観察10:いつも通りに
「ん……朝か」
「起きた?」
「……こころか。おはよう」
目を覚ますと横にはこころの姿があった。一緒に朝を迎えたのは久しぶりかもしれない。
「おはよう俊行。今日はどうするの?」
今日は土曜日。今週は学校もない。完全なフリーだ。
「何も予定はないな」
明日は瑞菜との約束が入ってるが今日は何もない。
「そう。とりあえず起きて着替えましょうか。雪奈もそろそろ来るかもしれないし」
こころが昨日不機嫌だったからそのことで雪奈は早く来るかもしれない。今更だがこころと同衾してるところはあんまり見せたくないしさっさと動き始めるか。
「……で、そろそろ出ていってくれるか? 着替えたい」
「くすくす……今更そんなこと気にするの?」
「…………もういつもどおりか」
「なんのこと?」
「ふぅ……いや、なんでもない」
一つため息をつきオレはそう返す。忘れろと言われたのだから忘れればいい。いや……忘れないといけない。
「まぁいいわ。それじゃ俊行が可哀想だから出ていってあげるわね」
と、バタンと扉を閉めてこころは出ていった。
「可哀想なのはどっちだよ……」
どの口がそう言うんだとオレは思う。こころにも、オレにも。
「お、おはよーございまーす」
私は少し尻込みしながらお兄ちゃんの家に入る。
(うぅ……結局何も思い浮かばなかったなぁ)
お姉ちゃんの不機嫌をどうにか直してもらおうかと考えたけどそもそもの原因が分からなくてどう対処すればいいのか全然分からなかった。
(お姉ちゃんが怒ること自体滅多にないからなぁ)
私やお兄ちゃんを結構な頻度で叱ってくれてる気がするけど、怒ったりすることは本当に数えるくらいしかない。あんなふうに不機嫌を撒き散らすような怒り方は初めてかもしれいないくらいだった。
「んー……料理中かな?」
リビングについたらキッチンの方から話し声が聞こえる。
「って、話し声?」
私は駆け足気味にキッチンに踏み込む。
「あ、俊行塩コショウ取って」
「ほら……うん? 雪奈か。おはよう」
「おはよう雪奈」
そこには仲良さそうに朝ごはんを作ってる二人の姿があった。
「わ、私の悩みは一体……?」
「よく分からんがすぐに朝飯できるから。暇なら食器の準備してくれ」
「えと……うん」
釈然としない部分はあるけどお姉ちゃんがいつも通りになったなら問題はない。私は安堵しながら二人を手伝った。
「それで雪奈。今日は暇か?」
「暇だけどどうかしたの?」
「なんだ、友達と遊びに行く約束とかしてないのか」
「私に友達なんかいないって知ってるくせに……」
中学の時はいたけど進学してからこっち、仲の良い友達はできていない。
「そっか、じゃあ今日はデート行くか」
「……誰が?」
「お前が」
「誰と?」
「オレと」
「どうして?」
「特に理由はない」
「…………えぇ?」
状況を理解した私はかなり情けない声を出した。あまりにも予想外過ぎて。
「わ、私の誕生日はもう終わったんだよ?」
「そうだな」
「じゃあなんで……」
「いや、暇だからさ」
「だったらお姉ちゃんでも誘って……」
「それもそうだな。こころも一緒に行くか?」
「そうね。雪奈に遠慮してたのにご指名入ったなら行くしかないわね」
「余計なこと言っちゃったー!」
そんなこんなで私たちは3人でデートに行くことになった。