。カーテンの先にはどでかい椅子があるようだ。月の光に照らされてシルエットが映っていた。
「また、私を封印しに来たのかな?」
カーテン越しに見える高い玉座。玉座に隠れてシルエットすら見えない魔王の声である。
男の低い声ではなく、甲高い子供のような女の声であった。
「最近のトレンドなのか? 魔王は実は女だとかいうのは」
「今は女が強い時代なのでね」
俺の憎まれ口をサラリとかわした魔王。力のほうがどうかは知らないが、口の方は達者のようである。
「帰るならばいまのうちだぞ。見逃してやるからシッポを巻くといい、扉は開けたままにしておいてくれ」
「扉は閉まったままだ。穴は開いているけどな」
「なっ……いくら重くて開けられないからって穴まで開けて入ることはないだろう!」
「やっぱ、あの扉お前も開けられなかったのかよ……」
「うるさい! 昔は開けれたんだ! 今は力を失っているが、また力を蓄えれば開けれるように……」
「力を蓄える前の、今がお前を倒すチャンスだって事だな」
「……ふん。私の力がまだ弱いからといって、お前達が私に勝てるというわけではないぞ」
シルエットが動いた。小さな影が動き、こちらに向かってくる。
俺は腰の剣を抜き、カーテンを切り捨てた。カーテンははらりと落ち、魔王の姿が明るみになってくる。
「私の姿を見て恐怖するがいい」
ものすごいドヤ顔をしている魔王であるが、俺達は欠片も恐怖などしていない。
姿は完全に、十歳にも満たないだろうと思われるただの幼い女の子の姿だ。赤いドレスを着ているが、それは背伸びをしているだけにしか見えない。
俺達は、呆然としているのであるが魔王は、『くっくっく……』と笑いながら、いまだにウザいドヤ顔をしている。
俺は、腰の剣を抜いて魔王に切りかかった。
俺の剣は、狙いはまったくブレもせず、見事に魔王の脳天に叩きつけられた。思っていた以上に簡単に事が終わったので、さすがに俺も肩透かしを食らった気分だ。
この魔王……すごく弱い。
一撃で叩きふしたのだが、どうも悪いことをしてしまったような気になってきた。
「岩城君……女の子にそんな事をするなんて……」
笹波が言い出した。
「ちょっと待て……俺が悪者みたいな言い方はやめろ」
笹波だってこの魔王を倒すためにここにやってきたはずだ。それなのに、魔王の味方にでもなったのだろうか?
「あんた……やめてあげなさいよ」
頭をおさえてうずくまっている魔王を見て、沙之まで言い出した。
「俺達は何のためにここに来たのか分かってるか?」
この、魔王を倒すためにやってきたのだ。相手の見た目はともかく、俺のやっている事は何も間違ってはいないはずだ。
だが、道山は言い出す。
「この魔王たんを保護するためだ」
真面目な顔をしながら言う道山。俺はおぞ気に襲われた。
「魔王『たん』って何だよ!」
俺が言うが、道山はそれを無視して魔王のところへ歩いていった。
「さあこんな広い城に一人で暮らしていてもさびしいだけだろう。うちに来るといい」
道山が魔王に向けて言い出した。
「これは誘拐の犯行中?」
俺は、笹波と沙之に向けて聞いたが、二人もこの状況にはついていけないようだ。
『なにすんだ! 離せよ!』
『あったかい布団とご飯を用意するよ。来るんだ』
そう言いあいながらもみ合う魔王と道山。俺は笹波を見た。これを止めるとしたら笹波であろう。魔王というものをどう処理すればいいか分かるのは、道山を除けば笹波一人だ。
「道山君一人でも魔王退治は大丈夫そうですね」
笹波は言う。これが退治になるのだろうか? これはどう見ても……
「どうでもよくなっているだろう! 笹波! 道山を見る目が冷たいんだよ! ゴミを見る目つきなんだよ!」
この事態を放棄している笹波。沙之もそれに合わせて言い出す。
「それでいいなら帰りましょう」
「お前はなんとか言え! これでいいのか!」
これに乗じて、道山がウザいドヤ顔で言い出した。
「この魔王の事は僕に一任してもらおう。責任を持って一人前のレディーに更生をさせるから」
「お前にだけは任せちゃいけないんじゃないか!」
俺は一人で反対するも、全員の多数決で魔王は道山が連れ帰る事が決まり、この件は決着をした。
道山が魔王の手を引いて帰る姿が、街灯に照らされている。
「というか、道山が魔王を誘拐している姿だな」
なんとかして道山の手から離れようしているが、道山の力の方が強く、無理矢理引っ張られているという様子だ。
ここは両方が塀に囲まれた住宅町の生活道路。
