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二部

 次の日の昼休み、俺は生徒会室に向かった。

 生徒会長である沙之の部屋なんだから、この部屋は俺の部屋も同然。

 勝手な事を考えているのは分かっているが、他に誰かがいるわけでもない。ここで昼寝をしても誰の迷惑にもならないのだ。昨日は骸骨退治の仕事をしてほとんど寝ていない。静かに時間をすごすにはちょうどいい場所である。

 生徒会室のカギは壊れている。それをそのまま、放置しているというのを知っている俺は、生徒会室のドアをあけた。

 そこには二人の人影があった。

「取り込み中だったか?」

 見知った顔であったため、俺は声をかける。

 一人は、長身で引き締まった体をした奴だ。

 鋭い眼鏡をかけている風貌を見るに、隙の無い感じがする。

 そいつは、この生徒会の副会長の道山千晴(みちやま ちはる)である。

「今終わったところだ。気にする事なはい」

 道山が言う。

 もう一人は、身長は道山と比べてやや低いくらいの背の女だ。道山と比べて少し小さいという事は、女にしてはかなりの長身であるという事である。

 頬に手を当てて、おっとりとした調子をとる様は、豊満な体つきの彼女の容姿そのもののような印象を受ける。

 本人自身も、のんびりした奴だ。

 この生徒会の会計の、笹波陽子(ささなみ ようこ)であった。

「岩城君、いけないんだー。また生徒会室で昼寝をしに来たのですか?」

 のんびりした口調だ。しゃべり方としぐさを見るだけでも眠気を誘われてしまう。

 俺は言う。

「ラリホーを唱えながら言われても説得力が無いですよ」

 それを聞いて、きょとんとした笹波は、また眠気を誘う、のんびりした声で言う。

「ラリホーってどういう意味なんですか?」

 そこに道山が言う。

「笹波。お前はもっとハキハキと物をしゃべったほうがいい」

 道山がそう言うと、笹波は子供のように顔をふくらませて答えた。

 それから道山は、笹波の手を引いて、生徒会室から出て行った。

 これで邪魔者はいなくなった。俺はいつも寝ているソファーに寝転んで、眠りについた。


 俺は携帯の時間を確認した。

 アラームが鳴るまであと五分あるのを確認すると、また俺は目を閉じる。

 少しすると、足音が聞こえてくる。目を閉じている俺は誰かをいちいち確認しなかった。

 どうせ、道山か笹波が戻ってきたのだろう。

 その後、俺の額に固いものが叩きつけられる。

「いってぇ……」

 頭を上げると、そこには沙之がいた。

「あんた、また笹波さんに何か言ったんでしょう?」

 どうやら沙之は、本の角で俺の事を殴ったらしい。額を押さえて起き上がる俺に、沙之は続けて言う。

「『ねぇねぇ。雪花さん。今度会ったら岩城君のことをぶっちゃって』なんて言ってたわ」

「すんげえ似てる……」

あのおっとりとした口調を真似た沙之。魂がこもっている演技のようであった。

「あんた、目を離すとすぐこれなんだから……」

 呆れた様子で言ってきた沙之。

「悪かったよ……」

 俺のすぐ隣に立った沙之は、なぜか優しい視線を俺に向けてきた。


 俺は、また夜に呼び出しをされた。

 今は家の前にいる。閑静な住宅街で、月の光も弱く、周りが暗い。

 指示された通り、すぐに変身をして偉いさんの言葉を聴いた。

「また任務を頼んでしまってすまない。今日はウイルスの感染元が見つかったのだ」

 ヘルメットの中に聞こえる偉いさんの声。

 普段は感情の見えない声であるが、今は声の中に喜しそうなものを感じる。

 感染元が見つかったとなれば、それを何とかしてしまえば、俺だってこのふざけた役目を終える事もできるのだ。俺は偉いさんの声を真剣になって聞いた。

「この町の近くにある山の中だ。そこからウイルスが異常発生しているのが分かった。すぐに調査に赴いてくれ」

 視界の端に地図が出される。俺は屋根の上を飛び移りながらその山まで向かっていった。


 周囲は木に囲まれており、山の一部を切り出してスペースを作っただけの傾斜になっている場所である。

 大きな黒鉄で作られた棺のようなものの前で、巫女衣装を着た少女がたたずんでいた。

「困りましたねー。どうしましょうか……」

 彼女はそう言うが、のんびりとした口調であった。別に困っているようにも見えない様子だ。

 その少女。笹波陽子は、鉄でできた黒い棺を見た。黒い棺には、いくつもの札が貼られ、しめ縄が締められ、周りにも結界を張っているのが見て分かる様子で、縄が張られている。

