観察30:瑞菜との関係
「ねぇ、とーくん」
学校の昼休み。昼ごはんをどうするか悩んでいるところに瑞菜がやってきた。
「ん? 瑞菜か。どうしたんだ?」
「今日はお弁当ないの?」
「ああ。なんか知らないけど、昨日から雪奈が来なくてな。オレとこころは朝飯抜きの弁当なしだ」
ちなみにこころは早番と学食に行っている。
「そうなの? おかしいな……確か、昨日は雪奈ちゃん、とーくんの家に行くって言ってたと思うけど……」
「それっていつの話だ?」
「昨日の朝だよ。こころさんにとーくんの話を聞いたあと、一緒に登校してたんだけど、電車に乗る時にやっぱり心配だって言って……」
てことは、丸一日以上雪奈は見られてないのか。
「……まさかな」
一つだけもしかしてという考えが浮かぶ。同じようなことが少し前にもあった。
「とーくん? どうしたの?」
「……いや、何でもない」
どちらにせよ、今雪奈はいない。確認することも出来ないんだから考えても仕方ない。
「そう? ならいいけど」
瑞菜に心配かける必要もないからな。
「それで? 何の用なんだよ?」
「うん。一緒にご飯食べようと思って」
「ああ。別にいいけど。じゃあ購買でパンでも買ってくるから、何処で食べる? そこに集合な」
「うーん……じゃあ屋上がいい」
「分かった。じゃあ、そこで待っててくれ」
「おーけーだよ」
オレは購買へと向かった。
「ごちそうさま」
「あはは……お粗末様でした」
パンと一緒に適当に瑞菜の弁当もつまませてもらったが普通に美味しかった。基本的にオレの周りは料理が出来る奴が多いみたいだ。
「どうする? この後は。まだ時間はあるぜ?」
昼休みは短いようで長い。逆に長いと思ってたら短いが。
「うーん……ここでお喋りしようよ」
「まぁ、それが妥当だな」
恋人なんだし。
「で? どんなこと話す?」
変な質問だが、こんな感じで始まるのもけっこう盛り上がる。……仲のいい関係ならば。
「そうだねぇ……」
そしてオレと瑞菜の間だったら普通に盛り上がる。
それくらいには互いの事を理解しあっている――
「別れ話でもしよっか」
それは笑顔で告げられて……。
「………は?」
オレは戸惑うことしか出来なくて……。
――そう思っていた。
「………は?」
オレは瑞菜の言葉に戸惑い、聞き返す。
「別れようって……そう言ったんだよ」
それが意味する事はきっと一つしかなくて……。
「恋人じゃなくなりたいってこと……だよな?」
「うん」
瑞菜はずっと笑顔だ。だから瑞菜が何を考えているのか……それが分からない。
「……オレの事が嫌いになったのか?」
「あはは……違うよ。というよりも、どうして私がこういう事言うのか、とーくんが一番分かってるよね?」
「……雪奈のことか?」
「うん。それも理由の一つかな」
理由の一つ……という事は他にも理由があるという事だ。
「とーくんさ………最近、こころさんと何をしてる?」
「っ…………!?」
それはつまり………。
「気づいて……たのか?」
「なんとなくね。今の反応で確信したけど」
「なんとなくって………?」
「あはは……最近とーくんが妙に疲れぎみなとことか、たまにこころさんの歩き方がおかしいとかかな」
「本当にそれだけで怪しいと思ったのか?」
「ううん。一番の理由はこころさんのとーくんへの態度が自然になったからかな。だから何かあったってのはすぐに気づいて、注意深くとーくん達の事を見るようになったから」
「……やっぱり瑞菜は瑞菜だよな」
隠し事なんて出来ない。
「別れる原因はオレの浮気か……仕方ないな」
1ヶ月で別れて、その理由がオレの浮気だってんだから情けない。
「別に浮気が原因じゃないよ?」
「じゃあ、どうして?」
浮気が原因じゃないならどうして別れる必要があるんだろう?
「あはは……とーくんが好きだから」
「……は?」
それは笑顔で言われて……やっと瑞菜の気持ちが見えた気がした。
「とーくんが好きだから……だから、とーくんに苦しんで欲しくないから」
「……苦しいのは瑞菜だろ?」
「あはは……確かに嫌だけど、こころさんとそういう関係があるのって……」
いつもの瑞菜の苦笑。それが何よりも優しく見えた。
「でも、とーくんもつらいよね。私と付き合ってたら」
……それは罪悪感の事を言っているんだろうか。
「だからだよ」
「そう……か」
オレはそれだけ答えて何も言えなくなった。瑞菜も何も言おうとしない。ただオレを優しく見つめている。
「そろそろ……帰るか」
オレの恋人だった人にオレはそう言う。
「そうだね」
そう言う瑞菜の笑顔は本当に優しくて、オレは目頭が熱くなった。
大切な幼なじみ。それが瑞菜との関係だ。