観察26:裏切り
「ふぅ……やっとテストも終わったな」
5月の下旬。3日に渡る中間テストという名の苦行を終えたオレは、なんとも言えない達成感とともに放課後を迎えた。
「あはは……確かに疲れたね」
「まったくだ」
帰る準備を手早く済ませた瑞菜にオレはそう返す。
「それじゃあさ、テストが終わったお祝いを兼ねてデートに行こうよ」
「うーん……そうだな。でも瑞菜、お前どっか行きたい所あるか?」
「遊園地!」
「却下」
半日で(以下略)。
「じゃあ海に行きたい」
「海ねぇ……家から徒歩五分だぞ? いいのか?」
オレの家と瑞菜の家は海にかなり近い。あらたまって行くような場所じゃないんだが……。
「とーくんと一緒に海が見たいんだよ」
「そっか……じゃあ行ってみるか」
オレと瑞菜はとりあえず家に向かった。
「さすがに泳ぐのは無理かな」
「そりゃまだ梅雨にも入ってないからな」
海。まだこの季節は泳ぐには寒い。
「私の水着でとーくんが悩殺されるのが待ち遠しいよ」
「あはは……」
それはないな。
「夏までにこころさんと同じくらい大きくなれば可能だよね」
「あはは……」
それが何よりもない。
「そう言えばさ、最近とーくんも『あはは』って笑うようになったよね?」
「そう言えばそうだな」
「もしかしてとーくん……私の真似をしてからかってるの?」
「なわけないだろ。言われて初めて気がついたんだから」
「そうなの?……じゃあ何で?」
そんなのは決まってる。
「瑞菜が好きだから」
「ぁ…………………」
「よく言うだろ? 夫婦はよく似るって」
「あはは……とーくんてば……」
「だからさ……信じてくれよ。瑞菜に辛い想いをさせてるけど、それでもオレは瑞菜が好きだって」
「うん。私はいつでもとーくんのこと信じてるから」
そう言って笑う瑞菜にオレはこころの中で謝った。
「俊行? 入るよ?」
夜遅く。雪奈も帰ったころ。今日もこころはやってきた。
「ああ。さっさと入れ」
毎夜のようにこころは来た。
「じゃあ失礼して……」
こころは罪を償うつもりで。
「いらっしゃ……って何て格好してんだよ?」
オレは罪を償わせるという詭弁を持って。
「なにって……チャイナ服」
互いの罪を舐め合うように。
「店の制服じゃねぇか……」
罪を重ね続ける。
「でもこういうのって燃えるでしょ?」
上辺だけは明るく。
「ノーコメントな」
オレ達は裏切り続ける。
「クスクス……それじゃ始めましょうか」
艶やかに笑うこころはどこか悲しそうで……。
「ああ」
オレ達は似ている――
「……ごめんね」
そう言ってこころがキスをしてくる。
「……心配するな。大丈夫だから」
そう言ってオレはこころを抱きしめる。
――ただ、そう思った。