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妹?観察記録  作者: 河上 誤停
ラストエピソード
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終りと始まりと

白沢雪奈は信じていた。

春日瑞菜は願っていた。

永野加奈は憧れていた。

山野こころは諦めていた。


その先に続く言葉は全て同じだ。結果として


白沢雪奈は結ばれた。

春日瑞菜は一緒にいれた。

永野加奈は出会えた。

山野こころはそばにいれなくなった。


では、海原俊行は何を思い、何を手に入れたのか。


海原俊行は信じられなかった。けれど結ばれた。

海原俊行は願いたかった。それだけで一緒にいれた。

海原俊行は憧れなかった。しかし出会えた。

海原俊行は諦めていた。だからそばにいれなくなった。


結局……白沢雪奈と一緒になる海原俊行は何も選択などしていない。


だから……



「こころを迎えにいくぞ」


海原俊行は選択する。信じながら、願って、憧れているのに、諦めていた少女を救う為に。


自分と同じなのに救われなかった少女を。自分たちを支えてくれた少女を。





「迎えにいくって……お姉ちゃんがどこにいるか知ってるの?」

「ああ、あいつは今お前らの実の父親と一緒にいる」

雪奈の質問に俺はそう答える。

「お前らって……お兄ちゃん、私とお姉ちゃんの関係知ってたの?」

「そんなことはどうでもいいだろ。とにかくどこにいるかは分かってるんだ。迎えにいくぞ」

 実際、そんなことはどうでもよかった。怪しいと思っていたのは最初からだったし、それを確信したのはこころの居場所を知ったときに、紘輔さんに一緒に教えられただけだ。……つまりこころの居場所自体を調べたのも紘輔さんだ。

(われながら他力本願で情けないけどな)

そういうのはできる奴がやればいいと思う。力のある大人や、あるいは物語の主人公みたいな奴が。そのどちらでもない俺は力のある大人である紘輔さんに頼んだ。

「でも、お姉ちゃんはどうしてお父さんのところに戻ったの?」

「お前と俺が婚約したから。……ま、詳しいことは帰ってきたこころに聞け」

別に今俺の口から説明することは可能だろう。


例えば、雪奈とこころの実父が出所したのがちょうど一年前で、それからこころは実父と一緒に暮らしていたこと。

例えば、今年になっていきなりこころが俺たちの前に現れたのが実父の命令だったこと。

その実父の目的が紘輔さんと唯一血のつながりのある俺とこころを結ばせることにあったこと。……白畑という大グループの中でも重要な位置を占める白沢の会社に影響力を持つことを狙っていたこと。

それが俺と雪奈の婚約で計画を変更しなければならなくなりいったん呼び戻したこと。


本当に説明するのは簡単だ。実の父親がそんな小さな男であるという雪奈の悲しみを無視するのならば。


「うん。……それで、迎えにいくって誰と? 瑞菜さんも一緒?」

「俺とお前の二人」

「うわ……ここにきて仲間はずれはかわいそう」

「仕方ないだろ。あいつは大切な幼馴染だけど……家族じゃないからな」

 きっとあいつなら笑って見送ってくれるはずだ。誰よりも俺のことを理解してくれる相手だから。俺たちの中で一番大人な人だから。

「ま、本当に迎えにいくだけだ。ドンパチもなければ頭脳戦もない。……あいつがどっちを選ぶかそれだけだ」

 実の父親か実の母親か。血のつながった父親か俺たちか。そうできるように準備はもう終わっているから。

「そっか。なら行くだけだね」

 詳しいことは何も聞いていないのに雪奈は納得した様子でそう言う。それだけ俺のことを信頼しているのか。きっとそれだけじゃないだろう。この春……瑞菜が帰ってきたころから今日まで、雪奈は確かに成長してきた。

「あのな、雪奈。正直な話俺はお前を選んだ訳じゃない。……お前に選ばれたんだ」

だから俺も伝える。偽りのない自分の気持ちを。

「俺が一番恋した相手は瑞菜だと思う」

小さいころの幼き恋から再開した後付き合ったこと。今でもその気持ちは俺の中に残っている。

「実は一番好きなタイプなのは加奈ちゃんだったりする」

 病弱っこで奥ゆかしくて……馬鹿な悪友の妹。きっとオレ自身が一番幸せになれる相手。

「間違いなくオレが一番気になる相手はこころだ」

 絶対にその存在を無視できない相手。ある意味で俺の写し身。……初めての人。

「それでも……オレが一番愛しているのは雪奈。お前だ」

 選ばれただけだとしても。ただ流されただけの結果だとしても。その中で生まれたこの感情はけして嘘じゃない。

「……うん。知ってる。お兄ちゃんが浮気性だってことも。お兄ちゃんが私のこと本気で大事にしてくれてることも。……そのどっちもがお兄ちゃんだって」

「……ほんと、なんでお前はオレなんて選んだかね」

「きっとお兄ちゃんしかいなかったんだよ。私の周りにいたお兄ちゃんが」

「そっか……なら仕方ないな」

 もしかしたら、雪奈も別にオレを選んだわけじゃないのかもしれない。けれど……。

「でも、お兄ちゃんが私のお兄ちゃんでよかったって思うよ」

 結局今ここにあるものは何も変わらない。



「それじゃ、行くか」

 少年は手を差し伸べる。どこか歪んだ物語を終わらせるために。


「うん」

 少女はその手をつかむ。自分が何よりも求めた日々を始めるために。













「……本当に馬鹿な兄妹」


 歪んだ物語は終わり始まるのは単なる日常。彼ら彼女らが求めた何もない日々。



 きっと普通の物語。





ここまで読んでいただきありがとうございました。

俊行と雪奈。その周囲の人達が幸せであることを願って終わりの挨拶にさせていただきます。


感想等ありましたら気軽にどうぞ。

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