妹？観察記録

リア充？編

観察1：バレンタインとチョコ

「お兄ちゃんお兄ちゃん。今日が何の日か覚えてる？」

休日の昼下り。オレこと海原俊行(うなばらとしゆき）は部屋で読者をしていた。

「……ノックもせずにいきなり何の用だよ？ 雪奈」

そこへ近所に住んでる女の子、白沢雪奈（しらさわせつな）が遠慮もせずに入ってきた。

「そんな細かい事は気にしないで、今日が何の日か覚えてる？」

「今日？ 確か今日は2月14だったな……」

何かあったっけ？　そう言われてみると何かあったような気が……。

「……ああ、今日は永野の誕生日だ」

「……お兄ちゃん。それ本気で言ってる？」

「本気というか本当だったはずだ」

「永野さんの誕生日なのは後でお祝いのメールでもするからいいから」

「お前、永野のメアド知らないだろ」

「……とにかく、他にもあるでしょ？」

2月14日……あぁ。

「そうか、そう言えばバレンタインだったな」

すっかり忘れてた。

「おもいっきり忘れてたんだね……」

「だってオレがもらうことなんてないし。今年は休日だから学校で誰かが貰ってる様子を見ることもないし」

「毎年あげてる私の立場はなんなのかなぁ……」

「家族からのはカウントしない。これは基本だろ」

「一応言っておくけどお兄ちゃん。私は近所に住んでるだけだからね？ お兄ちゃんの実妹じゃなければ義妹でもないんだからね？」

「それでもオレにとってはお前は妹みたいなものだし」

「貰っても感動はない？」

「嬉しいけど感動はないな。だいたい義理チョコなんだろ？ 家族からの義理チョコを喜んでたらけっこう痛いって」

別にオレはシスコンじゃないし。

「だからねお兄ちゃん。私は近所に住んでるだけだからね？」

「でもお前さ、朝食と夕食どこで食べてる？」

「……お兄ちゃん家」

「風呂はどこで入ってる？」

「……お兄ちゃん家」

「オレん家の飯作ってんのは誰だ？」

「……私」

「そういうことだ」

「そういうことだったんだ……」

雪奈は寝るとき以外、自分の家に帰ることはない。生活のほとんどをオレん家で過ごしている。それは雪奈とオレが小学生のころからの事で、二人とも大きくなった今も続いている。

「ていうか、結局お前は何しに来たんだ？」

落ち込んでる雪奈の様子は無視し、オレは話を進める。

「うん……チョコをプレゼントしに来たんだよ」

「そっか。ありがとう」

「……それだけ？」

「他に何があるんだ？」

「こんな可愛い子からのチョコなんだよ？」

確かに雪奈は可愛いとは思う。オレになついているのが不思議なくらいには。今はまだ可愛らしいと言った方が自然だが、あと二、三年たてばとんでもない美人になるだろう。今だってショートカットの髪型が愛らしい容姿を引き立ててる。贔屓目なしにオレが通ってる学校の中じゃ、雪奈と同い年で雪奈以上に可愛い奴はいない。まぁ、それでも……。

「妹みたいな奴から貰ってもな」

「クラスの男子だったら絶対喜ぶのに……」

「ん？……そう言えばオレの他には誰にあげるんだ？」

「あげないよ。誰にも。私、友達いないもん」

容姿が容姿なだけあって雪奈はクラスで浮いている。……他にもいろいろあるけど。

「誰か好きな奴とかいないのか？」

「好きな人にはちゃんと渡したよ」

「へぇ……なんだよ、ちゃんと恋愛してるじゃないか」

オレ以外には渡さない。好きな人には渡した。これが示す意味に気付かないふりをする。

「……ホワイトデー楽しみにしてるから」

「分かった分かった」

「ん……何？ お兄ちゃん。いきなり頭なんてなでて」

小さい頃、こいつを褒める時によくした。くしゃくしゃにならないように髪を鋤くようになでる。

「ん……くすぐったいよぉ」

オレは何も言わずに撫で続けた。

何もかもを誤魔化してしまうように。

「……永野にメールしとくか」

件名はいれずに本文に誕生日おめでとうとだけうって送信する。

「……返信早いな」

1分もたたずに返信が来た。

『チョコ欲しい』

「……オレって恵まれてるのかな」

とりあえずそう思った。

休み明け

「おはよ。永野」

教室に入り、自分の席の隣にいる悪友に挨拶する。

「おはよう。海原」

「？……微妙に機嫌がいいみたいだな」

いつもより3割増しで顔がにやけてる。

「分かるか？」

「なにかあったのか？」

「妹からチョコもらったんだ」

チョコ欲しいと言いながら、あの後もらったのか。……ていうか。

「……お前に妹がいるなんて初耳なんだが」

永野信二（ながのしんじ）。オレの悪友。こいつとはここに入学してからの付き合いだが妹がいるなんて初めて聞いた。

「あれ？　そうだったか？」

「……ま、なんでもいいか。とりあえず永野がシスコンなのがよく分かった」

「近所の子にお兄ちゃんと呼ばせてる海原に言われたくない」

「………珍しく正論だな」

言い返せないじゃないか。

「とにかく、俺は妹からチョコが貰えて有頂天なんだ」

「あとは落下するだけか。ていうか、妹からなんて毎年貰えるだろうに。そんなに嬉しいのか？」

「……去年は貰えなかったからな」

少しだけトーンを落として永野がそう言った。

「ん～……よく分からないが頑張れよ」

本当によく分からないまま、オレは永野を励ました。