観察25:贖罪という名のアヤマチ
「ん……やっと起きたわね」
朝。起きてすぐ。こころの声が耳に入る。
「こころ……か? 何でお前がオレのベッドに……」
「女の子にそんなこと言わせたいの? 俊行の変態」
そこでオレはこころ、それと自分の格好に気づく。
「……あー……とりあえずあれだな。服着るか」
「ん。そうしましょ」
オレ達は身だしなみを整えた。
「なぁ、こころ」
「ん? なによ?」
身支度を整え朝食を作ってる最中、オレは昨日のことを考えながら話しかける。
「一応、どういうつもりか聞いていいか?」
「そんなこと言わなくても分かってるでしょ?」
「それでも……な。」
こころは言った。あの時のようにと。それはつまり、あの頃からまだ引きずってるいるということで……。
「贖罪よ。俊行と――」
贖罪……そう贖罪だ。あれはこころにとってもオレにとっても。
「少し強引な手段だけどね。それでも償える方法教えてくれたのには感謝してるのよ?」
「それは……」
こころは何も悪くないのに……それなのに自分が悪いと責め続けたから。自分で自分を傷つけるこころが見ていられなくて……。
(……そして取り返しの付かないアヤマチを犯した)
だから、こころは求めることを贖罪とし、オレはそれから逃げないことを贖罪にした。
「……まぁいい。とりあえず飯食うぞ」
できた朝食を器に移しながらオレはそう言った。この問題はそう簡単に解決することでもないのだから。
「そろそろ雪奈が来る頃ね」
「そうだな」
平日はオレ達を起こすくらいに早く来る雪奈だが、休日は朝食の時間くらいに来る。だから休日に関しては朝食をオレとこころで作っていた。
「……分かってるとは思うけど」
「大丈夫よ。瑞菜さんにも雪奈にも言わないわよ。あくまでもアタシと俊行のことなんだから」
「ならいいけど」
いずれ言わなければいけない日が来るだろう。でもそれはオレとこころの間で結論を出してからだ。
(流石に言えないよなぁ……浮気し続けますなんて)
素直に言って認められるとしてもいろいろ問題がある。
(……というか、オレ男としてダメすぎるだろ……)
別に自分がいい男だと思ったことはないが、ここまでくるとクズと罵られても仕方がない。むしろ自分で自分を罵ってやりたいくらいだ。
「お兄ちゃん! 来たよー」
そんなオレの心境とは裏腹に無駄に元気な声と一緒に雪奈がやってくる。
「……朝からハイテンションだな」
「まったくね」
オレとこころはいつも通りな雪奈に少し安心しながら声をかけた。
「むぅ……そういう二人は相変わらず朝は弱そうだね」
「相変わらずというか、昨日はテスト勉強してたのよ」
「ふーん……お兄ちゃんも?」
「ああ」
「珍しいね。お兄ちゃんが自主的に勉強するなんて。いつもは私がしようって言うまでしないのに」
「あー……昨日はこころが一緒にしようって来たんだよ」
「へぇ……私が帰った後に勉強会してたんだ。もしかして昔の人も一緒に?」
「いや……昨日はこころとだけだな」
「二人っきりで夜遅くに……」
あれ? 雪奈ってば怪しんでないか?
「二人とも不潔だね」
「「っ…………!?」」
「きっと二人は保健体育を実技で勉強したんだよ」
よく見ると雪奈の顔には、からかうような色が浮かんでいる。
「「あは……あはは………」」
それでもオレ達は瑞菜のように苦笑いするしかなかった。