観察28:女心と通り雨
「だりぃ……びしょ濡れじゃねぇか」
学校からの帰り。家に帰りついたオレはいきなりの夕立に降られ、濡れ男とかしていた。
「ただいまー。 こころ居るか? バスタオル持って来てほしいんだけどー」
少し大きめの声でオレは呼びかけるが、返事はない。
「おかしいな……誰もいないのか?」
雪奈は用事があるから今日は遅くなるって言ってたから分かるが、こころがいないのはおかしい。オレより先の電車で帰ったはずなんだが……。
「仕方ない……後で拭くか」
オレは床が濡れることに目をつぶり玄関を上がる。
とりあえず風呂だな。オレはぴちゃぴちゃと音をたてながら脱衣場へと向かって行く。
ここでオレは大きな失態を犯した。気づかないといけない事に気づく事が出来なかった。
1:オレが上がる以前に既に床が濡れていた事。
2:誰もいないはずの家には電気が普通についていた事。
3:何より脱衣場・風呂場の電気がついていた事。
これらの事にオレは気づく事が出来なかった。そしてそんなオレに待ち受ける運命は決まっている。
「…………俊行?」
脱衣場の扉を開けたオレを待っていたのはこころだった。しかもオプションつきの。
1:いきなりの事に呆然としている事。
2:風呂上がりらしく身体が淡くピンクに染まっていること。
3:服を全く着けていない事。
「……えーと……」
ちなみにオレもいきなりの事に固まってしまっている。
「「………………………」」
1秒経過。変化なし。
「「……………………っ」」
2秒経過。状況が少し分かってくる。
「「………………………っっ!」」
3秒経過。完全に状況を把握。
「きゃあああっ!」
「ご、ごめんっ!」
4秒経過。こころはらしくない叫びを上げて身体を隠し、オレは俊敏な動きで謝りつつ扉を閉める。
オレは心臓を死ぬほどばくばくさせながらその場から急いで離れた。
以上、今日の出来事でした。
なんてそれだけで終わるわけもなく………。
「ねぇ……俊行」
「はい……何でしょうかこころさん」
オレは風呂に入ることもできず、びしょ濡れのままこころに正座を強要されていた。
「アタシは今怒っています」
「はい。よく分かってます」
なぜか二人とも丁寧語。片方は恥じらいと怒りから。もう片方は気まずさと恐怖から。どちらがどちらとは言うまでもない。
「と言う訳で正座30分ね」
30分か……地味につらいな。まぁ………いいもの見た対価と思えば安いものだ。
(……きれいだったよなぁ)
白い肌が湯上りで色づいている様子は何とも言えないものがあると思った。
「……顔がいやらしいわよ?」
「はい……すみません」
というか何故気づく? そんなに顔に出てるとは思えないんだけど……。
「でもさ……そんなに恥ずかしいものか? 今更な気がするんだけど……」
こころの裸なんてほとんど毎日のように見てるんだけど……。
「1時間正座ね」
「なんで!?」
いきなり横暴じゃね?
「……少しは女心をさっしなさい」
「はぁ……」
気持はわからなくもないけど、やっぱり今更な気がする。ここら辺が男と女の違いなんだろうか?
「でも何で風呂に? いつもならまだ後に入るだろ?」
今はまだ6時過ぎだ。いつもなら8時くらいに入っている。
「買いもの行ってた帰りに夕立に降られたからよ」
「なんだよ。オレと一緒か」
まぁ夏でもないし、夕立に気をつけろってのが無理あるしな。ただの通り雨だったんだろうけど、いい迷惑だ。………いや、ある意味はいい仕事をしてくれた。
「……俊行?」
「はい……すみません」
きっちり1時間正座させられたオレだった……。