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妹?観察記録  作者: 河上 誤停
リア充?編
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観察29:こころとの関係

「38度5分……思いっきり風邪ね」

体温計を見たこころがそう言う。

「……不覚だ」

朝起きたら体が異様にだるかった。起こしに来た雪奈が異常に気づき、こころを呼んできて今に至る。

「まぁゆっくり休みなさい」

「でも学校が……」

「許すわけないでしょ。しっかり治しなさい」

「仕方ないか……」

「雪奈と瑞菜さんには私から伝えとくからとりあえず寝ときなさい」

「でもまだ朝ごはん食べてない……」

ご飯食べなきゃ薬も飲めない。

「後で持って来てあげるから」

「そっか……悪いな」

オレはゆっくりと目を閉じた。



「ん………こころ?」

目を開けて最初に目に入ったのはこころだった。

「起きた? お粥だけど食べられる?」

「大丈夫だけど……オレどれくらい寝てたんだ?」

「1時間くらいかな。ぐっすり寝てたわね」

「1時間って……お前学校は?」

「休んだ」

「休んだって……お前そういうの嫌いだろ」

ずる休みとかそういった事が嫌いな奴だった。

「アンタを一人にするわけにもいかないでしょ」

「気にする必要ないのに……」

ガキじゃないんだからゆっくり休めば風邪なんてどうにでもなる。

「……とにかく食べなさい」

そう言ってこころはお盆からお粥のお椀とスプーンをとる。

「分かったよ」

オレは受け取ろうと手を伸ばす。

「………ん? こころ?」

だがこころはオレに渡そうとせず、お椀とスプーンを持ったままだ。

「……あーん」

「……………何してんの? こころ」

よく分からないがお粥をすくってオレの口に近づけている。

「……口開けなさいよ」

「はぁ……」

オレは言われるがままに口を開ける。

「……んぐっ」

そして口にお粥が突っ込まれる。

「何すんだよ!?」

「食べさせてあげてんのよ」

「は?……ってもしかして『あーん』ってあれだったのか!?」

あまりにもこころのイメージと違って気づかなかった。

「何よ……人が恥ずかしい思いをしてまでやってあげてるのに」

「恥ずかしいんだったらやるなよ……」

「……あーん」

「……何なんだよ」

オレは訳も分からないまま食べさせられるのだった。



「ごちそうさま。おいしかったよ。ありがとうな」

一通り食べ終えたオレはこころにお礼を言う。

「……お礼なんて言わないでよ」

「?……こころ?」

「アンタが風邪ひいたのってアタシのせいじゃない」

「は?……もしかしてお前昨日の事を……」

「だって、昨日濡れたままで正座させてたから……」

確かにオレが風邪をひいたのはそれが原因かもしれないけど……。

「あれはどう考えてもオレが悪いだろ」

「それでも……正座させるのはお風呂に入らせてからでもよかったし……」

あくまでも自分が悪いと言うこころ。その様子にオレは既視感を覚える。

(……あの時と一緒じゃねぇか)

こころは何も悪くないのに。それなのに自分を責め、オレに罪悪感を覚える。

「こころ。少し近づけ」

オレはそんなこころが見たくなかった。

「何よ?……っ!?」

だからオレはこころにキスをする。自分から。ただ乱暴に。

「と、俊行……きゃっ!」

そしてオレは抱き締める。あの時と同じように。ただ強く。


「と……き……とし…き」

身体を揺さぶるのと一緒にこころの声が聞こえる。どうやらオレを起こそうとしているらしい。

「そろそろ起きないと……雪奈達が帰ってくるわよ」

「ん……もうそんな時間か?」

オレは身体を起こし部屋にある時計を確認する。3時。2、3時間もすれば帰ってくるだろう。

「とりあえずお粥。お昼食べてないでしょ?」

「そっか……あの後疲れてそのまま寝たのか」

思いっきり汗をかいて寝たからか、想像以上に体調がいい。風邪はもう大丈夫そうだ。

「……後始末大変だったからね」

「あはは……悪いな」

いつもは二人でするからな。シーツ替えたりフ○ブリーズしたり。

「……あの時以来だよね?」

「何がだよ?」

「アンタから迫ってきたの」

「……そうだな」

「……そういう事なの?」

「何がだよ?」

「あの時……今日。アンタはもしかして……」

「それ以上は言うな。どちらにしてもオレが最低なやつなのは変わらない」

だいたい矛盾しているんだ。こころの為にこころを傷つけるなんてのは。

「でも……」

「それに……どっちにせよ、お前は納得しないだろ? 納得するんだったら、あの時の一回で終わってたはずだ」

「……そうね」

「だからオレの考えなんて意味ないんだよ」

結局はこころが納得するかどうかなんだから。

「でも……アタシは俊行がアタシの事恨んでるからあんなことしたんだと思ってた。俊行はアタシのことが好きかもしれない。でもそれ以上にアタシのこと許せないんだって」

「アホな事を言うな。言っただろ? オレはお前の事が大切だって」

「バカ……」

「誉め言葉として受け取っておく」

「でも……」

「……やっぱりまだ夜の会瀬は続けるのか?」

「何よ会瀬って………でもそうね。たぶんやめられないかな」

それは裏切り続けるという宣言。

「アタシはアタシに罰を与えないとアタシはアンタと対等でいられないから」

「……お前こそバカだよな」

「うるさいわよ」

こうして軽口をたたきあう仲。それがオレとこころの関係だ。そのために必要なんだとこころは思ってる。

「けど微妙にショックだよな……オレと一緒に寝るのは罰ゲームですか?」

「……寝るだけじゃないでしょうが」

「でも、やっぱり嫌なんだろ?」

「ん……そうね。こんな形でしか繋がれないのは嫌」

「こころ? それはどういう――」

「別にどういう意味でもいいでしょ? アンタとアタシの関係にはなにも関係ないんだから」

どこか苦笑しているようにも見えるこころの顔は何かを諦めているかのように見える。

「まぁ、俊行に本当に恨まれてないって分かっただけでも少しは楽になったかな」

「それは……よかったな」

こころの言っている事。なんとなく分かるような気がする。そしてそれはきっとオレは分かってはいけないことだ。

「まぁ、なんて言うかアレだ………お粥食べさせてくれ」

だからオレは話を終わらせる。

「はいはい。子どもみたいなんだから……」


軽口をたたきあう仲。それがオレとこころの関係だ。

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