観察16:兄と姉
「……なんだ? ここ」
こころに連れられやってきた場所で、オレはつぶやく。
「どこって? どう見ても遊園地じゃない」
こころは何言っての? という感じだ。いや、確かにどこからどう見ても遊園地なんだけどさ。
「なんでここなんだよ?」
「だって、春休みに三人で来たんでしょ? あたしだけ行ってないって不公平じゃない」
「話し合いはどうした」
「まだ日は高いんだから」
そう言って、こころはオレの手をとり歩き始める。
「……まぁ、いいか」
言いたいことはいろいろある。でも、たまにはこころに付き合って遊ぶのもいいかもしれない。
「それじゃ俊行、まずはジェットコースターよ」
「本当に姉妹みたいだよな……」
オレはおかしくなって苦笑した。
「んー……遊んだ遊んだ」
伸びをしながらこころは満足そうにそう言う。
「……本当に姉妹みたいだな」
ジェットコースター何回連続で乗ったか分からない……。
「でも、アタシはお化けとか怖くないわよ?」
というか、こころに怖いものなんてあるのか?
「それより、いい加減満喫しただろ?」
「そうね。じゃ、観覧車にでも乗りましょうか」
「そうだな」
……そこで、本題だ。
「さてと……どこまで話したっけ?」
観覧車の中。こころは入ってすぐに話をきりだす。
「瑞菜の話」
「そうだったわね。瑞菜さんが雪奈に与えた影響。一つは独占欲の刺激。他には……って、とこだったわね」
「ああ。それで、お前が考える他の影響は?」
たぶんだけど、オレとこころが考えてることは同じだ。ただでさえ、オレとこころはどこか似てるし、それが雪奈の事ともなると、ほぼブレはない。
「俊行が瑞奈さんと付き合ったことで、雪奈は感じたはずよ。俊行が自分の目の前からいなくなる可能性を」
オレが瑞菜と付き合ったからといって、雪奈の事をほったらかしにするなんてことはない。それでも、雪奈がそう感じるのは別の話だ。オレは雪奈の告白を断ったのに、瑞菜の想いを受け入れた。分かってはいたが、それは雪奈にとって想像以上にショックだったのだろう。
「まぁ、瑞菜さんが与えた影響はたくさんあるし、言うまでもないことがほとんどだからここまでにして、次はアタシね」
「……こころの与えた影響ね」
それこそ言うまでもないな。
「オレを盲信させなくしたことだろ?」
「そういうこと。改めて冷静に海原俊行という人間を観察した。その上で雪奈はまた俊行を信頼した。これは本当に大きいわね」
「普通、あの状況でオレの事許すとかないと思うんだけどな」
「そうね。普通ならね」
……言う必要もないか。よくも悪くも雪奈は普通からずれている。いや正確には歪んでいると言ったほうがいいか。
「で? 今のオレの行動はどんな意味があるんだ? 雪奈にとって」
「分からなくなったのよ。雪奈が俊行の気持ちを。……感じとれなくなったって言った方がいいかな」
「……やっぱり分かるものなのか?」
「頭では理解できなくても感じるものよ。近くにいれば」
つまりは、オレが雪奈のことを好きと言うことを。
「だから雪奈は瑞菜さんやあたしのことで焦っても心のどこかで安心していた」
「……近くにいればか」
「そういうこと。離れた今、雪奈がどうなるか。少し考えれば分かるでしょ?」
「……はぁ」
「ま、恋愛なんて不確定な要素がたくさんあるしね。雪奈が本当に俊行の事好きになるかは知らないけど」
ただ、とこころは言い、
「少なくとも、あの子が俊行を今までよりも強く求めてるのは確かよ」
「……そうだな」
あの日から、雪奈はずっとオレを家族として求めてきた。それが今、想い人としても求めるかもしれないというだけだ。
「あら? もう下につくみたいね。景色見てないからもう一回乗るわよ?」
「はいはい。付き合いますよ」
オレも、景色を見ながら考えたいからな。
景色はあかね色に染まり、空は夕闇に包まれていくなか、オレは初めて雪奈に会った時の事を思い出していた。






