観察17:時間と悩み
「何かさぁ……最近、お兄ちゃんと昔の人って仲いいよね?」
休日の午後。借りてきた映画が見終わり、暇を持て余していたところで雪菜がそんなことを言ってきた。ちなみにこころはバイトの面接に行っていていない。
「何だよ?いきなり」
「だって最近、昔の人がお兄ちゃんにベタベタしてるし、お兄ちゃん嫌そうじゃないし……」
「そりゃ幼なじみだからな」
「でももう高校生だよ?それなのにベタベタし過ぎだと思うな」
「そのセリフはお前にそのまま返す」
「ぅぐ……で、でも最初会った時よりも仲良さそうだし……もしかしてお兄ちゃん達……」
付き合ってるの? そう雪菜は目で聞いてくる。
「もしかして何だよ?」
だがオレは気づかない振りをする。
「ぅぅん……何でもない」
そうすれば雪菜が怖がって引くことが分かっていたから。
「ふーん……おかしなやつ」
誰だって傷つきたいわけじゃない。認めたくない事実というのもある。
「むぅ……お兄ちゃんてば鈍い」
今はまだ、雪奈に伝える時期じゃない。雪奈もオレも認める覚悟なんてできていないから。オレが雪菜を選ばなかったということを。雪奈がオレに選ばれなかったということを。
「そう言えば、お前らは今度のレクリエーションどこに行くんだ?」
「レクリエーション? 市の体育館に行って、そこでドッチボールだって」
「ふーん……楽しそうだな」
「うん。お兄ちゃん達は?」
「学校の校庭で缶けり」
「……小学生?」
「高3だ」
ほんの少しでいい。時間をください。オレたちが互いに諦めることができるように。そうだれにでもなく祈る。
「でもいいよね。お兄ちゃんてば。こころお姉ちゃんと一緒に遊べるんだもん」
「そうか?あいつと一緒に遊んでも疲れるだけだぞ?」
「ん?何で?」
「あいつは自分の道を行く人間だからな。つきあってたら、たまに大変な目にあう」
「そうかな?ちゃんと私達のこと見ていてくれると思うけど……」
「それとこれとは別の話だ」
時間が解決する――オレはそう信じていた。
「リア充氏ね♪」
「……何を気持ち悪い声出してんだよ? 永野」
瑞菜と付き合い出してから一週間たった昼休み。オレは永野に瑞菜と付き合い始めた事を伝えた。ちなみに瑞菜はというと、こころと屋上で昼食をとってるらしい。最近はあの二人も仲がいいみたいだ。
「彼女がいるやつなんて氏ねばいい♪」
「別にいいけど、お前に彼女ができても同じ事言うのか?」
「なわけあるか。盛大に祝えと言う」
「……だったらオレのことも祝えよ」
「リア充を祝う心なんて俺は持ってない」
……こいつに彼女が出来ても祝う必要ないな。
「でも海原。雪菜ちゃんのことはどうするんだ?」
「どうするって……何がだよ?」
「付き合ってたんじゃないのか?」
「なわけあるか。アイツはあくまで妹みたいなものだっての」
「本当かよ? どう見ても雪菜ちゃんのお前に対する感情は明らかだったろ」
「だからそれは家族に対してのそれだろ」
そう誤魔化す。雪奈の想い。分かってはいてもそれを今認めるのはオレ自身辛い。
「……海原は大馬鹿野郎だな。難しいこと考えず雪奈ちゃんしかいなかった時に選んどけばそこまで悩むことなかっただろうに」
「うるさいよ」
そんなことこころにさんざん言われてるっての。
「後、お前の友人としてこれだけは忠告しておく」
「お前がオレの友人のつもりだったのは驚くしかないが……何だよ?」
「同時攻略だけはやめとけ」
「……………………」
「リア充と言っても素人には難しいぞ」
「……オレはお前の事を一生理解できないと思う」
というか理解したくないオレだった。