 明らかに何かを封印しているのが分かる見た目である。

「道山君が間に合ってくれればいいですけど……」

 のんびりした様子でそれ見ている笹波は、そこにたたずんでいた。

 周りの木の間から、人影が現れた。笹波はそれを見てのんきな声を出す。

「あら? 知ってるわよ。それはコスプレっていうのですよね」

 その戦闘スーツを着た人影を見て、陽子はのんきなしぐさで言った。


「会うなりいきなりコスプレとか言われたぞ。だからこんな事をやるのは嫌だったんだ」

 ヘルメットの中で、俺はそう愚痴った。偉いさんに、その声は聞こえているはずであるが、俺の愚痴を聞いても偉いさんは何も答えなかった。

「あら? どこかで聞いたことのある気のする声ですね」

 普段トロトロしているくせに、こういう時だけは鋭い……

 この緊急時である、あの棺の事も聞かねばならない。ならば顔見知りであると教える方が都合がいいだろう。俺はヘルメットを外した。

「岩城君……君ってコスプレをする趣味があったんですか?」

「説明をしたら伝わるかな……」

 いつもの様子で言う笹波。難しい事を言ったら理解をできるだろうか? と不安になったが、俺は説明をした。

 人や動物を凶暴化させるウイルスが今この町にはびこっている事。このスーツは、その凶暴化をした奴らと戦うために着ている事。

 今、ウイルスの発生源の調査をしている事。そして、その発生源にやってきたら笹波がいた事。

「まあ……『けがれ』が外に漏れてしまっているのは知っていたけど、そんな事になっているなんて知らなかったです」

「『けがれ』っていうのは何だ?」

「この棺には昔大暴れした『大魔王』が封印されています。『大魔王』はこの封印の中で封印を解こうとしてこの棺の中で暴れている状態です。この封印はすぐにでも破られそうな状態なんです。だから、中に充満している『けがれ』を少しずつ漏らして風船のガス抜きのようにしてパンクをするのを抑えていたのですけど……」

 笹波が言うには、その場しのぎもそろそろ限界らしい。

そして、その『けがれ』には、動物を凶暴化させたり、死体を動かして人を襲わせたりする力が備わっているというのだ。

 偉いさんは、俺にはウイルスだとか言っていたが、ここのところの騒ぎの原因はそれだったのである。

「なるほど。だからいくら調査してもウイルスの素体が発見されなかったのか」

 白々しく偉いさんは言う。偉いさんは俺にウイルスなんて、もっともらしい嘘を教えていた。

「何で、俺には研究所から漏れ出したウイルスなんて事を言った?」

「人にものを説明するのは難しいのだよ。

 謎の動物や人間の凶暴化。原因不明で正体不明。そんな説明をしたら、怖がって任務についてくれないかもしれないじゃないか。

 ある程度、相手の正体が分かっているように説明をした方が安心できるものだろう?」

 まあ、確かに……

 ただでさえ嫌な仕事なのに、敵の事が何も分かっていないなんて言われたら、俺だって不安にもなっただろう。

 納得したくないが、偉いさんの言う事はもっともだ。

 だが、俺はこの事態を完全に受け入れたわけじゃない。笹波に聞いた。

「お前……それって本当なのか? お前の妄想じゃなくてか?」

「あら? あなたこそ、『孤独なヒーロー』なんてやっておいて、私の事をそんな風に言えるんですか?」

 顔をふくらませて言う笹波。確かに自分の状態だって、人に言ったら同じことを言われるだろう。

 大魔王を封印し続けている一族の笹波。夜は孤独はヒーローとして戦う岩城。つまり俺。

 二人は、重大な秘密を共有してしまったのだ。

「あと、道山君がすぐこっちに来ますよ。道山君の作った『魔王を殺せる剣』が届いてくれば、魔王を再封印する事もできると思いますから」

 副会長も何かがあるらしい……

 自分の周りは、自分も含めて正義のヒーロー達であふれているのだ。俺は、世界のとんでもないヒミツに触れてしまった。

 知りたくなかったこんなヒミツ。

 とにかく、今はなにもする事がない。副会長がやってくるまで待つことにしよう。


 副会長は、それから数分とせずにやってきた。

 戦隊物のような戦闘スーツを着ている俺が言える事ではない。すぐ前に巫女衣装を着た笹波もいる。

 だが、どうしても言うのがガマンできなかった。

「なんだその鎧姿は!」

 日本式の鎧を着て現れた副会長の道山は、鬼の面を取り外しながら答える。

「君に言われたくはない」

 もっともである。予想通りの返事が返ってきた。

「そんな事は分かってる。言ってみたかっただけだ」

 その場に座った俺は、笹波と道山のこれからの行動を見守った。

 偉いさんの判断によると、この二人が事を収めてくれるというのならば静観をしていようという事だ。

 俺自身、自分からしゃしゃり出る気もないし、面倒事を代わってやってくれる奴がいるなら、そいつに全てを任せる。俺は、自分で仕事をこなさねば気がすまないような勤勉な人間じゃない。

