観察3:恋人ごっこと一人の家
「お兄ちゃん。一緒に帰ろう?」
放課後。オレも雪奈も帰宅部なため基本的に帰るだけだ。帰る家も同じだから、一緒に帰るというのはう論理的展開だ。だが……。
「飽きた」
「………お兄ちゃん? 何が飽きたのかな?」
「お前と一緒に帰るの」
「……………」
「さすがに毎日同じ奴と同じように帰るのは飽きる」
別に雪奈と帰るのがつまらないという事はないが、少しは刺激が欲しい。
「……じゃあさ、今日は恋人ごっこしながら帰ろうよ」
「……………は?」
なにその恥ずかしそうなごっこ遊び。
「お兄ちゃんと私が一緒に帰るのは決定事項なんだから、帰り方を工夫するしかないもん」
決定事項ね……。
「お兄ちゃんが彼氏役で私が彼女役だからね」
「やるとしたらそれしかないと思うが………本当にやるのか?」
「もちろん」
即答だよ。
「まぁ、確かに新鮮ではあるけど……」
いろいろな意味で終わってないか?
「それじゃあ始めるね。……よ〜い始め」
「はぁ………仕方ないか」
別に嫌じゃないし。メンドイけど。
「ところでお兄ちゃん。恋人ごっこって何をするの?」
「オレが知るかよ」
「…………………」
「…………………」
恋人ねぇ………。
「とりあえず手でも繋いで帰るか?」
「そ、そうだね」
オレは雪奈の手を引いて歩きだす。
「ところでお兄ちゃん」
「どうした?」
「電車の中でも手を繋いだまま?」
「オレはどっちでもいいが」
恥ずかしいけど、どうせこいつがやりたいなら断れないだろうし。
「じゃあ…………繋いだままで……」
「はいはい。わかりましたよ彼女さん」
家に帰るまで視線が痛いオレだった……。
「ふぁ~~あ……そろそろ寝るか」
時刻は11時過ぎ。今日は恋人だから断固として泊まると主張する雪奈を適当に返し、今は一人だ。
「しかし恋人ごっこね……明日まで続いてたりしないよな?」
疑念をつぶやきながらも寝巻にきちんと着替える。平日は雪奈が起こしに来るため下着姿のままじゃ眠ることはできない。
「いつからだっけ? 雪奈がオレを起こしにくるようになったのって……」
今の関係が始まって、まだあいつがオレ達のそばにいた頃だから……小学校の高学年くらいか。
「……何してんだろうな、あいつ」
オレと雪奈の家族のような存在。一番つらい時を支えてくれ奴。
「いつかまた会えればいいんだけどな……」
明りを消し布団に入る。
「一人の家は寂しいな……こころ」
かつて一緒にいてくた少女の名前をオレはこぼした。