笹波と沙之の二人は、揃って何も言わずに、女が汚いものでも見る時の目をしている。
『なんか、この光景怖いな……』
背筋に冷たいものが走る感覚を感じる。
だが、そんなものはどうでもいい。俺はヘルメットをかぶりながら、偉いさんに向けて言う。
「原因は排除されたんだから、もう俺は御役御免だな」
『けがれ』の元凶に一応の対処がされたのだから、もう孤独なヒーローなどを続ける理由はなくなった。
あとは、このスーツを返せば完全に研究所との縁も切れることだろう。
『元凶が消えてもまだ、凶暴化が完全になくなるわけではない。もう少しだけ付き合ってくれ』
偉いさんは言う。まだ後始末が残っているのだ。
『それに、もう君は孤独な戦士ではないぞ。新たな仲間が見つかった』
それなら、そいつに全部仕事をやらせて俺を解放してくれ……そう思ったが、そいつの顔を見てからでもそう言うのは遅くない。
「どんな奴なんだ?」
そいつがもし使い物にならない奴だったら、どうせまたおはちが回ってくるのは俺のところだろう。
ある程度、しっかりした奴であってほしい。
『君のすぐそばにいる。沙之君だ』
「……はあ……?」
俺は沙之の事を見た。笹波とそろって、いまだにあの顔をしながら道山の事を見送っている。
「おい、道山はもう見えなくなっているだろう。いいかげん、それをやめろ」
俺が言うのを聞いて我に返った沙之に偉いさんの言った事が本当であるか聞こうとした。
『沙之君。君にお願いがあるのだが』
俺が言う前に偉いさんがスピーカー越しに言い出した。
『君には岩城君と一緒に戦ってもらいたい』
俺の手元になにか妙な飾りの付いたビンが現れた。明らかに香水のビンといった感じのものだ。
『それで君は天才魔法少女のフラインティになれる』
お年を召された貫禄のある声で、よくも恥ずかしげも無く魔法少女などといえたものである……
それを受け取った差雪は、きりふきを使って自分に香水を振り掛けた。
頭に派手なリボンが巻かれ、首元には花の飾りの付いたチョーカー。そういった感じで、どんどんと全身に戦闘スーツが装着されていった。
変身をしてみると、沙之の姿はドレスのような服装になる。とてもではないが、戦いに向くようには見えない。
「すっごーい。これってプリシュアでしょ?」
女児に大人気の魔法少女物のアニメの名前であるのは自分も知っている。沙之にこれで戦わせるつもりなのだろうか? げんなりした気分の俺は、文句を言いたいながらも口を動かさなかった。
「岩城君の方もパワーアッブしているぞ」
偉いさんが言う。
嫌な予感がする……
「早く! あんたも変身してみなさいよ」
沙之に急かされて俺も変身をしてみる。
いつもの戦闘スーツではないのが感覚で分かる。体全体を覆うスーツの代わりに着心地の悪い、高級感の漂う衣服を纏うことになった。
「タキシードって……素敵」
「ちょっと待てぇぇぇぇぇ!」
昔流行ったアニメだ。ヒロインがピンチの時に、ちょうどよく登場し何食わぬ顔で手助けをする仮面の男そっくりの姿になったのだ。
「こんなカッコで戦えってのか! 剣が! 何でバラ?」
いつもは剣が刺さっている腰元には一輪のバラが刺さっている。こんなもので戦えというのだろうか? 正気の沙汰ではない。
『ただのバラではない。それを高くかかげてみるんだ』
言われたとおりにバラを高くかかげると、それが変形をした。蔓が伸びていき、やがて茨の鞭に形を変えていった。
「違うキャラが混ざってる!」
これは、完全に狂気の沙汰の繰り返しである。、沙之は俺の姿を見てぼうっ……としていた。
「素敵……」
本当に素敵なものに見えるのであれば、沙之の目は完全に腐っている。
『さっそく反応だ。現地に向かってくれ。頼むぞセーラーキュア』
「さりげなく『セーラーキュア』とか言うんじゃない! どこにセーラーの要素があるよ!」
『岩城君のスーツは、変身第二段階になるとセーラー服になるのだ』
「その設定のどこに『キュア』(癒す)の要素があるんだよ! 笹波に見られたらまたゴミを見る目つきで見られるじゃないか! 俺が精神的にボロボロになるだけじゃないか!」
だが、この偉いさんは都合の悪いことになると答えない。それは経験で知っていることだ。
歯軋りをしながら、帰ってこないと分かりつつも返事を待っている俺の手を、沙之の手がつかんだ。
「すぐ近くよ。ぱぱっとやっちゃいましょう!」
俺は、げんなりした気分になりながらも、沙之に連れられて次の戦いの舞台へと向かっていった。