 道山と笹波は、二人で何やらを話し合って、儀式のようなものを進めるつもりらしい。

「どうすればよかったんだっけ?」

「さぁ~? 適当にやってみましょ」

 などと、不安になるような言葉も聞こえるが、俺は口を出したりなんかしない。

「この剣、どうもしっくり来ないんですよ~。本当に巻物の通りに作ったんですか?」

「半分はカルーアミルクをこぼしてしまって解読不能になっている。分からない部分は自前だ」

 カルーアミルク……今時飲んでる奴なんているのか? というか、それって酒だろ? 学生が飲んでいいもんじゃ……いやいや、それ以前に半分が解読不能ってのは大問題じゃないか?

「もお~。しっかりしてください」

 道山のやる事に、さすがの笹波もあきれているようだ。あの口調のままでもいいから一回道山の奴を叱ってやるといいだろう。

「カルーアミルクは豆乳を使って作るんですよ」

 そこじゃない! 笹波もカルーアミルク飲んでるのか! 

「牛乳か豆乳かよりも、ミントの葉を乗せるかどうかの方が重要だろう」

 道山! おまえカルーアミルクにこだわりを持ってるのか! しかもミントの葉を乗せるとか、乙女っぽいこだわりだな!

「それに笹波こそ、この結界の張り方で大丈夫なのか? 俺が知っているのと少し違うようだが」

 今度は道山の反撃がされた。笹波は、いつものように首をすこし傾けてから答える。

「気付きましたか~。昨日の夜ここで番をしている時、寒かったのでその辺のしめ縄などを焚き火して温まっていたのですよ」

 ちょっとまて……つまりこの結界は部品が足りていないって事か? 今日になって『けがれ』が漏れ出したのはそのせいじゃないのか?

「お前……今になって『けがれ』が漏れ出したのはそれが原因ではないのか?」

 道山は、俺の心の声に答えてくれた……そうだ、笹波をいっぺん叱ってやれ。

「大丈夫ですよ~。私のお父さんも一緒でしたから。『大丈夫』っていってましたし」

 こいつの親……なんかうさんくさい話だな……親がどんな奴か知らないが……こいつみたいに普段からラリホーを唱えているような奴じゃないのか?

「どういう状況だったんだ?」

 道山は俺の心の声に的確に答えてくれる。どういう状況でそう言ったのかは、気になるところだ。

「カルーアミルクをお父さんだけが一人で飲んで温まっていたのですよ。『お父さんだけずるい』って言ったら許してくれたんですよ~」

 カルーアミルクがここで再登場した! 結界を解いたのは、よっぱらいがやった事って事だろう! 全然安心できない答えだ!

「カルーアミルクを飲む奴に悪い奴はいない」

 それが道山の答えだ。なんていうか……お前の答えはそれでいいのか……

「これで解決だ。今すぐに二人で魔王を消滅させよう」

「そうですね~。やっぱり道山君は素敵です」

 今のやりとりで、知らない間に二人は友情を確かめ合ったらしい。

 今から魔王を消滅させるというのなら俺に文句は無い。わけがまったく分からない茶番を見せられてうんざりしていたのだが、万事解決するのなら黙っていよう。

 そう思っていたのだが……ゴウン! というでかい音が聞こえた。

 黒い棺が、中から思いっきり叩かれたようにひしゃげた。鉄がゆがんでコブのような跡が作られる。


 ゴウン! ゴウン!


 それが、一つ、二つと増えていく。

「魔王が……復活します……」

 笹波が言うのが早いか、黒鉄でできた蓋が破られる。鉄の破れるデカイ音が辺りに響く。黒い影が上に向けて飛んでいき、目で追うことすらできない速さで、あっという間に夜空に消えていった。

 俺はそれを呆然として見つめた。俺の姿を見た道山が、申し訳なさそうにして言い出す。

「すまない。全力を尽くしたのだが、魔王の復活を許してしまった」

「どこがだぁ!」

 今のほのぼのシーンのどこが全力だったというのだろうか? 俺はたまらずに大声で叫んだ。


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